オーストラリアに無料スーパー シドニーに続きメルボルンにも
オーストラリアのメルボルンに「無料スーパーができた」と、米国のABC Newsが報じている(2018年7月24日付)。
シドニー無料スーパー開店のニュースは国内メディアが次々報道
2017年にはオーストラリアのシドニーに、世界初の「無料スーパー」が開店し、話題になった。2017年7月9日付の朝日新聞東京版朝刊6面で報じられている。
シドニーの無料スーパーに関しては、新聞社では、朝日新聞が報じたのち、通信社が配信したようだ。朝日新聞の記事の3ヶ月半後に中国新聞が報じ(2017年10月29日付)、そのほか西日本新聞(2017年10月31日付朝刊)、熊本日日新聞(2017年11月2日付夕刊)、信濃毎日新聞(2017年11月4日付夕刊)、東奥日報(2017年11月10日付夕刊)、愛媛新聞(2017年11月21日付朝刊)が同じ内容で掲載している(日本最大級のビジネスデータベースサービス「G-Search」による)。
紙媒体だけでなく、Yahoo!Newsはじめ、数々のオンラインメディアでも取り上げられた。
オーストラリア初!廃棄食品を救うスーパーマーケットとは(MOVE 2017年9月11日付)
メルボルンの無料スーパーを取り上げたのは英字紙のみ
今回のメルボルンの無料スーパーに関しては、筆者がG-Search(日本最大級のビジネスデータサービス)で検索した限り、国内のマスメディアは、特に取り上げてはいないようだ。
栄養価の高い果物・野菜にフォーカス
記事によると、この無料スーパーは、メルボルンの北部にある、非営利の食料雑貨店。
プロジェクト・コーディネーターのAstrid Ryan(アストリッド・ライアン)さんは、次のように述べている。
シドニーの無料スーパーでも野菜や果物は取り扱っているが、ここは野菜や果物に重きを置いているようだ。
食料を必要とする人・経済的困窮者は野菜の摂取量が少ない
確かに、食料を必要とする人たちは、野菜や果物などの摂取量が少ない傾向がある。
日本でも、厚生労働省が毎年実施している国民健康・栄養調査で、収入の少ない人は、野菜の摂取量が少ないという結果が得られている。限られたお金でお腹を満たそうとすると、野菜や果物より、炭水化物や揚げ物などを優先しがちだ。
平成22年度の国民健康・栄養調査では、野菜摂取量が、男女とも、所得が200万円未満と200〜600万円未満の世帯で少なかったという結果が得られている(「結果の概要」p52より)。
同様の結果は平成26年度の国民健康・栄養調査でも得られている。野菜類および肉類の摂取量が、所得が600万円以上の世帯員と比較し、200万円未満と200〜600万円未満の世帯員で(統計的に)有意に少なかったという結果だった(「結果の概要」p32より)。
このような傾向は他の先進国でも見られ、メルボルンの無料スーパーが野菜や果物に集中しているのは、実態に即している。
パン屋から寄付されるパンやスーパーから寄付される加工食品なども
メルボルンのこの無料スーパーでは、野菜や果物の他、パンや加工食品も扱っている。パンは近所のパン屋さんから寄付され、ほかのものはプレストンマーケットやAldi(アルディ)から寄贈されるとのこと。
オーストラリアでの食品廃棄は年間200億ドル相当、シドニーでは一世帯あたり年間86,000円分の食品を捨てている
記事ではRMIT University(RMIT大学)の廃棄物の専門家であるKarli Verghese氏が、「オーストラリアの食料廃棄は年間200億ドル」で「そのうち半分が家庭から」と発言している。
2017年7月9日付の朝日新聞の記事では、シドニーの調査結果によると、一世帯あたり、年間1036豪ドル(約86,000円)に相当する食品を捨てているそうだ。
日本でも、京都大学の試算で、一世帯4人あたり、年間6万円相当の食品を捨てているというデータがあり、オーストラリアの世帯あたりの廃棄金額に近い。
社会貢献精神の高いオーストラリア
筆者はオーストラリアへ渡航したことはないが、14年5ヶ月勤めていたグローバル食品メーカーでは、オーストラリア在住で、オーストラリアの拠点で働く女性の同僚と、インターネット上では毎月、海外での会議などで数年おきに直接会っていた。
中でも印象に残っているのは、2011年3月11日の東日本大震災の直後のことだ。未曾有の大震災は世界で報道され、タイや韓国、オーストラリアから、製品を支援物資として提供しようという連絡が次々きた。
中でも早かったのがオーストラリアだった。震災から数日後の2011年3月14日(月)か15日(火)ごろには、エクセルの表で、どの製品を何ケース寄贈することができるかの数量と、荷姿などがまとまった情報がメールで届いた。その時に何度もやり取りした元同僚の女性は、企業の公式サイトにも載っている(MEET OUR LEADERS, Kellogg Australiaのトップ画像、左から2番目の黒い洋服を着た女性。その下の動画でも登場している)。
このような体験から、オーストラリアは、社会貢献の精神が自然な形で浸透しているように感じている。
前述のシドニーの無料スーパーでも、10名のスタッフは全員ボランティアで、スーパーの家賃や光熱費は、趣旨に賛同したビルのオーナーの厚意で無料だそうだ(朝日新聞 2017年7月9日付記事より)。
このようなオーストラリアの取り組みを、どの国でも同様にできるというわけではないだろうが、先進的事例として、オーストラリアの食品ロス削減に対する取り組みに注目していきたい。
参考資料:
2018年7月24日付 ABC News (By James Oaten)
'Free' supermarket opens in Melbourne to cut food waste
オーストラリア・シドニーの無料スーパー「オズハーベストマーケット」の公式サイト
追記(2018年8月22日9:00am)
記事中、「日本のマスメディアが紹介していない」と書いたが、Facebookの「Zero Waste Japan Network」を通じて、オンラインメディアの「NTD JAPAN」が動画付きで報じていることを知ったため、リンクを貼っておきたい。
【動画】廃棄処分される食べ物を減らそう オーストラリアに「無料スーパー」誕生 (NTD JAPAN 2018年8月17日付)