パワーxスピード ア・リーグ1位の大谷を抑えて、メジャーで最もパワーとスピードを兼ね備えているのは?
メジャーリーグではパワーとスピードを兼ね備えた選手を評価するのに、本塁打数と盗塁数を使う。
最も広く知られているのは、シーズン40本塁打/40盗塁を達成した選手に与えられる称号である『40/40』。
1988年にホゼ・カンセコ(オークランド・アスレチックス)が42本塁打、40盗塁を記録して、メジャー史上初めて「40/40」を達成した選手となった。
エリートの証である『40/40クラブ』のメンバーは4人だけ。
『40/40クラブ』
ホゼ・カンセコ(アスレチックス)42本塁打、40盗塁、1988年
バリー・ボンズ(ジャイアンツ)42本塁打、40盗塁、1996年
アレックス・ロドリゲス(マリナーズ)42本塁打、46盗塁、1998年
アルフォンソ・ソリアーノ(ナショナルズ)46本塁打、41盗塁、2006年
『30/30クラブ』
シーズン30本塁打、30盗塁の『30/30クラブ』は、『40/40クラブ』に比べると遥かにハードルは低く、これまでに41選手が達成。
初めて達成したのは、1922年に39本塁打、37盗塁を記録したケン・ウィリアムズ(セントルイス・ブラウンズ)で、ウィリー・メイズ(サンフランシスコ・ジャイアンツ)が1956年に36本塁打、40盗塁を記録するまでは唯一の『30/30クラブ』メンバーだった。
最多達成回数はバリー・ボンズとボビー・ボンズのボンズ親子がそれぞれ達成した5回。
ボンズ父はジャイアンツ、ニューヨーク・ヤンキース、カリフォルニア・エンゼルスの3球団で「30/30」を達成。1978年にはシーズン途中にシカゴ・ホワイトソックスからテキサス・レンジャーズへ移籍しているが、この年も31本塁打、43盗塁で自身5度目となる「30/30」に到達した。
息子のバリーも「40/40」1回を含む、5度の「30/30」を達成している。
親子で達成したのもボンズ親子だけだが、今年のオールスターゲームに選ばれたブラディミール・ゲレーロJr.(トロント・ブルージェイズ)の父、ブラディミール・ゲレーロはモントリオール・エクスポズ時代に2度達成。ゲレーロJr.のチームメイトのボー・ビシェットの父、ダンテ・ビシェットもコロラド・ロッキーズ時代に1度達成している。
ちなみに、日本プロ野球では30本塁打、30盗塁、3割を打った打者を「トリプルスリー」として特別視するが、メジャーでは「トリプルスリー」の概念はない。
もう1つのパワーxスピードの指標『PSN』
「セイバーメトリクスの父」ことビル・ジェームズ氏は、パワーとスピードを兼ね備えた選手を評価するデータとして、「パワー・スピード・ナンバー(PSN)」を編み出している。
PSNの公式は、
(2x本塁打x盗塁)÷(本塁打+盗塁)
で求める。
メジャー史上で最も高いPSNを記録したのは、1998年のA-ロッドで、42本塁打、46盗塁のPSNは43.9だった。
「40/40」達成シーズン以外で、PSNが最も高かったのは、1987年のエリック・デービス(シンシナティ・レッズ)で、37本塁打、50盗塁のPSNは42.5。これは歴代3位となり、カンセコとボンズが「40/40」を達成した年のPSN(41.0)よりも高かった。
ちなみに歴代4位は28本塁打、87盗塁を記録した1986年のリッキー・ヘンダーソン(ヤンキース)で、PSNは42.4だった。
PSNは本塁打と盗塁の両部門の数字を伸ばさないと上がらないようになっている。
ヘンダーソンがメジャー記録のシーズン130盗塁を達成した1982年は、10本塁打だったためにPSNは18.6と平凡。ボンズがシーズン73本塁打を放った2001年は、13盗塁だったのでPSNは22.1で、歴代500位にも入っていない。
PSNの説明が終わったところで、本題に入ろう。
今季のPSNを見てみると、アメリカン・リーグ1位は33本塁打、12盗塁で、PSN17.6の大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)。
ア・リーグ2位は16本塁打、16盗塁でPSN16.0のセドリック・マリンズ(ボルティモア・オリオールズ)。大谷はマリンズの倍以上の本塁打を放ち、盗塁の差は4つしかないのに、PSNは1.6しか開いていない。これがPSNの難しさで、どちらか1つの数字が秀でていてもダメで、両方を均等に増やしていかないとならない。
父親が「30/30クラブ」メンバーのゲレーロJr.は、30本塁打を放ちながらも、盗塁は2なのでPSNは3.8しかない。
今季ここまで最もPSNが高いのは、28本塁打、22盗塁でPSN24.6のフェルナンド・タティースJr.(サンディエゴ・パドレス)。
タティースはナショナル・リーグで本塁打と盗塁の両部門でトップに立っており、史上5人目となる「40/40クラブ」入りも狙える位置にいる。
89年ぶりの本塁打と盗塁の2冠王は誕生するか?
メジャーリーグの歴史の中で、本塁打王と盗塁王のタイトルを同時に手にした2冠王は、3度しかいない。
1903年のジミー・シェッカード(ブルックリン・スーパーバス、9本塁打、67盗塁)、1909年のタイ・カッブ(9本塁打、76盗塁)――この年のカッブは首位打者、打点王にも輝き、メジャー唯一の4冠王になっている――、そして1932年のチャック・クライン(フィラデルフィア・フィリーズ、38本塁打、20盗塁)の3人だ。
メジャーリーグの野球はこの90年間で大きく変わってきており、より専門性の高い選手が増えている。そんな中で、タティースJr.は89年ぶりの偉業にチャレンジをしようとしている。
現代のメジャーリーグでは、本塁打王と盗塁王の2冠王は、「40/40クラブ」に入るよりも難しい。
タティースの前に壁として立ちはだかるのは、今季メジャー3位のPSN18.4を記録しているトレイ・ターナー(ワシントン・ナショナルズ)だろう。ターナーはここまで17本塁打、20盗塁。ホームランの自己最多は19本なので、タティースを脅かすことはないが、ターナーはシーズン40盗塁以上を2度記録しており、2018年には盗塁王のタイトルを獲得している。
本塁打争いでは25本でナ・リーグ2位のカイル・シュワーバーは欠場中で、24本でナ・リーグ3位のロナルド・アクーニャJr.はケガで今季終了。ナ・リーグのホームラン王争いはタティースJr.が独走しそうだが、盗塁王争いはターナーと熾烈な争いを繰り広げそうだ。