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梅雨のような停滞前線から秋雨前線のような停滞前線へ 暑さは9月とともに様変わり

饒村曜気象予報士
暑がる日本人ビジネスマン(写真:アフロ)

令和3年(2021年)の梅雨明け

 春と夏との境目である梅雨は、夏に向かって太平洋高気圧が勢力を増し、日本付近で梅雨前線が停滞したのち、北上して夏になります。

 令和3年(2021年)は、沖縄・奄美地方と四国を除いて、平年より早く梅雨明け(速報値)を発表しています(表)。

表 令和3年(2021年)の梅雨明け
表 令和3年(2021年)の梅雨明け

 とは言っても、太平洋高気圧が勢力を強めての梅雨明けではなく、梅雨前線がはっきりしなくなっての梅雨明けです。

 関東甲信地方の梅雨明けは、7月16日と発表されましたが、東京で0.5ミリ以上の雨が降り続いていたのは10日までです。

 7月11日以降は、0.5ミリ以上の雨が降っておらず、地上天気図から梅雨前線が消えていましたが、大気が不安定となり、局地的に雨が降っていたので、梅雨明けの発表が遅れました。

 このため、梅雨明けしたといっても上空に寒気が流入しやすく、大気が不安定となって局所的な豪雨が続いていました。

 強い日射によって暑い日が続きましたが、夏にはなりきっていなかったということもできるでしょう。

 まもなく、梅雨に関する統計(確定値)が発表となりますが、速報値をどうするのか、予報官はかなり悩む令和3年(2021年)の梅雨であったと思います。

梅雨前線のような停滞前線

 夏と秋の境目である秋雨は、秋に向かって太平洋高気圧の勢力が弱まり、日本付近で秋雨前線が停滞したのちに南下して秋になるというのが典型的なものです。

 立秋(8月7日)が過ぎれば、日本付近の停滞前線を秋雨前線と呼ぶこともできますが、令和3年(2021年)の季節の進み方が例年とは違っています。

 8月中旬に日本付近に前線が停滞しはじめましたが、このときは、秋雨前線というより、梅雨末期に近いものでした。

 太平洋高気圧が強まってきたことから、日本付近で前線の活動が活発となり、南海上から暖かくて湿った空気が流入してきたからです。

 また、このときの日本上空は、梅雨末期のような状態でした。

 このため、西日本北部を中心に梅雨末期のような大雨となり、福岡県と熊本県には線状降水帯が発生し、気象庁は8月12日に「福岡県、熊本県では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています」という「顕著な大雨に関する全般気象情報」を発表しました。

 また、熊本県和水(なごみ)町では、町内を流れる十町川が氾濫する恐れが高まっているとして、町内全域の9835人に危険度が最も高い警戒レベル5の「緊急安全確保」を発令しました。

 このほか、熊本県菊池市や大分県九重町の一部地域でも警戒レベル5の「緊急安全確保」が発令となりました。

 警戒レベルは、台風や豪雨などに際して、その地域の住民が取るべき避難行動を直感的に理解できるよう、気象庁や自治体が災害の危険度を5段階で伝えるものです。

東京の8月は雨が多くて平年並みの気温

 東京の8月は気温が非常に高かった印象がありますが、最高気温が35度以上の猛暑日は、8月10日(36.8度)と26日(35.7度)の2日しかありません(平年の8月の猛暑日は3.0日)。

 平年より気温が高かった期間があった反面、低い期間もあり、平均すれば、平年並みの8月の気温でした(図1)。

図1 東京の最高気温と最低気温の推移(9月1~7日は気象庁、9月8~15日はウェザーマップの予報)
図1 東京の最高気温と最低気温の推移(9月1~7日は気象庁、9月8~15日はウェザーマップの予報)

 ただ、0.5ミリ以上の雨が降った日(図1の日付けの上に黒丸のある日)は14日と、平年の8月の9.4日を大きく上回っています。

 雨の日が多いということは、湿度が高いということであり、体感ではかなり気温が高いと感じる8月だったといえるでしょう。

秋雨前線

 9月に入ると、日本付近に前線が停滞しはじめる予報です(図2)。

図2 予想天気図(9月1日21時の予想)
図2 予想天気図(9月1日21時の予想)

 大陸育ちの秋の高気圧が日本列島に張り出してきたことによる停滞前線ですので、東日本を中心とした秋の長雨をもたらす、典型的な秋雨前線です。

 東京では、9月最初の日の最高気温は26度との予報で、8月最後の日より6度も低い値です(図3)。

図3 9月1日の天気予報(数字は最高気温と前日差)
図3 9月1日の天気予報(数字は最高気温と前日差)

 そして、しばらくは雨の日が続くという予報です。

 東日本では、太平洋高気圧が後退することにより北東の冷たい空気が流れ込みやすくなるので、秋雨前線の活動が活発になり、雨量が多くなる傾向があります。

 このため、梅雨期の雨と秋雨期の雨を比べると、西日本では梅雨期の雨の方が多いのですが、東日本で秋雨期のほうが多くなります。

 秋雨前線が日本付近に停滞している時に台風が南海上から北上してくる場合は、梅雨前線のときと同様に、台風のまわりの湿った暖かい空気が前線の活動を活発にし、特に大雨となることがあります。

 また、まとまった雨量でなくても、雨の日が続くときには、日照不足などで収穫間近の農作物の成育不良や病害虫の発生を招きやすく、このようなときに大雨が降ると、崖崩れなどの災害が頻発するので、注意が必要です。

 9月に入ると気温はすごしやすい値になるのですが、これまで暑い日が続いていましたので、急に寒く感じられる気温かもしれません。

 体調管理が難しい季節です。

 そして、溜まっていた夏の疲れ、夏バテが顕著にでてくる季節でもあります。

 コロナウィルスに負けないよう、十分な睡眠と、出始めた旬な秋野菜による栄養補給で夏バテを乗り切ってほしいと思います。

図1の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ資料をもとに筆者作成。

図2、表の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:ウェザーマップ提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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