新型コロナウイルスとたたかうmRNAワクチン開発に全力疾走する米科学者
1年以内の実用化めざす
米国では、2月23日までに米疾病対策予防センター(CDC)が確認した国内の新型コロナウイルス感染者は35人となった。中国からの帰国者3人、帰国したダイヤモンドプリンセスの乗客のうち18人、そして米国内での発生がカリフォルニア州やイリノイ州など6州に合計で14人だ。
CDCは米国でも新型コロナウイルス感染が広域に蔓延する可能性はあるとして、全米の医療機関や各自治体と連絡を密にして、事前準備を進めている。万が一パンデミックに進展した場合は、学校や職場の閉鎖も必要になる。
一方で、全米の科学者らが全速力で推進しているのが、新型コロナウイルスに対するワクチン開発だ。これまでのワクチン開発は年単位の時間がかかり、パンデミックが終わって何年か過ぎた後に利用可能になるのが普通だった。
しかし今回、NIH(米国立衛生研究所)は、最新の技術と遺伝子工学を駆使した新しいタイプのmRNAワクチンを開発することで、1年以内の実用化を目指し、すでに準備を進めている。
ウイルス感染部位の3Dマップは完成ずみ
2月19日、テキサス大学オースティン校とNIHの研究者らは、新型コロナウイルスの表面にある「スパイクタンパク質」について、初めて原子スケールの3Dマップを作成した。このスパイクタンパク質がヒトの細胞に結合して感染するので、3Dマップはワクチンを開発する上で、重要な一歩となる。
コロナウイルス自体は目新しいものではない。ヒトに発熱や呼吸器障害を起こすのは6種類のコロナウイルスで、一般の風邪や、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)の原因になる。(注1)
同研究チームは、長年、コロナウイルス科のウイルスを研究してきた。武漢での感染拡大直後に中国の研究者から公表された新型コロナウイルスの遺伝情報を研究し、最先端の技術を駆使することにより、最速でスパイクタンパク質の3Dマップの作成にまでこぎつけた。(注2)
ウイルスを使わないワクチン?
従来のワクチンは、ウイルスを化学的に処理して弱毒性あるいは無毒化して作られたもの。ワクチンを注射することで、そのウイルスに対する免疫が体内で作られる。
しかしNIHの米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が取り組んでいる新たなワクチンは、試験室で作り上げた不活性ウイルスではない。タンパク質を作る役割の「メッセンジャーRNA(mRNA)」をワクチンに使い、体内の細胞に抗原タンパク質を作らせ、免疫を獲得するという新しい仕組みのmRNAワクチンだ。
mRNAワクチンは、従来のワクチンと比べ、不活性化ウイルスを作り培養する必要がないので、開発、製造時間を大幅に短縮できる。また、mRNAは基本的にどのようなタンパク質も作ることができるので、ウイルス変異で標的とする抗原が変わっても迅速に対応できる。さらに通常の遺伝子治療のように核内に入れる必要がないので、ゲノムが変異することもなく安全性が高いという。
こうした利点から米国の医薬ベンチャー企業は、感染症のパンデミック対応を含めたワクチンへの活用や、がんの個別化治療に向けてmRNAワクチンの開発に取り組んできた。
新型コロナウイルスに対するワクチンも、NIAIDで開発や動物実験などを行うが、ワクチンの製造に関してはmRNA医薬最大手のモデルナ社(本社、マサチューセッツ)が担当する。NIAIDでは、今春にも第1相臨床試験を実施したいと考えている。
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CEPIのワクチン迅速開発プログラム
このワクチンの開発は、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合、本部:ノルウェー)による新型コロナウイルスに対するワクチンの迅速開発と大規模製造プロジェクトの一つとして、同団体からも支援を受けている。(注3)
CEPIは2017年のダボス会議で 国際協力のもとに設置された。ウォールストリートジャーナルがわかりやすい動画にまとめている。ワクチン研究および開発部長であるメラニー・サーベルさんによれば、同機関はまさに今の新コロナウイルス感染拡大のような状況に迅速に対応する役割を持っているという。
サーベル部長はこの動画の中で、MERSの時はワクチン実用化までに20カ月かかったが、mRNAワクチンは開発製造に最短で16週間という野心的な発言もしている。国際的な協力で、一日も早く新コロナウイルスへのワクチンが完成することを期待したい。
参考リンク
(注1) コロナウイルスとは 国立感染症研究所
(注2) 新コロナウイルスのワクチン開発に役立つ3Dマップを作製 テキサス大学オースティン校
(注3) CEPIのワクチン迅速開発プログラム公募について 厚労省