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がん治療、つらいのは仕方がないと思っていませんか? がんサポーティブケア学会が市民講座

片瀬ケイ在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー
がん治療はいろいろなサポート(支持医療)も受けながら。つらさを我慢せず相談を。(提供:イメージマート)

がん治療を支える医療がある

 1980年代以降、日本でもクオリティー・オブ・ライフ(QOL、生活の質)という言葉が浸透しはじめたが、がん治療に関して言えば90年代になっても、がんを徹底的に叩いて患者の命を救うという考え方が中心だった。例えば抗がん剤の副作用対策や痛みに対する処置も限られていて、ベッドから起き上がれないほどであってもつらい治療に耐えるしかないがん患者のイメージが広がった。

 がん体験は人それぞれで一概には言えないものの、近年のがん治療はこうした何十年も前の状況とは大きく変わってきている。手術や放射線治療でも可能な限り体にダメージを与えないような技法が取り入れられ、薬物療法(抗がん剤治療)でもよく効く吐き気止めをはじめ効果的な副作用対策が用いられている。

 結局のところ、がん治療をするのはライフ(人生)を続けるため。人生とは仕事をしたり、家族の面倒をみたり、趣味や家族、友人との時間を楽しんだりしながら、自立した生活を送ることだ。死なないようにがんをやっつける治療だけでなく、治療中から可能な限りQOLを保てるよう患者を支える「がんサポーティブケア(支持医療)」によって、今では患者が問答無用でつらさに耐えるだけのがん治療ではなくなっているのだ。

 がんの支持医療に取り組む「第9回日本がんサポーティブケア学会学術集会」が5月18日、19日にさいたま市で開催され、19日には後述する無料の市民講座も開かれる。「がんの支持医療」には何が期待できるのか? 

 今学術集会の会長を務める帝京大学医学部内科学講座腫瘍内科の渡邊清高医師に聞いてみた。

 Q がんの苦痛緩和といえば、緩和ケアという言葉を聞きますが、支持医療と違うのですか?

渡邊医師 がんの支持医療とは、がんの症状や治療からくる副作用を予防したり管理したりする医療やケアのことです。これには、身体や心の苦痛を和らげる緩和ケアの側面も含まれています。一方、支持医療には、がん治療に伴うつらい副作用を防ぎ、対応することで、治療の効果を高める目的も持っています。支持医療に関する学際的な活動を行う学術団体として、日本がんサポーティブケア学会(佐伯俊昭理事長)が活動しています。

 Q 支持医療を受けることで、治療の効果があがるのですか?

渡邊医師 支持医療には大きく分けて二つの利点があります。一つ目は、治療に伴うつらい副作用や後遺症を軽減し、患者さんの生活の質(QOL)を維持、向上させるといういわば「守り」の側面です。もう一つは、がん治療の効果を高め、患者さんの予後を改善するという「攻め」の側面です。例えば、副作用で治療を続けることが難しかった患者さんが、吐き気止めや白血球を増やす薬剤を適切に使用することで、標準的な治療が可能になり、治療効果が向上します。

 最近進歩が著しい分子標的治療薬の中には、皮膚障害を起こすものがあり、なかには治療の継続が難しい場合もあります。こうしたときに、適切に専門家の診療を受けることによって、安全に治療を継続することができるようになってきています。

 Q 薬物療法への副作用対策が中心ということですか?

渡邊医師 治療に伴う外見の変化に対応して、スキンケアやウィッグの着用など、外見ケア(アピアランスケア)についても進歩しつつあります。支持医療を適切に受けることで、より治療に積極的になることができるかもしれません。がんの薬物療法を例に挙げましたが、手術や放射線治療にも同じことが言えます。

 リハビリテーションや栄養、運動など、がん治療とは直接関係が少ないと考えられた分野と連携したり、チームとなって医療やケアを届けたりすることで、がん患者さんに加え患者さんを支えるご家族など支援者の方にもよい効果をもたらすことが期待されます。

 Q 支持医療はどこで受けられるのですか?

渡邊医師 支持医療を受けるための特定の診療科があることはあまりなく、普段のがん診療を受けている医師や看護師、薬剤師などに、何か心配なことや不安なことがあったら伝えてみるとよいと思います。これから受けようとしている治療について、治療に伴う副作用や後遺症について、どんな些細なことでもよいので、担当医など医療者に尋ねてみるとよいでしょう。これから行われる治療において、どんな支持医療が行われるのか、何か自分でできることや心掛けておくことはないか、聞いてみるのもよいかもしれません。

 お金のことや仕事との両立のこと、食事と栄養のこと、治療が一段落したあとの普段の生活のことなど、治療と直接関係ないと思われることについても、患者さんやご家族にとっては大事な問題です。医療ソーシャルワーカーや社会労務士など、専門の職種と連携したり、情報を共有することで、安心して治療を続けたり、治療後の療養生活を送ることができるような仕組みが、お住まいの地域で広がってきています。困ったことや不安なことを、気軽に声に出して伝えられるようにしていくこと、医療者からも、声を掛けてお話しいただきやすいような関係をつくっていくことが、ご自分に合った支持医療につながる第一歩になります。

全国から子どもと学べる市民講座

 第9回日本がんサポーティブケア学術集会では、市民公開講座もさいたま会場およびオンライン(Zoomウェビナー)で、5月19日(日)の午後4時から5時半まで開かれる。第1部では主に小・中学生向けに渡邊医師が「がんについて」、そして忽那賢志・大阪大学大学院医学系研究科感染制御学教授が「感染症について」わかりやすく説明してくれる。

 第2部では、「がん医療のこれまでとこれから」をテーマに、がん治療やがん支持療法の進歩について渡邊医師、そして胃がん患者会「希望の会」理事長の轟 浩美さんが講演を行う。

会場参加、オンラインとも無料だが、5月18日までに事前申し込みが必要。がんや感染症は誰もが罹る可能性のある病気であり、子どもの頃から正しく理解しておきたいもの。オンラインなら気軽に自宅から聴講できるので、ぜひお子さんと一緒に学んでみてはどうだろうか。

参考リンク

市民公開講座|第9回日本がんサポーティブケア学会学術集会

誰でも無料で、匿名でも利用できるがんに関する質問・相談窓口「がん相談支援センター」

在米ジャーナリスト、翻訳者、がんサバイバー

 東京生まれ。日本での記者職を経て、1995年より米国在住。米国の政治社会、医療事情などを日本のメディアに寄稿している。2008年、43歳で卵巣がんの診断を受け、米国での手術、化学療法を経てがんサバイバーに。のちの遺伝子検査で、大腸がんや婦人科がん等の発症リスクが高くなるリンチ症候群であることが判明。翻訳書に『ファック・キャンサー』(筑摩書房)、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)、『夫婦別姓』(ちくま新書)、共訳書に『RPMで自閉症を理解する』(エスコアール)がある。なお、私は医療従事者ではありません。病気の診断、治療については必ず医師にご相談下さい。

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