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インフルエンザワクチン接種開始 今年は流行ってないけど打った方がいい?

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

本日10月1日から、季節性インフルエンザ(以下インフルエンザ)のワクチン接種が順次開始されます。

インフルエンザのワクチンを接種した方が良いのは、どのような方でしょうか?

また今年は例年と比較してインフルエンザ患者数が激減していると言われていますが、それでもインフルエンザワクチンを接種した方が良いのでしょうか?

インフルエンザワクチンは感染予防、重症化予防の効果がある

私は毎年患者さんにインフルエンザワクチン接種をお勧めしていますが、ときどき「インフルエンザワクチンを打ってもどうせインフルエンザには罹るから毎年打っていない」とおっしゃる方がいらっしゃいます。

確かにワクチンを接種してもインフルエンザになる方はいらっしゃいますが、ワクチンを打っていないヒトよりもインフルエンザにはなりにくいことが分かっています。

例えばですが、ワクチンを打っていない集団300人と打った集団300人とを比べた場合に、その年最終的にワクチンを打っていない集団では100人がインフルエンザに罹ったけど、ワクチンを打った集団では40人しかインフルエンザに罹らなかったという場合に、この60人の差がワクチンの効果ということになります(数字は例えです)。

一人ひとりはワクチンの効果を実感しにくいこともありますが、広い目で見ればワクチンには間違いなく予防効果があります(年によって効果のばらつきはありますが)。

また、インフルエンザワクチンは接種することによって、罹ったとしても重症化を防ぐことができます。

10月からインフルエンザワクチンの接種が全国の医療機関で順次開始されますが、特に重症化するリスクの高い高齢者、妊婦さん、ステロイドなどの薬を飲んで免疫が弱っている方などはインフルエンザワクチンを接種することが強く推奨されます。

特にワクチン接種が推奨されるのは以下のような方々です。

インフルエンザに罹ると重症化しやすいためワクチン接種が強く推奨される方

・2歳未満の小児

・65歳以上の高齢者

・呼吸器・心血管・腎・肝・血液・代謝内分泌(糖尿病含む)・神経筋疾患などの慢性疾患を持つもの

・免疫不全者(免疫抑制剤使用、HIV等を含む)

・妊娠中・出産2週間以内の女性

・19歳未満でアスピリン長期使用者

・著明な肥満(BMI>40の成人、またはBMIが2.33SDを超える小児)

・介護施設や慢性期病棟の入所者

米国疾病予防管理センターの推奨(MMWR Recomm Rep 2013; 62:1.)を基に筆者作成

今シーズンは例年と比べインフルエンザの患者数が少ない

現在、世界的にインフルエンザの患者数が減少していると報告されています。

例年日本が夏のときに流行のピークを迎えるオーストラリアでも、今シーズンはインフルエンザが激減しています。

2017~2020年各シーズンの4~8月におけるオーストラリアでのインフルエンザの検査を受けた検体数と陽性率(MMWR 2020;69:1305-1309.)
2017~2020年各シーズンの4~8月におけるオーストラリアでのインフルエンザの検査を受けた検体数と陽性率(MMWR 2020;69:1305-1309.)

日本と同じ北半球のアメリカでも、例年と比べて、インフルエンザ患者数が非常に少なくなっています。

日本でも今年の1月〜3月は例年よりもインフルエンザの患者数が非常に少なくなっていました。

昨シーズンおよび過去のインフルエンザの流行(doi:10.1001/jama.2020.6173より)
昨シーズンおよび過去のインフルエンザの流行(doi:10.1001/jama.2020.6173より)

現在も日本国内では例年と比べてインフルエンザ患者が少ない状況が続いていることが、厚生労働省から発表されています。

それでもインフルエンザを接種した方が良い理由

では、今年はインフルエンザ患者数が少ないから、ワクチンを打たなくても大丈夫かと言うと、そうではありません。

その理由はいくつかありますが、まず「今インフルエンザが少ないからといって、冬もこのまま少ないとは限らない」ということが挙げられます。

今年インフルエンザが少ないのは、私たちの新型コロナ対策が奏功していることもあると考えられますが、もう一つは国と国との間の人の往来が減ったことも要因として考えられます。

10月から入国者の制限が緩和されることで、新型コロナの増加も懸念されますが、インフルエンザの増加も同時に懸念されます。

インフルエンザが増加することを想定して、備えておく必要があると考えます。

また、インフルエンザの患者が増えると、医療機関への負担も大きくなります。

少なくとも発症してからしばらくは新型コロナとインフルエンザはよく似た症状を示すため、症状だけではインフルエンザと新型コロナを区別することは困難です。

またインフルエンザと新型コロナを同時に検査するためには鼻の奥に綿棒を挿入し検体を採取する必要があります。

検体を採取する際には飛沫を浴びるリスクもあるため、インフルエンザと診断がつくまでは新型コロナと同様の感染対策が必要になります。

ですので、インフルエンザ患者が増えると、それだけ医療従事者は新型コロナに対応した個人防護具の着用が必要になり、これまでのインフルエンザシーズン以上の負担が予想されます。

医療現場の負担をできるだけ減らすためにはインフルエンザを可能な限り流行させないように、インフルエンザワクチンの接種率を高める必要があります。

インフルエンザワクチンの接種はコロナにも良い影響を与えるかもしれない

インフルエンザワクチンは、もしかしたらですが、新型コロナにも良い影響があるかもしれないという研究も出てきています。

65歳以上の高齢者では、インフルエンザワクチン接種をしていた方が、新型コロナによる死亡も減る」というアメリカでの研究が(査読前ですが)掲載されています。

また、現在冬を迎えている南半球(ブラジル)からは、(これも査読前ですが)インフルエンザワクチンの予防接種を受けていた人は、そうでない人よりもインフルエンザだけでなく、新型コロナ感染症による重症化リスク・死亡リスクが減った(死亡率が17%減少)という研究もあります。

この原因についてはまだ明らかではありませんが、「BCGワクチンが新型コロナに有効かもしれない」という話と同様に、インフルエンザワクチンが免疫そのものを強化する作用があるのではないかと考察されています。

新型コロナの予防目的にインフルエンザワクチンを接種する、というのは現時点ではやりすぎですが、頭の片隅に置いておいても良いかもしれません。

ハイリスクの人から優先的に接種を

今シーズンは過去5年間で過去最大の約6300万人分のワクチンが供給される予定です。

接種を希望する人のほとんどに行き渡ることが見込まれています。

厚生労働省は、ハイリスクである高齢者から優先的にインフルエンザワクチンを接種するように依頼文書を発出しています。

「季節性インフルエンザワクチン 接種時期ご協力のお願い」厚生労働省
「季節性インフルエンザワクチン 接種時期ご協力のお願い」厚生労働省

個人的には、2歳未満の小児や妊婦さんは最初から接種した方が良いように思いますが、いずれにしてもインフルエンザの流行シーズンは12月以降になることがほとんどですので、11月中に接種を完了すれば問題ありません。

ワクチン接種のために一斉に医療機関を受診すると混乱が生じる可能性もありますし、最終的には希望者は全員接種可能であることが見込まれているため、このように接種の順番を決めること自体は問題ないのではないかと思います。

またこのような重症化しやすい方と一緒に住んでいる人、接する頻度の高い人も自分の家族や大事な人にインフルエンザをうつさないためにワクチン接種が推奨されます。

ワクチンには自分がワクチンを接種することによって自分だけでなく周りの人を守る効果もあり、インフルエンザでもこの効果が示されています。

自分のためだけでなく、自分の家族や大事な人を守るためにもインフルエンザワクチンを接種しましょう!

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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