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日本IBMはなぜリストラ裁判で負け続けるのか

城繁幸人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

先日、日本IBMに対して、低成績を理由とした従業員の解雇が無効であるとの判決が下されました。同社は10年以上前から同様の判決を複数出されており、「日本では正社員の解雇が事実上不可能である」ことを示す格好のサンプルとなっています。

【参考リンク】日本IBMの解雇は無効 東京地裁「権利の乱用」

良い機会なので、日本におけるリストラについてまとめておきましょう。

なぜ日本IBMは負け戦を繰り返すのか

外資系企業と言えど、日本の法律には従わねばならず、終身雇用の縛りは彼らにも適用されます。※

そこで日本IBMとしては、合法的に解雇が出来る“終身雇用の穴”を探すために、裁判を繰り返しているのだと思われます。かくかくしかじかの条件を満たしていれば解雇は認めますよという判例ですね。

ただし、筆者の経験でいえば、そうした“穴”を事前に見出すのは容易ではないでしょう。筆者自身、地裁の判事に解雇の認められる条件について意見を求めたこともありますが「新人を採用していないこと」「赤字であること」といった厳しい条件にくわえ「大手ほど厳しく判断する」といったアナログな条件を聞かされ驚いた経験があります。

つまり、会社や年度や裁判官によって基準が変わるため、実際に裁判をやってみないと解雇コストは予測できないということですね。

日本企業はなぜ法廷で争わないのか

ところで、他の日本企業はなぜ日本IBMのように裁判に持ちこまれるケースが少ないのでしょうか。それは、一般的な日本企業は解雇ではなく、追い出し部屋などの仕組みを使い自己都合退職や早期退職に手を挙げさせているためです。終身雇用という建前を守るために、追い出し部屋という本音を上手く使っているわけですね。

追い出し部屋と言っても文字通り圧迫して自己都合退職に追い込むものから、日がな一日転職活動をさせたり、全社のオフィス備品補充をやらせる会社まで幅広く存在します。いずれも実質的な役割を与えないことで精神的に追い込むのが狙いですね。

日本IBMは悪か

では「おまえは仕事できないからクビだ」というある意味アメリカンなやり方で“無効解雇”を繰り返す日本IBMは悪なんでしょうか。彼らも考えを改め、建前と本音を使い分けるべきなんでしょうか。

個人的な意見を言わせてもらうと、筆者自身、ねちねち会社から追い込まれる過程で神経を病んでしまった人を何人も見ているので、日本式のやり方を真似しろとはとても言う気にはなれませんね。むしろどんな企業でも一定の手続きを踏めばいつでも解雇できるようルールを明文化した方が、会社も労働者も共に幸せになれるように思います。

人手不足が叫ばれ、空前の売り手市場が出現する今こそ、流動性のメリットに目を向けるべきでしょう。

※外資系企業の多くは最初から終身雇用前提ではない職務契約や賃金体系を採用しているため裁判沙汰になるケースは稀です。ただし争う余地がないわけではありません。

人事コンサルティング「株式会社Joe's Labo」代表

1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。08年より若者マニフェスト策定委員会メンバー。

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