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「加害者家族」支援を宣言した関東弁護士会連合会の大会とシンポジウムは歴史的出来事だ

篠田博之月刊『創』編集長
関東弁護士会連合会のシンポジウムと定期大会(筆者撮影)

関東弁護士会連合会の歴史的取り組み 

 2023年9月29日、「加害者家族」支援をめぐる関東弁護士会連合会のシンポジウムと定期大会が埼玉県浦和市で開催された。「加害者家族」という概念自体が新しく、まだなじみのないものだが、その問題に弁護士会が本格的に取り組むことを宣言したのは歴史的な出来事と言ってよい。   

 これまで家族内で犯罪を犯した者がいると、その家族までもが社会的バッシングを受けることが多かった。それは日本社会がいまだに「個」が確立しておらず、「家」単位で考えられることが多いという社会構造によるものだ。

 例えば親が殺人を犯した場合は、事件当時何も知らなかった子どもまでもが一生、バッシングにさらされるといった風潮が一般的だ。

 この「加害者家族」については既にヤフーニュースに2本の記事を書いている。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/70caf0ce2a067f67c9658235f9246cca7b14d913

弁護士会が取り組もうとしている「加害者家族」支援めぐる動きは歴史的な出来事かもしれない

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9f17757ebf96fbf8f95ea37b661e553570084df3

「加害者家族」支援に本格的に取り組む契機?9月29日の関東弁護士会連合会のシンポと大会

日弁連小林会長も最前列で

 9月29日のシンポジウムで私はパネリストを務めた。パネリストは私のほかに、袴田事件をずっと取材してきて、今度『拳と祈り 袴田巖の生涯』というドキュメンタリー映画を完成させた(全国公開は来年)笠井千晶さん(元静岡放送)、それに大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳さん(精神保健福祉士)だった。

 笠井さんは、袴田ひでこさんとの長いつきあいを通して、弟の巌さんへの姉の支援について語り、斉藤さんは「性犯罪と加害者家族」と題して、性犯罪加害者とその家族について、アンケート調査なども披露しながら話した。

 3人が10分ずつプレゼンした後、加害者家族支援に取り組んでいる山形県弁護士会の遠藤凉一弁護士をまじえて討論を行った。

シンポジウム。右3人の中央で発言中なのが筆者(関係者撮影)
シンポジウム。右3人の中央で発言中なのが筆者(関係者撮影)

 会場には日弁連の小林元治会長も最前列に座って熱心に話を聞いていた。この間、袴田事件の会見など多くの場面で小林会長が前列に座って話すのを私が客席で聞いているという関係だったのが、今回は逆でいささか恐縮した。

 私は被害者家族の事例報告と、弁護士会が取り組むとしてすぐにできるのは事件の初期対応、特にメデア対応ではないかという提案を行った。

 山形県弁護士会の遠藤弁護士の話を聞くのは、月刊『創』10月号でオンラインインタビューして以来だ。「加害者家族は被害者である」と言い切ってしまうところや、もともと被害者支援をやっていたという話など、シンポの前の基調講演を含めて興味深く聞いた。

午後の定期大会で採決。再審法改正も

 シンポジウムはもう1年近くかけて準備してきたもので、その成果は『刑事加害者家族の支援について考える』という冊子で当日配布された。冊子といってもA4サイズ190ページもの大部の労作で、中身もしっかりしている。

 そのほか用意したパワポをスクリーンに映した、その画面をカラー印刷したものも会場で配布された。

 会場にはオウム元教祖の三女、松本麗華さんも来ていた。『創』を読んでシンポジウムのことを知り、シンポジウム委員会に自ら連絡してきたのだという。

 午後から行われた定期大会では、「刑事加害者家族の支援に向けた宣言」が提案され、討論の後に採択された。反対意見も出て議論になるかとも思ったが、基本的に賛成の立場から、「刑事加害者家族」という呼称についての意見など、3人の弁護士から意見が述べられた。

 私は事前に認識していなかったのだが、実はその大会では、その後に「えん罪被害者の迅速な救済と尊厳の回復を可能とするため、刑事再審法の速やかな改正を求める決議」も討論のうえで採択された。鴨志田祐美弁護士や私も一緒に取り組んでいる、いわゆる再審法改正を求める大会決議だった。

 重要な宣言が採決された大会だったわけだ。

地元局・テレビ埼玉の報道とそれへのコメント

 シンポジウムの様子は、その日のうちに地元のテレビ埼玉がニュースで報じた。その報道内容がホームページにアップされており、動画も観られる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/186559286a9b9a4a0ceb28487e338362537f3768

 そのテレビ埼玉の報道を紹介したヤフーニュースの画面を見ていたら、ニュースに多くのコメントがついている。そしてその中にこういうものがあった。

《犯罪被害者です。住んでる地域の弁護士会が信じられなくなるほどの大ショックです。加害者家族が辛いのは当たり前です。被害者遺族や被害者のほうがもっと辛く苦しい思いをしているに、賠償金も支払わず刑務所に入って罪が消えるとでも考えているんでしょうか。家族間での生活環境も事件の発端であるケースもあるでしょう。何を考えて加害者家族支援するんでしょう。人権ですか?愛する家族を殺されたり傷つけられたりされた犯罪被害者支援が優先だと思います。私は未だに加害者も加害者家族も許せない。被害者ぶった加害者家族が大笑いしている姿を二度と見たくない。》

 なかなかシビアな批判だが、犯罪被害者としては率直な意見だろう。そこで私はその投稿者に向けてこうコメントした。

《9月29日の関東弁護士会連合会の「加害者家族」についてのシンポジウムでパネリストを務めた月刊『創』(つくる)編集長の篠田です。犯罪被害者の方の加害者側より被害者の方がつらい思いをしているのだという指摘、その通りだと思います。ただ、このシンポと大会で議論されたのは、加害者とその家族は区別しなければいけないこともあるということです。親が犯罪を犯した時、子どもは小さくて何も知らないという場合も、親が殺人者という理由でその子が生涯、攻撃を受けたり自殺に追い込まれるような現実があります。これまでは加害者とその家族を一括りにしてバッシングするという風潮があったのを、もう一度考えてみようというのが今回の提案です。でも被害者の方の意見も貴重だし、もっとこの問題で議論が行われるべきと思います。》

 現状では「加害者家族」という言葉にそもそもなじみがないし、いろいろな事例を知って議論を深める以外方法はないと思う。弁護士会が今後、本格的に取り組んでくれるとしたら本当に心強い。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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