“生涯現役”89歳ママが逝去した名古屋の老舗喫茶店「ロビン」。女系3世代で営業継続へ
亡くなる2か月前まで店に立ち“生涯現役”だったママさん
1953(昭和28)年創業の名古屋の老舗喫茶「珈琲家ロビン」。1934(昭和9)年生まれで60年以上店に立ち続けてきた田畑幸子(たばたゆきこ)さんが、2023(令和5)年12月4日、89歳で逝去されました。
「10月に怪我で入院する直前まで店に立っていました。生涯現役で幸せな人生だったと思います」とは孫の相原佑美さん。「珈琲家ロビン」は幸子さんの義父が創業し、2年後に幸子さんが夫の克治さんとともに継承。二人三脚だった克治さんが2015(平成27)年に亡くなってからも幸子さんが店を守り続けてきました。今年は米寿を超え、筆者の知る限り名古屋では現役最高齢の喫茶店のママさんでした。
レトロで品がありアットホームな雰囲気も魅力
「珈琲家ロビン」はマッチ箱のようなかわいらしい外観がまず印象的。ゆるやかな曲線のカウンターに、深紅の革張り&ベロア地のスツールとソファが配される店内にはレトロかつ上品なムードが漂います。幸子さんが早朝5時に店を開け(数年前までは4時から!)、忙しく動き回りながらもどのお客にもおだやかな口調で声をかけてくれていました。また時折、娘、孫、ひ孫も顔を出し、合わせて4世代で出迎えてくれるアットホームな温かさも魅力でした。
筆者が足を運ぶようになったのは10年ほど前。書籍『続・名古屋の喫茶店』のリサーチがきっかけでした。当時、マスターの克治さんは「古いだけでお話しするようなことはないですよ」と取材を固辞していたのですが、SNSを通して孫の佑美さんが間を取り持ってくれ、晴れて紹介することができました。以来、しばしばコーヒーを飲みに足を運んではロビンファミリーと交流を深めてきました。
亡きママさんの跡を継ぎ、家族で店を守る
しかし、およそ2か月にわたって休業が続いた上に店の看板だったママ・幸子さんがお亡くなりに。ロビンはどうなってしまうんだろう…?と常連やファンはママさんの訃報を悼むと同時に、店の往く末を案じていました。そんな折り、思わぬ吉報が。X(旧Twitter)に営業再開のお知らせが投稿されたのです。
幸子さんに替わって店を引き継ぐことになったのは娘の相原満理子さん(71歳)。数年前から母の幸子さんと一緒に店に立っていたので、バトンタッチは自然な流れだったように感じますが、当人にとっては決してそうではなかったといいます。
「ロビンは父と母の店だと思っていたので、自分が継ぐだなんて考えていませんでした」と満理子さん。背中を押したのは離れて暮らす長男だったといいます。「母を送る霊柩車の中で、息子に『店はどうするの?母さんがやるんだろ』といわれたんです。何も考えられない状態だったので『えぇッ!?』と思ったんですが、娘(佑美さん)も支えてくれるというので店を再開することにしました」
営業再開初日となった12月19日。筆者も早速足を運ぶと、店には幸子さんが健在だった頃と変わらないおだやかなにぎわいが。近所に勤める若い常連もいれば、再開を聞きつけて遠方からやって来たという熱心なファンが何人も。コーヒーを介して満理子さんとの会話に花が咲きます。
笑顔とは裏腹に「緊張してずっと足が震えているんですよ」という満理子さん。そんな不安を少しでも軽減するために、営業スタイルは以前より簡素に。営業時間は正午~16時、トーストやサンドイッチはメニューから外して、当面はドリンクのみ提供するといいます。
「母はすごく心配性なので、最初は無理のないやり方でお店を開けてくれればいい。私も娘と一緒に手伝える時はサポートしてあげたいと思っています」と佑美さん。
そんな2人が口を揃えるのは、店への思いとお客への感謝です。
「営業再開の初日から、お客さんが近くからも遠くからも来てくれて、本当にありがたいです。休業してからずっとお客さんのことが気がかりだったので、再開できてほっとしています」(満理子さん)。「祖父と祖母の思いが詰まっていて、私たち家族にとっても大切な場所。できる限り守っていきたいです」(佑美さん)
減少する個人経営の喫茶店。でも斜陽ではない
喫茶店をはじめとする個人経営の小さな店は、どの業界でも減少傾向にあります。特に昭和50年代がピークだった喫茶店は、創業した店主が年齢的にリタイアする時期にあり、チェーン店に取って代わられる流れは今後も止まることはないでしょう。しかし、喫茶店業界そのものが斜陽化しているかというとそんなことはなく、全体の席数はむしろ増加していて(=大型店が増えている)、コーヒーの消費量も確実に増えています。また、近年のレトロ喫茶ブームもあって、古き良き喫茶店に若い世代が目を向けるようにもなっています。
昔ながらの喫茶店が減っているのは、ひとえに後継者問題が要因だといえます。地域に愛されながらも、跡継ぎがいないからとたたんでしまう店が多いのです。昭和の全盛期に比べると外食産業全体の競争も激しくなっているため、子どもには継がせないという店主の声もよく耳にします。しかし、そんな状況下でも家業を継承しようという2代目、3代目には意欲があり勉強熱心な人物が多いことも確か。うまくバトンタッチをして、新たなにぎわいを呼びこんでいる事例も決して少なくはありません。
60年以上にわたって愛されてきた「珈琲家ロビン」も、ゆるやかにバトンがつながれ、末永く地域の人にとって大切な場所であり続けることを願ってやみません。皆さんも名古屋でも屈指の老舗喫茶で、おいしいコーヒーを味わい、おだやかなひとときを過ごしてみてください。
(写真撮影/すべて筆者)