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サプライズ招集はSO前田! ラグビー日本代表候補52名による合宿メンバー争いに注目

斉藤健仁スポーツライター
SO前田(NTTコム)。2回戦でSO田村(キヤノン)と対戦(撮影:斉藤健仁)

4月17日(土)、18日(日)から20チームによりラグビートップリーグのプレーオフ(PO)トーナメントが始まっており、24日(土)、25日(日)には2回戦が行われベスト8が決まるなど佳境を迎えている。

と同時に、新たなラグビー日本代表候補選手たち52名(※4月28日に2名追加されて54名となった)にとっては、5月末に発表される合宿メンバー35名に入るための大きなアピールの舞台にもなっている。

※日本代表候補における「ポスト福岡」に関する記事はこちら

◆2019年W杯以来となる日本代表候補発表!

12日(月)ラグビー日本代表ナショナルチームディレクター(NTD)の藤井雄一郎氏が会見を開き、2019年ラグビーワールドカップ(W杯)後としては初となる、2021年度のラグビー日本代表候補選手が発表された。

今回の日本代表候補は52名(FW29名、BK23名)が発表された。トップリーグの活躍やケガ人の状況を確認し、5月24日に35名に絞る。26日(水)から大分・別府合宿を行って、6月12日(土)に静岡・エコパで強化試合を行う。16日(水)に渡英し、26日(土)にスコットランドで行われるブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ(イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランド代表からトップ選手を選んだ特別選抜チーム)戦に備える。

今回発表された52名の日本代表候補を見ると、2019年W杯の日本代表メンバー21名が中心で、W杯メンバー外で10名が過去テストマッチに出場したことのある「キャップホルダー」の選手、そしてノンキャップ(=0キャップ)が21名となった。

まずジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は日本ラグビー協会を通して「今回のスコッドは、経験値のあるプレーヤーと今後代表でプレーしていくポテンシャルを持つプレーヤーのバランスがうまく取れています。35名の最終スコッドは、5月の決勝が終わってから発表したい」とコメントした。

藤井NTDも「50名強の中にはトップリーグで調子良かった選手、見てみたい選手も含まれている。初選出の選手もいるので、どれくらい強度の高いプレッシャーの中でプレーできるかで見極めていきたい」と話した。

◆新しい日本代表は2019年W杯メンバー21名が中心に

まず52名の選手は、新たな日本代表に入るために、そしてライオンズと対戦するためには、35名参加する別府合宿メンバーに残ることが第一関門となる。

ただ、昨季はコロナ禍で代表活動ができなかったこと、ライオンズと対戦することを考慮すると、当然、2019年W杯でベスト8に入ったメンバーが中心となることは明白だ。

海外で活躍しているNO8姫野和樹(NZ・ハイランダーズ)、WTB/FB松島幸太朗(仏・クレルモン)を含めた21名は当然、ジョセフHC、トニー・ブラウンコーチのラグビーを熟知しているため、ケガか、よほどパフォーマンスが悪くない限り、選ばれる可能性が高い。

残りの31名を見ると、2016年にジョセフHCが日本代表の指揮官に就任して以来、スーパーラグビーのサンウルブズ、19年に特別編成されたウルフパック、NDS(ナショナルディベロップメントスコッド)などを含めてコーチングを受けた選手が多く、その数は19名にのぼる。つまり、ある程度、日本代表のコーチ陣が実力を把握している選手ということになる。

例えば、ノンキャップの若手のSH齋藤直人、CTBシオサイア・フィフィタの2人の若手に関して、藤井NTDは「齋藤(直人)はサンウルブズも出ている。どういう選手かよくわかっている。それを基準に選んでいます。

フィフィタも大学選手権でも活躍したしサンウルブズも出ている。ストレスの中でどれだけできるか。走力もあるし、体も大きい。学年があがるごとに柔軟になってきたので、そのあたりを代表の中で出せるかどうか」と、期待しつつ、どんな選手かすでに知っていることを強調していた。

今回、新たに選ばれた外国人選手に関しては、3年居住の条件(コロナ禍により今年まで。来年から5年居住となる)をクリアしているとのこと。ただしCTB(センター)ディラン・ライリー(パナソニック)のみ、今年の10月に条件をクリアする予定だ。

◆活躍が認められ、ジョセフHC体制下で初めて招集された選手たち

まったくジョセフHC、トニー・ブラウンコーチらのコーチングを受けたことがなく、新しく招集された12名の選手たちは、トップリーグで活躍などを日本代表のコーチ陣が見て「一度、代表で見てみたい」「自分たちのラグビーにフィットするかもしれない」と思った選手ということになろう。

FWでは、PR淺岡俊亮(トヨタ自動車)、森川由起乙(サントリー)、北川賢吾(クボタ)、HOでは中村駿太(サントリー)、彦坂圭克(トヨタ自動車)、バックローではFLジャック・コーネルセン(パナソニック)、No.8テビタ・タタフ(サントリー)、ナエアタ ルイ(神戸製鋼)。

BKはSH小山大輝(パナソニック)、 SO前田土芽(NTTコミュニケーションズ)、CTBライリー(パナソニック)、WTBジョネ・ナイカブラ(東芝)といった選手たちだ。

トヨタ自動車のHO彦坂圭克は「最近、スクラム、ラインアウトが安定してきたので、そういうところ評価されたのだと思います。年齢的にラストチャンスだと思うので、プレーオフで活躍して、次の35人に選ばれるようにがんばりたい」と意気込んでいる。

◆田村、松田に続く3人目のSOには前田(NTTコム)が選出!

他にも気になる司令塔SO=10番のセレクションに関しては、有望な外国人選手の一人が昨年、コロナ禍で帰国してしまい、3年居住の条件をクリアできなかったようだ。

2019年春、ジョセフHCは10番に関して「現状では田村優、松田力也の2人がキープレーヤーだと思っています。山沢もサンウルブズでプレーしていますし、中村(亮土)、立川(理道/クボタ)も10番に起用したことはあります。小倉(順平/キヤノン)も試したことがありますし、(田村)煕(サントリー)、も一度試したことがあります。

全員、見た中ではこの2人は一貫性があり、安定している選手だと思います。でもW杯になって、2人がケガして出られない、不在になる可能性もあるので、次の10番もしっかり機会を与えて、鍛えていきたい、育てていきたいと思います」と話していた。

そんな中、田村、松田と実績のある選手に続いてSOとして選ばれたのは、一番のサプライズ招集となった、今季から司令塔に挑戦しているNTTコミュニケーションズのSO前田土芽だった。

4つの日本代表キャップは、2016年のアジア勢と対戦して得たもので、当時はバックスリーの選手だった。藤井NTDは「SO前田は走力ありますし、何試合か見た中で、プレッシャーの中でもプレーできていたので、あとはテストマッチできるかどうか見極める」と話した。

ブラウンコーチは三洋電機(現パナソニック)の選手時代、チームに入ってきたばかりのHO堀江翔太、SH田中史朗のポテンシャルをすぐに見抜き、両ポジションに当時のチームの中心だった日本代表経験者がいても「もっと起用すべきだ」と訴えて2人を重用した実績がある。

確かに前田は落ち着いてプレーしており、スキルの高さも発揮している。おそらくブラウンコーチのお眼鏡にかなったということだろう。

トップリーグで高いパフォーマンスを発揮しているSO山沢、SH内田啓介(パナソニック)や、LO秋山大地、WTB髙橋汰地(ともにトヨタ自動車)といった若手が選ばれなかったことに関して、藤井NTDは「そこはトニー・ブラウン(コーチ)とジェイミー(・ジョセフ)のやるラグビーにどれだけフィットするかということだったので、選ばれなかったというより、この選手が選ばれたということです」と説明した。

◆プレーオフトーナメントでアピールできるか?

別府合宿メンバーの35名だが、藤井NTDが「ジェイミーの頭の中には(35名は)だいたいある」と話したように、ジョセフHCの中ではほぼ固まっているようだ。ただ、トップリーグで高いパフォーマンスを見せればどうなるかわからない。

いずれにせよ、W杯に出場したメンバーは自チームの勝利に貢献する高いパフォーマンスを発揮し、残りの31名に関しては、別府合宿のメンバー35名入りするために、プレーオフトーナメントからアピールをすることが2023年W杯出場への大きな一歩となる。

いよいよ佳境に入ってきた最後のトップリーグ。試合を楽しみつつ、日本代表候補選手たちの活躍からも目が離せない!

◆2021年ラグビー日本代表候補 54名

☆2019年W杯スコッド ★0キャップ

FW29名

PR

淺岡俊亮(トヨタ自動車、0キャップ)★

稲垣啓太(パナソニック、34キャップ)☆

ヴァル アサエリ愛(パナソニック、14キャップ)☆

垣永真之介(サントリー、9キャップ)※サンウルブズ16&2018年NDS

北川賢吾(クボタ、3キャップ) ※サンウルブズ16 

具智元(HONDA HEAT、13キャップ)☆

中島イシレリ(神戸製鋼、8キャップ)☆

クレイグ・ミラー(パナソニック、0キャップ)★ ※サンウルブズ18-19

森川由起乙(サントリー、0キャップ)★

HO

坂手淳史 (パナソニック、21キャップ) ☆

中村駿太(サントリー、0キャップ)★ 

彦坂圭克(トヨタ自動車、0キャップ)★

堀越康介 (サントリー、2キャップ) ※2019年W杯直前合宿まで参加

LO

マーク・アボット (宗像サニックス、0キャップ)★ ※サンウルブズ19

ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモレッド、16キャップ)☆

長谷川崚太(パナソニック、0キャップ)★※サンウルブズ19

ヘル ウヴェ(ヤマハ発動機、16キャップ)☆

ジェームス・ムーア(宗像サニックス、8キャップ)☆

リアキ・モリ(日野、0キャップ)★ サンウルブズ16-17

FL

小澤直輝(サントリー、4キャップ)※2017年日本代表

ベン・ガンター(パナソニック、0キャップ)★ ※サンウルブズ19

ジャック・コーネルセン(パナソニック、0キャップ)★

松橋周平(リコー、8キャップ)※サンウルブズ17&19

ピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ、8キャップ)☆

リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス、68キャップ)☆

No.8

テビタ・タタフ(サントリー、3キャップ)★

ナエアタ ルイ(神戸製鋼、0キャップ)★

アマナキ・レレイ・マフィ(キヤノン、27キャップ)☆

姫野和樹(トヨタ自動車/ハイランダーズ、17キャップ)☆

BK25名

SH

荒井康植 (キヤノン、0キャップ)★ ※サンウルブズ18練習生&2018年NDS

小山大輝(パナソニック、0キャップ)★

齋藤直人(サントリー、0キャップ)★ ※サンウルブズ20

茂野海人(トヨタ自動車、10キャップ)☆

4月28日追加招集

中嶋大希(NEC、2キャップ)

SO

田村優 (キヤノン、63キャップ)☆

前田土芽(NTTコミュニケーションズ、4キャップ)★

松田力也(パナソニック、24キャップ)☆

WTB

江見翔太(サントリー、0キャップ)★ ※サンウルブズ17&2017年日本代表

ジョネ・ナイカブラ(東芝、0キャップ)★

シオサイア・フィフィタ(近鉄、0キャップ)★ ※サンウルブズ20

中野将伍(サントリー、0キャップ)★ ※サンウルブズ20

松島幸太朗(クレルモン、39キャップ)☆

アタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼、4キャップ)☆

レメキ ロマノ ラヴァ(宗像サニックス、15キャップ)☆

4月28日 追加招集

WTBセミシ・マシレワ(近鉄、0キャップ)★ ※サンウルブズ18-19

CTB

梶村祐介(サントリー、1キャップ) ※19年W杯直前合宿まで参加

シェーン・ゲイツ(NTTコミュニケーションズ、0キャップ)★ ※サンウルブズ19

中村亮土(サントリーサンゴリアス、24キャップ)☆

ディラン・ライリー(パナソニック、0キャップ)★ ※日本代表資格は10月に取得予定

ラファエレ ティモシー(神戸製鋼、23キャップ)☆

FB

尾﨑晟也(サントリー、3キャップ) ※ウルフパック&2018年NDS

野口竜司(パナソニック、13キャップ) ※19年W杯直前合宿まで参加

ゲラード・ファンデンヒーファー(クボタ、0キャップ)★ ※サンウルブズ18-19

山中亮平(神戸製鋼、18キャップ)☆

※なお2019年W杯で活躍したHO(フッカー)堀江翔太(パナソニック)、SH(スクラムハーフ)流大(サントリー)の2人は外れたわけではなく、メンタル的にリフレッシュしたいということで、今回は選外。

他にもLOトンプソン ルーク(元近鉄)は現役を引退、順天堂大医学部に合格し今季で現役を引退するWTB福岡堅樹(パナソニック)は当然、選外となった。

さらにベテランのNO8ツイ ヘンドリック(サントリー)、SH田中史朗(キヤノン)、FBウィリアム・トゥポウ(コカ・コーラ)の3人、2019年W杯メンバーに選ばれたが試合には出られなかったFL徳永祥尭(東芝)、PR木津悠輔(トヨタ自動車)、HO北出卓也(サントリー)の3人の計6人も今回は選ばれなかった。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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