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「”引退”はよぎらない。私はまだできる」元賞金女王・森田理香子がシードを失って気づいた事(後編)

金明昱スポーツライター
今月28日開催の下部ツアーに出場する森田理香子(写真/gettyimages)

「周りの人がいろいろなアドバイスをしてくれて、支えてくれたからがんばろうと思えています。一人だったら鬱(うつ)になっていますよ。日々葛藤、自分との闘いです」

昨季、賞金シードを喪失した2013年賞金女王の森田理香子。クオリファイングトーナメント(QT)ランキングは77位で、今季のレギュラーツアーには限られた試合(10試合前後)にしか出場できない。

「一人だったら鬱になっていた…」元賞金女王・森田理香子がシードを失って気づいた事(前編)

そんな森田の一言には重みがある。試合会場では明るい笑顔を見せてはいるが、さまざまな思いと戦いながら2017年シーズンを過ごしている、というのが本音だろう。どうにかして、今の状況を打破しようと努力し続けている。

「でもやっぱり、焦りは禁物。ただ、今ももちろん、状況が状況なので、落ち着きがないですよね。それでも、ギャラリーやファンの方たちに応援していただけることは幸せなことですし、その気持ちを大事にしていかないといけないと思います。この先、自分もどうなるかわかりません。でも、努力をしてないわけでもない。見てくれている人は見てくれていると信じています。どうしても外野の声には嫌な声もありますし、調子が悪いときは嫌な声しか聞こえなかったりもします。そういうときこそどれだけ集中力を保てるか、自分に自信を持ってやり続けることが大事ですよね。いま進んでいる道は間違っていないと思って過ごしていますから」

試合のない日は練習に明け暮れ、レギュラーツアーに出場して上位を目指す。下部ツアーのステップ・アップ・ツアーには、出られる試合は出ると森田は宣言している。

一度は賞金女王となり、頂点を知った人間だ。プロゴルファーは結果がすべてだということは、森田自身が誰よりもよく理解している。だからこそ、森田が決めた道を間違っていると判断するのはまだ早い。

課題は「失った感覚取り戻すこと」

昨年あたりから森田と話していると、かなり思慮深くなったと感じることが増えた。人生哲学のようで、次の言葉もそうだ。

「私は今、間違った方向には行ってないと思います。過ごす時間は人によって違います。例えば調子が良くて、勢いに乗って一発で優勝できる人もいます。ですが、自分は一気にガッと勢いに乗るタイプではないんです。それこそ、地道に進んで優勝して賞金女王になったという道のりを経験したので。自分の人生はそういう道なんだろうなって思います」

気持ちの整理をつけながら、今季の試合に出続けている森田は「練習への取り組み方は、ゴルフ人生のなかで一番と思えるくらいの集中力でやっています。賞金女王をとったときよりも技術的にもうまくなっていますし、気持ちも強くなっています」と断言する。

試合で勝つために必要な技術面の向上も怠らない。課題は「失った感覚を取り戻す」ことだ。

「ショットのコントロールがどうしてもうまくいかないときがあります。自信をなくしてから、失った感覚を取り戻すには時間がかかります」

今の位置での経験が大事

地道に練習を続けることで、いつかその感覚を取り戻せると信じて球を打ち続けている。森田は最後に「私はまだまだやれます」とキッパリと言い切った。

「よくなる日が来ると信じて我慢して練習し、どこまで努力し続けられるか。そこでやめようと思うと、“引退”も頭によぎるかもしれません。でも、私はまだできるから。まだまだ努力してやっていけるくらいのものを持っています。とりあえずやり続けるだけです。成績が出るかはわかりません。今は結果が出せていませんし、予選落ちもしています。『こいつダメだな』って思う人もいれば、いつか強くなって『一歩ずつ進んでいるね』と言ってくれる人もいますから諦めません」

森田は4月28日から開幕するステップ・アップ・ツアーの九州みらい建設グループレディースに出場することを明かした。同ツアーに出場する権利を持つ森田だが、ここまで出場してこなかった。だが、ついに出場を決心した。

「試合に出なければ、試合勘がなくなる。だから、出られる試合には出ようと思っています。自分自身、結果が出ないと納得できない部分もありますが、まだまだゴルフ人生は長い。この先、もっと上で戦っていこうと思うのなら、今の位置での経験がすごく大事になってきます。自分の気持ちをコントロールできるような選手になれれば、必ず強くなれる。そこを今、磨いているところです」

着実に一歩ずつ、元賞金女王は復活への道を模索し続けている。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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