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何かと話題の『A LIFE〜愛しき人〜』だが、草なぎ剛『嘘の戦争』にも注目!

碓井広義メディア文化評論家

SMAPの解散から2ヶ月近くが過ぎた。現在、元メンバーである木村拓哉の『A LIFE〜愛しき人〜』(TBS系)と草なぎ剛の『嘘の戦争』(関西テレビ、フジテレビ系)、2本の主演作が放送されている。世間で話題になるのは木村のほうが多いのだが、草なぎの健闘にも注目したい。

「草なぎ剛のドラマ」としてまず思い出すのは、高橋しんの漫画が原作だった97年の『いいひと。』(関西テレビ、フジテレビ系)だ。その後、03年から06年にかけて放送された『僕の生きる道』『僕と彼女と彼女の生きる道』『僕の歩く道』(いずれも同上)の3本で、草なぎの俳優としての評価は高まった。

最近では、15年の『銭の戦争』(同上)が秀逸だ。連帯保証人になったことから、金も仕事も婚約者も失った男の復讐劇だった。一見おだやかで優しそうな草なぎが演じたからこそ、主人公の執念が際立っていた。

今期の『嘘の戦争』もまた復讐劇だ。前半では、30年前に家族を殺された一ノ瀬浩一(草なぎ)が詐欺師となり、事件の関係者を次々と破滅させてきた。

その過程で、草なぎの巧みな“変身”に驚かされた。気弱な失業者も、精悍なパイロットも、いかにもそれらしく見え、「他人(ひと)をだますには自分をだますんだ」の台詞が草なぎ自身の演技論に聞こえる。

浩一が最大の敵としている実業家・仁科(市村正親)。その長男・晃(安田顕)を取り込み、跡継ぎである次男・隆(藤木直人)の追求をかわし、彼らの妹で女医の楓(山本美月)を手中にしようとする浩一。

連ドラながら、毎回のエピソードにきちんと決着がつくため、見る側を飽きさせない。このメリハリは前作『銭の戦争』と同じ脚本家、後藤法子のお手柄だ。

今回、草なぎの表情と台詞回しに何度も感心した。たとえば第3回の冒頭、夜の通りで浩一が楓を見送るシーン・・・

楓 「呼び出し……戻らないと、病院」

浩一「そっか。送る?」

楓 「……え、ううん、大丈夫。車拾うから」

浩一「大変だね。気をつけて」

楓 「……うん。……じゃあ、あの……また」

浩一「うん、また」

楓 「……」

名残惜しそうに背を向け、楓、タクシーを拾う。

無表情で見送る浩一。

浩一「……」

実は、ここで「大変だね。気をつけて」と言う時のトーンも、また複雑な胸の内を隠しての“無表情” も、決して容易なものではない。しかし、草なぎは的確に表現していた。

ほかにも・・・

「傷のない人生なんてあり得ない。

心のすき間さえ見つければ……

あとはそこに入り込むだけだ」

「地獄、見せてやる」

「罪を逃れて、

のうのうと生きてきたヤツには、

それ相応のつぐないをしてもらわないとな」

印象に残る言葉を、ポイントとなる場面に刻む後藤法子の脚本に、草なぎはきっちりと応えている。それは役者としての進化だ。

ちなみに、草なぎの「僕」シリーズの脚本を書いていた橋部敦子が現在、手掛けているのは木村拓哉の『A LIFE〜愛しき人〜』である。こちらもまた因縁の勝負かもしれない。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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