首都圏のマンションすべてに「陸の孤島」リスク……大地震で自宅避難も救援物資が届かない
大地震が起きたとき、どんな被害が生じるのか。東京都防災会議が「東京都の新たな被害想定」を出したのは昨年2022年5月のこと。そこで示された「新たな被害想定」の象徴として、超高層マンションを思い浮かべる人が多いのではないか。
実際、昨年5月以来、一般の報道では「タワマンは陸の孤島になる」と盛んに書き立てられた。
大地震で停電が起きると、超高層マンションの生命線となるエレベーターが止まるし、ポンプで押し上げる水道水も止まる。上層階の人には救援物質や水が届かず、まさに取り残された状態になる。だから、タワマンは陸の孤島なのだ、と。
ところが、「東京都の新たな被害想定」で「タワマンが陸の孤島になる」と指摘されたのは、別の理由からだった。
都心湾岸エリアでは、液状化により道路の通行ができないところが生じ、トラックによる救援物資が届かないかもしれない。その場合、湾岸エリアに林立する超高層マンションは陸の孤島になると報告されていたのだ。
ここで、注目したいのは、湾岸エリアの超高層マンションでは、大地震が起きた後も建物内にとどまる人が多い、との前提で「新たな被害想定」が考えられていること。そして、超高層マンションにはトラックで救援物資が届けられる想定になっていることだ。
じつは、超高層マンションだけでなく、中高層、低層のマンションでも大地震の後、建物内にとどまる人が多くなるし、救援物資はヘリコプターではなく、トラックで運ばれる。
それは、阪神・淡路大震災と東日本大震災の経験から導き出されたことだった。
避難所に入れない分譲マンションの住人
阪神・淡路大震災と東日本大震災の際、分譲マンションに住んでいた人の多くは避難所に入れなかった。それは、家を失った人で避難所が満杯になってしまったからだ。
近年の大地震で、マンションそれもしっかりつくられている分譲マンションは、ほぼすべてが重大な建物被害を受けず、生き残った。そこで、マンションに住んでいる人は基本的に自宅内にとどまることが求められたのだ。
そのとき、多くのマンションで「陸の孤島」状態が発生していた。「陸の孤島」はタワマンだけに想定される被害ではなかった。
では、「陸の孤島」とは、具体的にどんな状況だったのか。阪神・淡路大震災と東日本大震災のケースを元に解説したい。
救援物資を運ぶヘリコプターが頭上を通り過ぎて行く
近年起きた大きな地震の際、鉄筋コンクリート造のマンションは住宅としての機能を維持するケースが多かった。もちろん、停電や断水が起きたので生活に支障はあったが、雨露をしのぐことができた。
そこで、マンション居住者は家を失った人であふれる避難所ではなく、自宅にとどまることが求められたわけだ。その際、マンションにも水や食料など救援物資が届くと説明された。が、マンション内にとどまった人たちは「最初のうち、救援物資が届くことはなかった」と証言している。
大地震の直後から物資を運んでいるのだろうとおぼしきヘリコプターは盛んに頭上を飛んでいた。が、その行き先は学校や公民館など。多くの人が集まる避難所で、ヘリコプターが着陸できる大きな庭がある場所だ。
そこから各マンションに救援物資が届くことはなかった。マンション居住者が救援物資を手に入れることができたのは、地震発生からしばらく経ってから。トラックで救援物資が届くようになり、「12時から、この場所で水や救援物資を配る」というような情報を得て、長い列に並ぶことができてからである。
では、阪神・淡路大震災と東日本大震災の直後、マンション居住者はどうやって水や食料を手に入れたのか。
主にそれを行ってくれたのは、民間の救援隊だった。
マンション管理会社の多くが物資を運んだ
阪神・淡路大震災と東日本大震災の直後、ありがたいことに、被災地には全国からボランティアの人たちが集まった。そのなかには、救援物資を運んでくれる人もいた。
マンションにも物資が届けられたが、その多くはマンション管理会社が届けたものだった。管理会社は「被災地のマンション内に多くの人がとどまっている」ことと「マンションに救援物資が届いていない」ことを知り、トラックの輸送部隊を組んで物資を届けた。
東日本大震災のときには、1台のトラックにアンパン、ジャムパンなど甘い菓子パンを満載させて届けた管理会社もあった。受け取った被災地の管理会社社員は、最初、何かの間違いか、と思ったという。
こんなときに、菓子パンなんて……である。
しかし、これがマンション居住者に喜ばれた。
年配の女性は「歯が弱くて、固い乾パンは食べることができない。柔らかく、甘いアンパンがなによりのごちそう」と顔をほころばせた。
トラックいっぱいの菓子パンを届けた管理会社は、阪神・淡路大震災の救援も経験し、「こんなときは、甘いものが心を和らげる」と考えて、最良の物資を届けたわけだ。
以後、「被災地に菓子パン」は効果的な救援として広まるようになった。
大都市・東京が被災したとき、十分な救援は……
阪神・淡路大震災と東日本大震災のとき、被災地にボランティアをはじめ大がかりな救援部隊が集まったのは大都市・東京が無傷、もしくは軽微な被害で済んだことが大きい。被災地を救う大きな備蓄とマンパワーが十二分に機能したのだ。
これに対し、大都市・東京が被災し、とてつもなく大勢の被災者が出た場合、どれほどの救援が期待できるのだろうか。
総務省が4月に発表した数値によると、東京都の人口は1403万人。首都圏全域の人口は4000万人を超えるとされている。総務省統計局の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、首都圏では人口の3割強が集合住宅(主にマンション)に暮らしているとされるので、1000万人以上がマンションで生活していると考えられる。
その多くが大地震の後、マンションで自宅避難を行い、救援物資を求めたら……想像するのも恐ろしい。
そのなか、超高層マンションは、停電でもエレベーターを動かす非常用電源を拡充させ、水や非常食、医薬品などの備蓄を備えているし、停電・断水時にも使えるトイレやかまどを備えているところが多い。「陸の孤島」となったときの備えが充実しており、特に東日本大震災が起きた2011年より後に完成した超高層マンションは充実ぶりが際立っている。
超高層ではなく、中層・高層のマンションでも、2011年以降の完成で総戸数が100戸を超える規模のマンションであれば、防災備蓄倉庫や非常用トイレの準備がある。
しかし、古いマンションや小規模のマンションでは、大地震への備えが不足しており、個人で準備しなければならないのが実情だ。
つまり、大地震が起きたとき、マンションはどこでも「孤島」になる可能性があり、「孤島」になって困るマンションと、それほど困らないマンションがあるわけだ。
じつは、昨年5月に出された「東京都の新たな被害想定」でもそのことは指摘され、非常用電源を持たない中高層階のマンションではエレベーターが止まって支障が出ると報告された。さらに、救援物資が届かないことは集合住宅全般のリスクとも指摘された。
「タワマンが陸の孤島になる」のなら、多くの人にとって関係ない話だろう。しかし、実際はすべてのマンションに「孤島」リスクがある。関東大震災から100年の「防災の日」、そのことを考えておく必要がありそうだ。