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安倍首相訪中見送り 毎日新聞「訪中ほぼ確実と印象づけたとすれば遺憾」

楊井人文弁護士
北京APECで日中首脳会談を行った後の記者会見(2015年11月10日)(写真:ロイター/アフロ)

【GoHooトピックス8月26日】毎日新聞は8月18日付朝刊1面で「首相、来月3日訪中 最終調整 習主席と会談へ」と見出しをつけた記事を掲載した。しかし、菅義偉官房長官は24日の記者会見で、安倍首相が中国・北京で9月3日開催予定の抗日戦争勝利70周年記念式典に欠席し、その前後の訪中も見送ることを決め、中国側に伝達したことを明らかにした。毎日新聞社(社長室広報)は日本報道検証機構の質問に対し、「中国側が安倍首相の訪中を受け入れる方針を固めたという点を主眼に書いた」ものだとしつつ、「訪中することがほぼ確実との印象を与えたとすれば遺憾」と回答した。訪中見送りの経緯を詳細に続報しており、訂正の予定はないとした。

毎日新聞2015年8月18日付朝刊1面(右)と2面(一部切り取り加工しています)
毎日新聞2015年8月18日付朝刊1面(右)と2面(一部切り取り加工しています)

毎日新聞は1面の北京特派員電の記事(本記)で、「複数の日中外交関係者」の情報として「中国政府は9月3日午後に安倍晋三首相の中国訪問を受け入れ、習近平国家主席との首脳会談を北京で開催する方向で日本側と最終調整に入った」と報じた。その中で日本側は、安倍首相の軍事パレード出席は固辞したものの、午後からの行事に首相が参加する日程案を打診。中国側も軍事パレードを出席しなくても訪中を受け入れる方針を固めたとし、「日中首脳会談が実現すれば3度目」とも言及していた。また、2面にも詳細な関連記事を掲載。主に各国首脳を式典に招きたい中国側の思惑や各国の動向をまとめた記事だが、「中国、和解アピール 安倍訪中『平和の式典』演出」と安倍首相訪中を前提とするような見出しが付いていた。

毎日新聞社長室広報は当機構に対し「記事にも見出しにも『最終調整』とうたっており、日本側が安倍首相の訪中を最終的に決めたわけではないことは分かると思います」と回答し、誤報には当たらないとの認識を示した。

「最終調整」の意味は必ずしも明確でないが、一般にメディアがこの表現を用いるのは正式決定の一歩手前で、ほぼ確実との見込みがある場合が多い。記事は中国側の意向を中心に書かれているが、日本側が9月3日午後の訪中を打診し、中国側がこれを受け入れる方針を固め、両政府の意向が一致したかのようにも報じていた。残すところは事務方の詰めの調整だけとも受け取れる内容で、日本側が辞退する可能性があるとは言及していなかった。そのため、見出しとあわせて、安倍首相の訪中が最終的に決まったとは報じていないが、ほぼ確実に実現するとの印象を与えた可能性は否定できない。

同紙は、政府が訪中見送りを決めたと報じた8月24日付夕刊の記事で、政府が9月3日午後北京入りする日程を中国側と調整していたと記載。8月25日付朝刊の詳報では、安倍首相は「和解の旅」になることを前提に9月3日午後など式典前後の訪中を検討していたが、中国側に対日批判を弱める譲歩を求め、最終的に折り合わず、日本側は式典出席を見送る米欧との連携も配慮したと解説した。

安倍首相は14日のNHK番組で「行事が反日的なものではなく、融和的なものになるのが前提」との考えを示しており、この段階で9月上旬の訪中の可能性を否定してはいなかった。首相の意向を踏まえ、日中間で訪中を視野に入れた交渉が行われていたのは事実とみられる。しかし、産経新聞は19日付朝刊で、9月3日以外の日程で首相が訪中する案を中国側に打診していると報じ、菅官房長官は同日の記者会見で、毎日新聞の報道について「そういう事実は全くないです」と否定。今後の国際会議の機会を含めて日中首脳会談を行うことは極めて大きな意義があると述べ、9月上旬とは異なる機会も視野に入れて調整を行うことを示唆していた。

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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