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「3ボールで四球」だけでなく、過去には「4ボールで四球にならず」も

宇根夏樹ベースボール・ライター
ジオ・アーシェラ(左)とマリオ・ガーザ May 11, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 5月28日、ジオ・アーシェラ(ニューヨーク・ヤンキース)は、3ボールの四球で出塁した。カウント2-2から、カイル・ファンクハウザー(デトロイト・タイガース)が投げた球――外角低目に外れ、ミットに収まることなく後ろへ抜けていった――を見送ったアーシェラは、バットを放り投げ、左足のシン・ガードを外して一塁へ走っていった。

 カウントは3-2だ。けれども、試合はそのまま続けられた。

 審判やタイガースがカウントの間違いに気づかなかった理由は、4球目にあるようだ。胸の近くに来た球に対し、アーシェラはバットを振り出しかけてすぐ止めた。そこに投球が当たってファウルになったが、投球はバットに当たらず、ミットを弾いたようにも見える。後者なら、ストライク(ファウル)ではなくボールだ。

 何の躊躇いもなく一塁へ向かったことからすると、アーシェラも勘違いしていたのだろう(そうでなければ、なかなかの役者だ)。ヤンキースに気づいた人がいたのかどうかはわからない。出塁を取り消すよう求めるのは、次に打つのが投手で、代打を起用したくない(投手を続投させたい)か、代打に起用できる野手が残っていない、あるいは、シーズン終盤にアーシェラが首位打者や本塁打王を争っている場合くらいだろう。このケースにはいずれも当てはまらないし、間違いを正さずに黙って見過しても、暗黙のルールに反するわけではない。今日、暗黙のルールのいくつかは崩壊しかけているとはいえ、すべてがそうではない。

 同じことがどれくらい起きているのか、調べたところ、過去10年に2例が見つかった(他にもあるかもしれない)。2011年7月2日にキャメロン・メイビン(当時サンディエゴ・パドレス/現ニューヨーク・メッツ)、2015年5月31日にはジョーイ・ボトー(シンシナティ・レッズ)が、3ボールで一塁に歩いている。ボトーの場合、彼が優れた選球眼を持つ「四球マシン」であることも、原因の一つとして考えられる。この年の143四球を含め、シーズン100四球以上は6度を数える。

 ちなみに、メイビンとボトーの四球と違い、アーシェラの四球は得点には結びつかなかった。なお、アーシェラ以外の2例については、6年前にこちらで書いた。「3ボールで四球。打者がボトーだけに誰も疑いを抱かなかった!?」

 一方、3ボールの四球とは対照的に、4ボールにもかかわらず、四球にならなかったこともある。

 こちらの直近は、昨年のディビジョン・シリーズ第2戦だ。打席にはアダム・デュボール(当時アトランタ・ブレーブス/現マイアミ・マーリンズ)、マウンドにはパブロ・ロペス(マーリンズ)がいて、カウント2-2からの6球目と7球目は、どちらもボールと判定された。だが、デュボールは打席にとどまり、カウント4-2からの8球目を打ってライト・フライに終わった。今シーズン、デュボールとペレスはチームメイトとしてプレーしているが、この打席について話し合ったかどうかはわからない。

 なお、ここに挙げた4試合とも、違う審判が球審を務めた。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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