【ラグビーW杯フランス大会 決勝トーナメント進出に向けて】激闘を制した日本代表
日本代表が拠点にするトゥールーズの町
サモア戦に勝利した夜。
スタジアム・ド・トゥールーズに駆けつけた日本代表ファンは、激闘を制した勝利に酔いしれた。
トゥールーズはフランスラグビーの強豪チーム「スタッド・トゥールーザンStade Toulousain」の本拠地でありラグビーの町として知られている。また、10万人以上の学生が集まる学生都市として活気に溢れている。
試合当日は、日本人だけでなく外国人も日本代表ジャージーを身にまとう光景が見られた。ラグビーを熟知するこの地では、他国を応援する、相手チームを尊重するなどラグビー文化が根付いている町である。
サモア代表に勝利した要因は?
予選プール初戦のチリ代表、2戦目のイングランド代表共に先制される展開だったが、サモア戦においては前半13分、トライで先制することに成功した。
ラグビーはスタートの10分間を重要視する。序盤から相手にプレッシャーをかけて試合を優位に進めるためだ。PG(ペナルティゴール)の3点もしくはトライに繋げることができればベストである。スコアに繋げられなくともエリアを獲得し、相手陣内で戦う時間を長くすることで良い流れを作ることができる。
開始13分、日本代表のトライはFB(フルバック)レメキロマノラヴァが大きくゲインしたこと(アタック、ディフェンスの境目より前進)をきっかけに生まれた。ポイントはレメキロマノラヴァが1人目のタックルを外しながら前進した直後のラック(ボールの争奪)に早いサポートでボールを確保し、SH(スクラムハーフ)齋藤直人がテンポよくボールを出したことでサモアディフェンスを崩すことができた。
レメキロマノラヴァは怪我によって離脱したセミシ・マシレワに変わり、齋藤直人は流大が試合直前に体調不良によって欠場したことによって、急遽スターティングメンバーに入っている。現状を踏まえ、日本代表の進化の1つに層の厚さが挙げられるだろう。
サモア代表の強靭な体から繰り出されるパワーラグビーは健在だった。タックラーを弾き飛ばすシーンは何度も見られ、ディフェンスの厚いエリアでもいとも簡単にゲインしていた。
しかし、日本代表は後退しながらもターンオーバーや相手のミスを誘うタックルで我慢する時間帯を終始、耐え抜いた。
ラグビーにおける我慢の時間とは、ミス・反則をせずにプレーを継続し、いつか好転する局面を待つ時間である。この我慢の時間が解き放たれた時、トライに繋がると考えている。
試合スタッツではサモア代表が上回っていた⁈
終了後のスタッツを見ると劣勢な状況から勝利したことが分かる。
日本代表は、試合全体のテリトリー48%、ボール支配率43%(前半38%)だった。サモア代表がボールを保持する時間が長かった訳だが、フィジカルを全面に活かすアタック力を考えるとディフェンスで健闘したと言える。タックル回数では日本代表181回に対してサモア代表は83回だった。キックを多用し、相手に多くボールを渡した結果、タックルする機会を増やしたことになる。サモア代表にボールを持たす機会を与えて、体力を奪うことに成功したのだ。
アルゼンチン戦に向けた課題
サモア代表は日本代表の低いタックルに応じて、効果的なプレーであるオフロードパスを多用した。(オフロードパス回数17回)ディフェンス側のオフロードパス対策は、予測と早いポジショニングが必要となり、前で止めることが困難である。
一方、アタック側によるオフロードパスは、タックルを受けながら片手でボールを扱う能力を要し難しいプレーである。
日本代表がトライを阻止することに成功させた要因は、諦めずに追いかけるメンタリティの強さとトレーニングで培った運動量が全てである。しかし、次戦アルゼンチンに対しては簡単に止めることはできない。オフロードパス成功後にパスやキックなどプレーの選択肢に幅を持つ柔軟な選手がいるからだ。ディフェンスに的を絞らせない多彩なアタックをしてくると予想する。
対策は、1人目の低いタックル後に2人目のタックラーが素早くボールにプレッシャーをかけるダブルタックルの連続が重要である。ハイタックルによる危険なプレーに要注意だが、アルゼンチン代表にプレッシャーをかけるためには必要不可欠だ。
次戦アルゼンチン代表に勝利すれば自力で決勝トーナメント進出が決定する。たとえ敗戦したとしてもボーナスポイントの獲得や他国の結果も影響してくるため、最終結果は最後まで分からない。(9月29日現在)
ボーナスポイントを稼ぐマネジメントは大事だが、積極的にトライする強いメンタリティが相手に大きなプレッシャーを与えるのではないだろうか。