【ラグビーW杯2023フランス大会】南アフリカ代表連覇の秘訣 新ラグビー王国の誕生
死闘を制した南アフリカ代表の歴史
南アフリカは2019年日本大会に続いて史上最多4度目の優勝を飾り、ニュージーランドに並ぶW杯2連覇を果たした。
(12-11南アフリカ勝利)
前半27分以降、ニュージーランドは数的不利な状況となったが、それを感じさせないパフォーマンスから双方の極限の戦いが繰り広げられた。
ニュージーランドとの決勝カードは、第3回1995年南アフリカ大会以来の2度目。同年大会も南アフリカが勝利している。
(15-12南アフリカ勝利)
南アフリカはアパルトヘイトにより国際社会から制裁を受け第1回、第2回大会は不参加。
南アフリカ代表主将、シヤ・コリシは同国初の黒人主将として2019年日本大会で優勝カップを手にした。ニュージーランド元代表リッチー・マコウ主将に次いで、主将として2人目の連覇を達成した。
南アフリカ勝利の方程式
南アフリカの最大の強みは、徹底されたキックによるエリア獲得とPG(ペナルティゴール)である。強固なディフェンス力と正確なキックを持ち合わせハイパント(ボールを高く蹴り上げる)では、再獲得もしくはボールをファンブル(ボールを落とさせる)させることを目的としていた。ディフェンス力は、ターンオーバー(相手のボールを奪取すること)7回の成功が物語っている(ニュージーランド2回)。
また、タックル回数ではニュージーランド92回に対して、南アフリカは倍以上の209回。FL(フランカー)ピーターステフ・デュトイは驚異的な数値28回をマークしていた。相手にボールを持たせてディフェンスで前進することを可能にした。
南アフリカSO(スタンドオフ)ハンドレ・ポラードは、W杯期間中HO(フッカー)マルコム・マークスの怪我による離脱から急遽合流した選手だが、ニュージーランドの反則からPGで着実に3点を重ね、全得点をPGで得た。
南アフリカの交代選手は異例とも言えるFW(フォワード)7人、BK(バックス)1人の布陣を取った。FWによるセットピース(スクラム、ラインアウト)とミッドフィールドによるボール争奪で圧力をかけるためだ。肉弾戦で制圧することに成功したのだ。
ゲームのターニングポイント
W杯決勝では珍しくレッドカード1枚、イエローカード3枚が続出した。安全面を考慮したハイタックルなどのプレーに対する判定だが、バンカーシステム(10分間の退場の内8分間でレッドカードの対象か否かを映像解析によって判断される)導入によってゲームが大きく左右した。近年のフィジカル強度とコンタクト回数向上の措置によるものだが、今後明確な判断基準が必要となるだろう。
ニュージーランドは開始2分にイエローカード、27分には主将サム・ケインのレッドカードによって、50分以上を14人で戦うことを強いられた。
一方、南アフリカはセットピース(スクラム、ラインアウト)に重要なポジションHOボンギ・ンボナンビが開始4分で負傷退場した。ラインアウト成功率(60%)を下げる要因でもあった(10回中6回成功)。
ターニングポイントは、ニュージーランドが50分に得たペナルティでPGを選択せずにトライを狙うため、ラインアウトを選択したことである。この時点で点差は6点だった。58分にラインアウトを起点にトライに成功したが、ディフェンス力を誇る南アフリカを前にPGで点差を縮めることが最優先だったのではないかと見ている。
ラグビーはエリアを獲得する陣取りゲームと数的優位にする人数ゲームである。また、ゲームの綾はトライ5点とPG3点もしくはDG(ドロップゴール)3点の2点の差にある。トライもしくはPGを狙う時間帯、いわゆるタイムマネジメントが重要となるのだ。拮抗したゲームにおいて、終盤に差し掛かればキッカーにかかるプレッシャーは相当なものである。
今大会の南アフリカは、決勝トーナメント3戦全て1点差で勝利した。(準々決勝対フランス29-28 / 準決勝対イングランド16-15)
2019年W杯同様に選手層が厚く、確立されたゲームマネジメントとストロングポイントを前面に打ち出したゲームコントロールが前人未到の結果を生んだ。
1点を上回る術は、ディフェンス力と正確なキックに加え、国の威信をかけたプライドではないか。