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【ラグビーW杯2023フランス大会プール最終戦 日本代表対アルゼンチン代表】敗戦の要因とは?

斉藤祐也元ラグビー日本代表/ラグビー解説者
ラグビーW杯2023フランス大会 日本代表対アルゼンチン代表(写真:ロイター/アフロ)

 ラグビー日本代表は、D組プール最終戦アルゼンチン代表に27-39で敗戦し、2大会連続の決勝トーナメント進出は叶わず2勝2敗でW杯を終了した。死闘を繰り広げた日本代表と強みを如何なく発揮したアルゼンチン代表に敬意を表したい。

 「やれることはやった」(関係者のコメント)という言葉通り、日本代表は最高のパフォーマンスだったのではないか。スポーツの本質である勝敗にかかわらず、最後まであきらめず懸命にプレーする姿に感動を覚えた。  

 最終戦を迎えるまで、勝敗に一喜一憂しながら最後まで勝利を願った。敗戦の要因を多角的に検証し、自身の経験を踏まえて考察したい。

経験値の差とは? 

 W杯2019年日本大会を終えた翌年、日本代表はコロナ禍のため活動できず2023年フランス大会に向けた強化期間があまりにも短かった。テストマッチ(国の代表同士の国際試合)の機会を失い、2019年W杯で露呈した選手層を厚くすることに着手できなかったのではないか。

 2022年に日本国内リーグ「トップリーグ」から「リーグワン」に代わり、日程変更も影響を受けたに違いない。一方、ティア1(最上位に位置するグループ)によるシックス・ネーションズやザ・ラグビーチャンピオンシップに加盟する強豪国との差は明白だった。アルゼンチンは、ニュージーランド、南アフリカ(2020年は新型コロナウイルス感染拡大により不参加)、オーストラリアと鎬を削り、強豪国との対戦からスキルとゲームマネジメントに磨きをかけていた。  

 ラグビーの経験値の差は、ゲームを大きく左右する。経験値の一つに、相手との接触(コンタクトプレー)である。コンタクトの強度に慣れることから体の使い方を覚え、人とのコンタクトプレーからスキル・判断力や予測力を養うことができる。 

 私の現役当時、海外でプレーした後に国内リーグでプレーした時に感じたのは、コンタクト力の差である。一瞬の判断や体の使い方を間違えればミスに繋がることを知ったのはその時期である。スキルと判断のミスは、相手のスコアに直結することをテストマッチや海外のリーグで学んだ。例えば、転がるボールをどう扱うかを一瞬でも迷いが生じれば、相手に拾われ自チームが劣勢に立たされるのだ。

日本代表対アルゼンチン代表戦の勝負の分かれ目 

 勝負の綾は紙一重であり、シーソーゲームでリズムを崩したと考える。それは、64分に日本代表がペナルティを得て、準備されたプレーからトライした直後にあった。再獲得を狙うハイパント(ボールを高く蹴り上げること)を競り合う位置に蹴ることができず、アルゼンチンにボールを安易に渡しトライを献上した。2点差に詰め寄った後のゲームコントロールに経験値の差が出たと感じたのはこの時だ。このトライこそゲームのターニングポイントだったと言える。ひとつのミス(スキルと判断)がゲームの流れを変えることを知っているアルゼンチン代表が一枚上手だった。  

 アルゼンチン代表の強みは、ラインアウトからのドライビングモールとハイパントの処理能力の高さにあった。日本代表は中盤エリアから幾度とモールでプレッシャーをかけられ、BK(バックス)は下がりながらディフェンスしなければならず難しい状況を作った。  

 ハイパントはキックを多用する日本代表にとって一つの選択肢であるが、相手のハイパントキャッチから5本中2本がトライに直結していた。アルゼンチン代表の強みを消す労力よりも日本代表の戦術を遂行したのだと推測する。 

 また、アルゼンチン代表のトライ5本中4本が日本代表のペナルティによるアドバンテージ中(ペナルティを犯してもアルゼンチンがアタックする猶予を与えられる時間)から得ていた。

アドバンテージは、アタック側がミスをしてもペナルティをした位置から再開できるため、思い切ったプレーを選択することによりトライが生まれやすい。

 アルゼンチン代表は、強みの発揮とチャンス時にトライを取りきる経験値の高さを見事に披露した。ラグビーにミスは必ず起きるものだが、ミスした直後のプレーが重要である。傷口を広げないために、ボールの確保やディフェンスの準備をするスピードを要するのだ。強豪国のミスした直後、集中力の高まるのが見て取れる。  

 今大会の日本代表は、試合を重ねるたびに成長したチームだった。FWのセットピース(スクラム・ラインアウト)の成功率は上がり、ブレイクダウン(ボール争奪)でも負けなかった。準備されたプレーから成功する場面が増え、トリッキーなプレーも日本代表ならではのアイデンティティだった。3戦を終えたアルゼンチン代表の2失トライのディフェンス力を打ち破る日本代表の3トライがそれを証明している。

ラグビーW杯2023フランス大会 ハイパントを競り合うWTBシオサイア・フィフィタ選手
ラグビーW杯2023フランス大会 ハイパントを競り合うWTBシオサイア・フィフィタ選手 写真:ロイター/アフロ

今後の日本代表強化方針はどうすべきか

 今後の日本代表が強豪国との差を埋めるために何を求め、何を必要とすべきか。海外でプレーする選手の輩出やスーパーラグビーに参入することができれば代表強化には直結するであろう。しかし、育成と強化を同時進行させ、現体制(高校・大学ラグビーとリーグワン)の連携がなければ競技人口に大きな影響を及ぼす。

スーパーラグビーは、オーストラリア・ニュージーランド・フィジーの3か国から計12のプロチームが参加するラグビーユニオンの競技会である。2022年からの大会名はスーパーラグビー・パシフィック。

 強豪国とのテストマッチを増やす一方で普及・育成、強化方針を一本化し、「OUR TEAM」となることを願う。 

 最後に、2019年日本大会の結果から周りのプレッシャーに耐え、厳しいトレーニングと時間を犠牲にしてきた日本代表に最大の拍手を。

元ラグビー日本代表/ラグビー解説者

高校1年からラグビーを始め、若干2年で高校日本代表に選出される。東京高校では、攻撃の要である NO.8(ナンバーエイト)として活躍し、全国高等学校ラグビーフットボール大会(花園)へ初出場の立役者となる。明治大学時に全国大学ラグビー選手権に出場し優勝。4年時には主将を務める。2000年にサントリーに入社、一年目のシーズンからレギュラーを獲得し、「日本ラグビーフットボール選手権大会」連覇などタイトル獲得に貢献。2002年フランス1部リーグ・ USコロミエに海外移籍。フォワードとして日本人初のプロ契約選手となった。帰国後、プロ契約選手として、神戸製鋼、豊田自動織機などで活躍した。

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