【ラグビー日本代表 エディー・ジョーンズHC新体制の展望と課題】「超速」とは?
新体制ラグビー日本代表始動
エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)新体制による夏の日本代表シリーズは、JAPAN XV(非キャップ対象試合)2試合を含め1勝4敗で終了したが、決して悲観するものではない。
日本代表メンバーは、昨年行われたワールドカップメンバーから様変わりした。若い選手やノンキャップ選手を起用し、2027年ワールドカップに向けて再スタートを切った。
2019年ワールドカップでは、史上初の決勝トーナメント進出を果たしたが、選手層に課題を残し、2023年ワールドカップでもそれは解消されなかった。
選手層を厚くするためには、若年層の強化と強豪国との真剣勝負を経験する他ない。プレースピードやコンタクト力、ひいては1つのミスがスコアに直結することを知ることである。経験とは、多岐にわたる選択から最善なプレーを見極めることであり、一瞬の体の使い方ひとつを覚えることである。セットピースであるスクラム・ラインアウトも然りである。
ラグビーは、ボールゲームと同時にコンタクトスポーツであるが故に、コンタクトプレーを避けては通れない。しかし、前ワールドカップ優勝国の南アフリカとフィジカル面で同等に戦うことは、非現実的であり日本特有のラグビースタイルは常に求められている。
新たな日本スタイルを構築する時期に、現段階の結果に是非を問うのは、時期尚早である。
エディーHCの掲げる「超速」とは何か?
エディー・ジョーンズHCの掲げる「超速」とは、速いスキル・速い判断・速い実行力を選手に求めていると解釈している。
しかし、プレースピードを上げることだけが、相手に脅威を与えることはない。
ラグビーは、前方にボールを投げられないため、一旦ボールを後方へ下げる機会が増え、ディフェンス側が前進することを可能にする。
ラグビーの原理原則として、前に出る手段は、ボールを持って走る・キック・スクラム・モールがある。
アタック側が、前に出られない状態で、速くボールを展開しようとすれば、ディフェンス側がディフェンスラインを整え前進し、数的優位に働くことが多い。一方、アタック側が大きく前進し、速くボールを展開できれば、トライをする最大のチャンスである。また、ディフェンス側が後退しながらタックルするシチュエーションとなり、オフサイドなどのペナルティを獲得することに繋がる。例外的にミスなどによって、アタック側が大きく後退した場合でもチャンスが生まれることもある。これは、ディフェンス側の予想を覆し、ディフェンスラインにばらつきができるため、穴が空くのである。
「超速」ラグビーは「錯覚」を起こすことである
前述したように、前に出られない状態で速くボールを展開することは難しい。大きく前進した時こそ、速い展開を要するためゲームスピードの緩急が相手の「錯覚」を引き起こすのだ。
速いテンポでボールを動かし続けることだけでは、強豪国はスピードに慣れ、順応できるが、動きに緩急を付けることで、よりスピード感を対戦相手に与えることになる。多彩なランプレーとキックを駆使しながら、ディフェンスに的を絞らせないことが重要である。
現代ラグビーは、キックで前進する「ハイパント」が主流である。日本は強豪国と比べてフィジカル面で劣る分、ボールを保持し続けることが困難であり、キックを駆使しなければ後半に疲弊する。
ラグビーの疲労は、頭と体に存在する。頭の疲労は目に見えない判断ミスに繋がり、体の疲労はノックオンやスローフォワード等のスキルのミスである。
キック戦術は、大きく2通りに分けられ、エリアを大きく挽回するロングキックと再獲得を狙うハイパントがある。
日本が目指すべきラグビースタイルは、対戦相手によって戦術を切り替えられるカメレオンのようなチームである。
速いテンポでボールを動かすことだけではなく、求められる超速選手が、その局面で正確なプレーを選択できるか否かである。また、相手の予想を大きく超える発想力と実行する勇気も必要となるだろう。
リーチマイケル選手に現在の日本代表について聞いた
ワールドカップ2011年から4大会連続出場中のリーチマイケル選手に、現在の日本代表について、以下質問を投げかけた。
調子が悪い時はどう考え、何をすべきでしょうか?
「どうしてもネガティブなプレーばかりにフォーカスしてしまうので、練習でも、試合でも1つ良いプレーができたら満足するようにしています」
今の日本代表に1番必要なことは何でしょうか?
「多くの試合を経験することです」
今後の日本代表に期待することは?
「ワールドカップベスト4に向けて、更に進化しなければならないと思います」
日本代表チームの進化、変化する時代を生き抜くリーチマイケル選手の言葉は、真っ直ぐで人を動かす力を持っている。
多くの国際試合を経験し、悪状況を脱する術を知っているからこそのシンプルな言葉である。精神面の充実が、技術力と強固なチームワークを創り上げるのであろう。
子どもスポーツ体験会(ボールパーク体験会6月1日開催)に参加した時には、子どもに向けて「長くラグビーを続けるためには楽しむこと。僕は勝ち続けてきたわけではないが、仲間とラグビーすることが楽しい」と楽しむ源泉は、仲間の存在であると呈してくれた。
スポーツ選手の「楽しむ」ことの背景には想像を絶する努力があり、例え、満足のいく結果を得られなかったとしても、そこに「感動」があることを知っている。
2027年ワールドカップに向けて、日本代表とリーチマイケル選手の進化に期待したい。