ガス vs IH、ステンレス vs 大理石…キッチンの人気対決に3.11とコロナ禍が決着をつけた?
平成時代、住宅購入に際し、「どっちがよいか」で多くの人たちを悩ませたキッチン設備がある。
ひとつは、キッチンのコンロ。ガスコンロがよいかIHクッキングヒーターがよいか、だ。
もうひとつは、システムキッチンの天板素材で、ステンレスがよいか、人工大理石がよいか……これも悩ましい問題だった。
しかし、今はその問題に決着がついたように思える。
コンロに関しては、多くの人がガスを選ぶ。といっても、これは東京、大阪、名古屋といった大都市圏に限った話で、都市ガスの普及が限定的な地方エリアでは、相変わらずオール電化・IHクッキングヒーターの組み合わせが人気だ。あくまでも、大都市圏では、という但し書きつきで、ガスコンロが優勢となっている。
そして、天板に関しては、ステンレスを選ぶ人が減り、人工大理石か天然大理石が完全に優位。“石系人気”が決定的となっている。
2つの問題に決着をつけたのは、東日本大震災の影響と生活スタイルの変化、そして今回のコロナ禍も設備の決定に少なからぬ影響を及ぼしている、と考えられる。
震災後の計画停電で威力を発揮したガスコンロ
ガスコンロ優位の状況をつくったのは、東日本大震災……その理由は、2011年の大地震時と、その後、一部エリアで計画的に発生した「停電」だった。
首都圏では、停電によって大きな不便が生じ、改めて現代生活は電気への依存度が高いことを思い知らされた。
「電気がなければ、何もできない」と実感させられる状況のなか、ガスコンロだけはいつもと同じに使用可能で、計画停電中も料理をつくることができた。その経験から、電気にだけ頼ってはいられない、と首都圏ではIHクッキングヒーターの人気が落ち、ガスコンロ人気が上がったのである。
ただし、被災地である東北地方では少々事情が違った。大地震とともに電気もガスも止まり、復旧は電気のほうが早かった。仙台エリアでは電気は1週間程度で復旧したが、都市ガスの復旧は1ヶ月程度かかった。仙台では大地震の後、オール電化の住宅でなければ売れないという状況まで生まれてしまった。
参考までに書き添えると、「大地震が起きた後、都市ガスの復旧は1ヶ月程度かかる」というのが、これまでの常識。しかし、現在、首都圏の都市ガスは災害に強いガス管に変更されているため、電気と同レベルで復旧すると見込まれている。
もろもろの状況を考えると、「ライフラインは複数もっていたほうがよい」となる。つまり、コンロはガス式にして、ポータブルのIHクッキングヒーターを持っていれば、安心感が大きい。同様に感じる人が多いのだろう、東日本大震災をきっかけに、首都圏では電気ガス併用の住宅が主流となり、キッチンのコンロは都市ガス利用を選ぶ人が増えたわけだ。
家族が集うオープンキッチンには、石系天板が似合う
もう一つ、システムキッチンの天板は、15年ほど前から人工大理石・天然大理石の石系素材が優勢になっている。
平成15年くらいまでは、ステンレス天板も人気があったのだが、そこから一気に石系が優位になった。
平成15年くらいに何があったのか。
ちょうどその頃から、ディスポーザー(生ゴミ粉砕処理機)がスタンダードレベルのマンションにも普及。油汚れが付きにくく、落としやすいレンジフードやコンロも広まり、キッチンは「人に見せたくない場所」ではなくなった。
そこで、増えてきたのが「オープン型キッチン」。キッチンとリビングダイニングが一体化する形式だ。オープンキッチンは、調理を孤独な作業にしない点も好まれ、一気に住宅の主流となった。
そして、オープン型のキッチンになると、リビングダイニングの家具との調和が求められるようになる。くつろいだムードのソファやダイニングテーブルとしっくりくるのは、温かみのある石系の天板……そのような流れで、ステンレス天板よりも人工大理石や天然大理石の天板のほうが人気を高めていった。
ちょうどその頃、水晶素材を混ぜた人工大理石(クォーツストーンやシーザーストーンの呼び名がある)のように、天然石に近い風合いの人工大理石が広まったことも石系天板の人気を後押しした。
現在、石系天板が醸し出す柔らかなムードは、コロナ禍で“家時間”が長くなった暮らしにマッチしているように思える。
もちろん、ステンレス天板にも長所があり、ムダを排した機能美やクールな印象はステンレス天板ならではのもの。モダンなインテリアで固めた住戸には、ステンレス天板のシステムキッチンが似合うだろう。
しかし、コロナ禍の今はクールな機能美よりも、柔らかな温かみのインテリアが好まれている。コロナ禍によって、システムキッチンの天板は、石系優位が決定的となった。
東日本大震災とコロナ禍が、長い間多くの人を迷わせた「どっちがいい?」に決着をつけてくれたのである。