落石事故は富士登山だけに起きるわけではない。我が身を守る安全マナー
もうすぐ9月です。3000mを超える富士山やアルプスの山々の夏は終盤となり、短い秋を迎えます。楽しい登山を台無しにしてしまうトラブルは誰もが避けたいと思うものです。多くの登山者が7月から8月に集中する富士山を安全に登るためのアドバイスをご紹介します。
2020年シーズンの無事故を祈念いたします。
最初に登山全般に共通する事を指摘しておきます。登山中の落石には自然落石と人為落石があります。そして落石が発生したとしても人に被害を及ぼさなければ大きな問題とはならないのです。もちろん登山道が崩壊するほどの大規模なものは別です。
火山活動やプレート活動による造山活動でできた山々、そこにある岩体は風雨風雪や氷化膨張によってひび割れ風化していきます。崩れた岩は重力で下方に崩れていく。それが自然の摂理です。柔らかい岩体は堅い岩体より早く崩れ、えぐれて溝となり、水を呼び込み沢となり更に山肌を削っていくのです。
標高2300m程の五合目から頂上まで1400m強の標高差がある富士登山、日本一の高さで迎える日の出を見るために多くの登山者は暗い中、ヘッドランプを点けて登ります。
10万年にもおよぶ古富士火山活動後、およそ5000年前から始まった火山活動の噴出物に覆われて、今の秀麗な山容の富士山となったといわれています。
富士山は若い火山です。五合目から上部は未だ植生に乏しく、傾斜が強くなる上部に登るに従い岩塊も不安定になり、石積みなどで登山道を守っている状態が通常の状態なのだと理解しましょう。
1:登山道上に多くの石が散乱している箇所があった場合、その上部の観察を習慣にします。
つづら折りの登山道の時は自分より上方を登る登山者が石を落とすかもしれないと警戒が必要です。不安定な岩が散乱する急斜面に付けられた登山道上で長い休憩をしない!上方に背中を向けて休憩をしない!(常に上方を見ておく)のが鉄則です。なぜなら落石は(重力を受けて)上方から転がってくるからです。
登山に限らず多くの作業現場と同様、「フォールライン(物が落下する時に通るであろう線)に入るな!」ということです。と同時に自分自身が起こす落石が下方にいる別の登山者に当たる可能性を考えて、石を蹴らないなどの丁寧な足さばきも要求されます。
2:ヘッドランプが必要な夜間、視界が遮られる雲(濃い霧・ガス)の中、悪天候でフードを被って視界が狭まっている時などは、視界が悪く音も聞こえにくい状況です。このような状況では落石に気付くのが遅れるので危険が増します。
5合目から7合目までであれば、斜面傾斜もまだ緩いので落石が頻発する危険は小さいので、ヘッドランプを点けての登山も問題が少ないでしょう。
しかし、頂上での日の出に強くこだわって、落石が自然停止できないくらい傾斜が増している8合目から9合目付近を、ヘッドランプを点けて暗い中を登るのは避ける方が良いでしょう。落石発生を察知し、目視し、避けることがより困難となります。
3:登山中は周囲の音(落石!という人の声、ガラガラという落石の音)がしたら、自分の目で周囲を確認して、落石と落石が落ちてくるルートから決して目をそらさず、安全を確保したうえで移動するなど、落石を避ける習慣を付けましょう。
4:不安定な岩石が散乱する登山ルートではヘルメットを着用する習慣を付けましょう。
ヘルメットに関する山岳ガイドのコラム ⇒ こちら
多くの登山用ヘルメットは丈夫なシェルで覆われた衝撃吸収発泡体でできています。転倒滑落時においての頭部保護が大きな役割です。落下してくる落石の運動エネルギーも吸収します。しかし、岩石の質量と落下する高さ、斜面の傾斜と斜面の状態(摩擦)できまる運動エネルギー次第で人的被害は大きく変わります。つまり、どんな小さな落石にもあたらないことを第一に考え行動します。
ヘルメットは衝撃を受けてもずれたりしないように、あご紐(ストラップ)は緩みなく確実にとめなくてはいけません。
ヘルメットは被害を軽減する効果を期待して着用するものであって、落石それ自体を避ける機能は持っていないということを肝に銘じ、先に紹介した3の行動をとらなくてはなりません。
日本列島は地殻活動が世界に類を見ない活発なエリアです。それだけに素晴らしい景観がたった数時間の行程で見ることも、体験することもできる素晴らしい国です。
北アルプスの穂高連峰大キレットコース、奥穂高岳へのザイテングラード、白馬大雪渓コースなどよく知られた名ルートでだけでなく、身近なハイキングコースでも、事故・怪我は起こります。
「危険が何か、知って避けて近寄らず」で9月からの秋シーズンの山歩きを楽しんでください。