入社前から「副業」を考える若者がまったく理解できていないこと
「いつから副業ができますか?」
内定を出していた大学生のNさんから、このような問い合わせがあった。当然、採用担当者は驚いた。
「入社する前にどんな準備を進めたらいいですか?」
「はやく戦力になりたいです。社会人になる前にどんな本を読んでおくべきですか?」
こんな質問はよく受ける。だが、「副業」に関する質問が来たのは初めてだった。
しかし新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』に詳しく書いた通り、頭ごなしに否定すべきではない。多様性の時代だ。受け入れなくてもいいが、いったんは受け止めなければならない。そのため、
「副業・兼業に関してはまだ規定がハッキリしていないので、入社してから説明しますね」
と、お茶を濁すようなことを伝えたところ、内定を辞退されてしまったのだ。この採用担当者は頭を抱えた。
「上司に、なんて説明したらいいんだ……」
■「副業になっちゃう」が正しい
「最初は副業するつもりはなかった。頼まれるからやってただけ」
そう答えたのは、WEBマーケティング支援で年間1,000万円以上稼ぐKさんだ。Kさんの本業は、不動産会社の営業企画。係長で、本業の年収は約500万円。断然、副業の手取りのほうが多い。
しかし、副業を本格的にやるつもりはないと言う。
「本業はあくまでも当社の営業支援であり、WEBを使っての広告戦略を考えること。本業が忙しくなったら、副業なんて絶対にしない」
最初は知人の会社にアドバイスする程度だったという。しかし、結果が出はじめると、次々に企業を紹介され、Kさんの副業収入はドンドン膨らんでいった。
私はKさんのようなタイプの人を何人も知っている。
1)本業で成果を出す
2)個人に仕事の依頼がくる
3)その仕事が副業になっちゃう
こういうケースだ。
キーワードは「副業になっちゃう」という部分。副業をしているのは、あくまでも結果論であり、最初から副業をする目的はなかった。このようなKさんタイプの人は副業によって、本業ではできないいろいろな経験を積み重ね、ますます仕事ができるようになっていく。
■「本業がおろそかになっちゃう」は最悪
いっぽうで、こちらが逆パターンである。
1)本業で成果を出せない
2)副業に手を出す
3)本業がおろそかになっちゃう
キーワードは「本業がおろそかになっちゃう」という部分だ。仕事ができない人ができる副業といったら、時間を切り売りする「代行業」のような仕事になる。当然、その副業にやりがいは感じられないし、長い時間をかけた割には収入も多くない。
当然、スキルアップや能力開発にもつながらないため、ますます仕事のできない人になっていく。仕事ができない人は総じて「自己研鑽」にも力を入れていない。
自分の「能力」を生かすのではなく、「労力」を使って仕事をすると人生を浪費させるだけだ。うまくいっても5年。本業をしながら副業をやるだなんて、10年も続けることは難しいだろう。
■お金を稼ぐことは簡単ではない
冒頭で紹介した新入社員は、何をまったく理解できていないのか。それは「お金を稼ぐことの大変さ」だ。私は20年近く営業コンサルタントをしてきた。どんなに優れた自社商品であっても、売るのは簡単ではない。一度でも営業を経験した人なら、理解できるはずだ。
だから、稼ぐことを甘く考える人は、
1)本業で成果を出せない
2)副業に手を出す
3)副業がうまくいっちゃう
と夢を見てしまう。さらに、
4)副業で独立できちゃう
とか
4)本業でも成果が出ちゃう
という幻想さえも抱く。客観的に考えたら、そんな都合のいい話はないのだが、「自信過剰バイアス」にかかるのだろう。仕事ができない人ほど「意外と自分はできるかも」と思い込んでしまうものだ。
企業であれば、本業(コアコンピタンス)以外の事業に手を出す「多角化戦略」は禁じ手だ。かつてはライブドアやライザップが大胆な多角化戦略を試みてハデに失敗している。
本業がうまくいっていても、こうなのだ。
したがって、基本は本業を一所懸命にやり、しっかり成果を出して、まずは会社に認められることだ。そして余裕ができて、ご縁があれば副業に手を出すほうがいい。
もし、どうしても本業で成果が出ないのであれば、副業を考えるのではなく、本業そのものを変えるべきだ。つまり転職するか、起業する。そんなリスクもとれないようであれば、何をやってもうまくいかない。
新刊『若者に辞められると困るので、強く言えません』に詳しく書いた通り、知識や経験が足りない人ほど自分を過大評価してしまうものだ(ダニングクルーガー効果)。
1年や2年ならともかく、長くお金を稼ぐことは簡単ではない。社会に出る前から、銘じておくべきである。