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「PDCAを回していこう! PDCAを!」とばかり言うダメ上司の特徴

横山信弘経営コラムニスト
おいおい、PDCAを回せよ!(写真:イメージマート)

「PDCAを回していこう! PDCAを!」

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。そのため、経営会議や営業会議に同席することが非常に多い。

その際、ダメな部長や課長ほど、このフレーズを連発する。

「今年の方針はPDCAだ。きっちりPDCAを回していこう! いいな」

と訴えるのだ。

だが言っているだけで、大半の組織マネジャーは、どうやったらPDCAサイクルをまわせばいいかをわかっていない。面白いことに、PDCAサイクルがまわっているかどうかの「検証」さえもできないのだ。

PDCAは、いわゆる「アサイン」「エビデンス」「イシュー」「コンセンサス」「スキーム」……等と一緒。

使っていると意識が高そう、「できるビジネスマン風に見られそう」という印象を抱かせる言葉の一つになったということだ。

■そもそもPDCAとは?

もちろんPDCAは、とても有効なビジネスツールだ。

PDCAとはPlan(計画)・Do(実行)・Check(検証)・Action(改善)のこと。このサイクルを正しくまわすことで問題が解決したり、目標が達成していく。ビジネスの現場のみならず、日常の生活にも役立つツールである。ダイエットするにも、資格勉強するにも使える考え方だ。

冒頭に書いた通り、私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。目標を絶対達成させるわけだから、当然、クライアント企業の現場では、大きなものから小さなものまで、いろいろなプロジェクトのPDCAサイクルを細かくまわしてもらう。

しかし、これがなかなか難しい。なぜなら、ほとんどの企業でPDCAサイクルを回した経験がないからだ。

日ごろから守備練習をしている野球選手に、

「もっとこのような守備練習をしたほうが、守備能力は高まる」

と教えるなら、その指導は効果が高い。しかし守備練習をやっていない選手に手ほどきしても、効果が出るまでにはかなり時間がかかる。

一緒に練習するのならいいが、守備練習のやり方を一度や二度教えたとしても、継続してやってくれないだろう。これと同じだ。

■ほとんどの職場で「PDCA」が回っていない現実

実際の現場での使われ方を解説すると、

(1)Planもないまま何となくの現状把握 

(2)抽象的な改善案の提示

(3)「PDCAをまわしていこう」の声掛け

この3ステップが多い。例文で書くと、

「営業の商談情報は、システムを使ってちゃんと部下と共有しているんだろうな」

「はい。時間があるときに共有して分析しています」

「時間があるときにじゃなくて、定期的にやっていこうか、定期的に」

「わかりました」

「今年もあと少し、社長もしっかり結果を出せと言っているから、PDCAをまわしてやっていこう。いいな」

「はい。PDCAをまわしていきます」

現場では、このような感じで「PDCA」という用語が使われることが多い。何となく会話が成立しているように思えるかもしれない。しかし客観的な視点で、そして冷徹に観察すると、何の目的で、いつのタイミングに、誰が、どのような方法で、どんな情報を共有するのか、決めていないのだ。にもかかわらず上司は「ちゃんと共有しているか?」と現状を確認しにいく。

会話のスタートがおかしいので、その後もずっとおかしいままだ。

お互いの関係を構築するための表面コミュニケーション(つまり雑談)を目的とするなら「〇」だが、マネジメントという観点からなら「×」である。

■「PDCA」は一つの用語ではない

「PDCA」について勘違いしている人の大半は、「PDCA」を一つの用語だと受け止めている。おそらくOJT、KPI、DX、AI等の用語と同じように受け止めているのではないか。

だから「OJTをしっかりやれ」と言うのと同じノリで「PDCAをしっかりやれ」と言うのであろう。

しかし「PDCA」というものは、個人で完結する「自己マネジメント」でない限り、「P」「D」「C」「A」それぞれのパートが独立している。そして、それぞれで担う人が違っていたり、チームが連携してやったりするものだ。

なので部長が組織メンバーを集めて、

「PDCA回していこう! いいな!」

と言った場合、本来なら

「誰に向かって言ってんの?」

「誰が、何をやるのかな?」

という疑問を抱かなければならないはずだ。それどころか、

「PDCAを回すなら、部長自身が陣頭指揮することでしょう?」

「PDCAを回せと言われても、そもそも『P』がないですよ」

と突っ込む人が、一人や二人いてもいいぐらいだ。にもかかわらず誰も異を唱えようとしない。この部長と同じく、メンバーでさえも、「PDCA」を一つの用語として捉えているのだ。だから、

「創意工夫しながらやっていこう!」

ぐらいのニュアンスで受け止めているのだと思う。だから、会話が成立してしまうのだ。誰も疑問に思わない。

洗濯機を回すのとは、わけが違う。PDCAの「P」を考えるだけでも、かなりの時間がかかるし、それなりの能力がある人が担わないと、組織マネジメントが機能しない。

結局は個人の力で試行錯誤を続け、事態を打開していくことになるのだ。私が専門としていると営業の分野でいうと、できる営業とできない営業の差がいっこうに縮まらない。どう考えてもマネジメントの問題である。つまり正しくPDCAサイクルが回っていないからこうなるのだ。

洗濯でたとえるなら、洗濯機が回っていないのである。

PDCAは組織マネジメントの基本だ。この用語の意味がわからない。そしてPDCAのツールをうまく使いこなせない、というのなら、マネジャーは存在意義を失ってしまう。

PDCAは難しくはない。しかし手順を間違えると、どうにもならないツールだと覚えておこう。

<参考記事>

【超大作】本物のマネジャーしか知らないプロジェクトで磨くマネジメントスキル「PMBOK」完全攻略

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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