昭和のおじさんがChatGPTで復活する衝撃の未来
近年「高給取りで働かない」と揶揄されるようになった昭和のおじさんが、AI時代にヒーローとなって返り咲く可能性がある。驚くかもしれない。が、この逆転劇は、それほど遠くない未来に現実となるだろう。
ご存じのとおり、ChatGPTの登場以降、本格的なAI時代に突入した。実際に、情報や知識、ノウハウやスキルで優位に立つことが難しいと思える局面が、増えている。
たとえば、
「当社に必要な人材は、どうやって募集をかけたらいいのか」
「あの財務コンサルタントにお願いしないと、財務上の問題が明らかにならない」
もう、こんな悩みもすぐ解決できるようになったのである。
だからこそ、こういった誰でも手に入る情報やノウハウとは一線を画す、個人の経験に裏打ちされた知恵やセンスにスポットライトが照らされるのだ。
これらは経験なしには手に入らない。
知恵やセンスというのは、十分すぎるほどの「失敗体験」の上に出来上がっているのだ。みずから試行錯誤した歴史がなければ手に入らない。
だからこそ、たたき上げの昭和のおじさんたちが、再び脚光を浴びることになる。
伝統芸能や職人的技術だけではない。
一般的な職場でも同じだ。
ChatGPTなどの生成AIが、昭和のおじさんたちをエンパワーメントさせる。その構図と事例を、今回は詳しく解説していこう。
【参考記事】
※【40代の逆襲】なぜ昭和時代に鍛えられた40代がAI時代を制すのか?
■ChatGPTで輝きを増したベテラン2人の事例
事例から紹介したほうがわかりやすい。まず紹介するのは、食品卸メーカーのエピソードである。
営業企画部で起きた出来事だ。アフターコロナに向けて、企画部の課長が部下に向けてこんな指示を出した。
「これから当社がどんな展示会をやっていくべきか、企画案を出してほしい」
部下は入社して3年目。経験も積んでいた。しかし一週間して出てきた企画案は、課長にとって期待外れのものだった。
「過去の展示会を参考に作り直して」と指示を出しなおした。それでも、結果は同じ。「なんか違う」のだ。
「外食産業の担当者が、興味を持ちそうな企画を出して」
と言っても、出てくる案はしっくりこないばかりのもの。
「しっくりこない、と言われても、わかりません」
「そりゃ、そうだよな」
部下はコロナになってから入社した。リアル展示会の細かいニュアンスを理解しづらいのだろう。
「あとはこっちでやるよ」
何度も「やり直し」をさせると申し訳ない、という気持ちがあった。部下はホッとした様子だった。
この話を経営企画の部長に話すと、「俺には部下がいないから、ChatGPTにお願いするよ」と言われた。課長にとっては驚きの発言だった。
「AIにお願いしても、精度の低い案しか出てこないでしょ」
「企画のドラフト作成だろう? ドラフトなら品質の高いアウトプットを出してくれるよ」
さらに、
「何度やり直しさせても、文句を言わないんだよ。ChatGPTは。気を遣わなくてもいいのが、最高にいい」
その後、ChatGPTの使い方を覚えて、企画案を作ったら、あっという間に完成したという。
2つ目の事例は、ある化学メーカーの業務センター長から聞いた話だ。これも印象的だった。
業務改革案をまとめてほしいと部下に指示をしたところ、その部下は現場に足を運んで粘り強くヒアリングを行った。しっかりと調査したうえで、データを用いた改革案を出してくれた。
部下は2年目だが、マジメで優秀だ。出てきた案は、想像以上にまっとうな案だった。
「スゴイじゃないか」
最初の印象は素晴らしかった。だからそう褒めたのだが、よく見るとその改革案は通り一遍の内容だった。いわゆる「机上の空論」だったのである。
それを見た業務センター顧問の専務は「現場体験がないんだからしょうがない」と笑った。
おそらく、各部門の責任者にこれを見せても、次のような厳しい指摘を出すだけだろう。
「そんなことは10年も前からわかってる」
「それができるなら誰も苦労しない」
特に、営業部門と製造部門の連携の悪さは20年以上前からの問題だ。数年前にコンサルティング会社に入ってもらい、現場ヒアリングやアンケートをとった。しかし、納得のいく業務改革案を出すことはできなかった。
「2年目の部下には荷が重いテーマでした」
「ChatGPTがあるじゃないか」
思い付いたように専務が言った。
「いいですね。やってみますか」
専務とセンター長はChatGPTで改革案を練ることにした。
最初は遊び半分だったが、すぐ本気モードに突入した。もっともらしい業務改革案が出たあと、現場の事情をいくつか伝える。すると、ChatGPTはそれらを加味した修正案を次々と出してくる。そのスピード感に2人は驚いた。
「まるで、わが社を知っているかのようだ」
「どこの会社でも、同じような悩みを抱えているのでしょう」
その案だとダメ。その対策だと弱い。何度も「やり直し」をさせた。すると、それなりに現実的な改革案が生まれた。
「結局、落としどころはここですよ」
「そうだな」
業務改革案といったって、実際にはそれほどレパートリーはない。
あっちを立てたら、こっちが立たない。こっちを立てたら、あっちが立たない。なら、落としどころはどこにあるのか? 選択肢は、2つか3つしかないのだ。
ChatGPTは、どういうデータを準備して、どんなスタイルで根気よく対話していくべきか。仲介役に必要なスキルまで教えてくれた。吟味した時間は1時間ほどだった。
その改革案を見た社長や会長は、手放しで喜んだ。
「経験豊かな君だから、こういう改革案ができるんだよな。さすがだ」
■なぜ部下指導が苦手なベテランがイキイキと働けるのか?
2つの事例に共通しているのは、ChatGPTを使うことで、ベテランたちが再び認められるようになった、ということだ。昔は結果を出したのに部下をうまく育てられなかった上司たちが、である。
経験が豊かで職人気質。こだわりが強くて、お客様からの評価も高い。そんなベテラン社員は、思っていることを相手に上手く伝えられないという欠点がある。だからか、部下指導が苦手だった。
言語力が高くないから、部下に仕事を任せても「ダメ出し」「やり直し」の連続。自分もそのように育てられてきたから、それが当たり前だと思い込んでいた。しかし昭和の時代が終わると、そのやり方は通用しなくなった。
「それならそうと、最初から言ってください」
「決め手に欠けるじゃあ、わかりません」
と部下から言われるようになった。
「頑張ってるのに認めてもらえない」
とハッキリ口にする部下もいた。
話し方教室に通っても、「伝え方」の本を読んでも、なかなか変われなかった。
結局は「自分でやったほうがはやい」といって仕事の負荷を多くして、体を壊すベテランも多い。当時の役員に諭され、第一線を離れることになる人も少なくない。
そんなベテランたちが、ChatGPTで復活するのだ。人間関係で苦慮した職人気質な人たちは、自分のこだわりを形に変えてくれるChatGPTをおおいに評価するだろう。
「コイツだけだ。俺のことをわかってくれるのは!」
うまく言葉にできない感覚的なものを、期待通りのカタチに変えてくれる従順な味方だからだ。
それでは、どういった類の仕事なら昭和のおじさんたちが真価を発揮できるのか。さらに詳しく解説していこう。
■大半のデスクワーカーは昭和のおじさんで十分か?
そもそも、誰がやっても同じような結果になる仕事を、人間がやる必要があるのか?
ChatGPTを使って仕事をしていると、すぐそのことに気づく。
ベテラン社員が、経験の浅い部下に平易な言葉で教えられる仕事は、結局のところAIにも任せられるに決まっている。
そしてAIのほうが仕事のスピードは速いし、認識のズレも生じない。退屈な仕事でも「やりがいを感じない」と愚痴を言われない。
何より、こちらが納得するまで、何度でも「やり直し」をさせることができるのが嬉しい。昭和時代のやり方を一切変えなくてもいいのだ。
部下に任せて、5回やり直しをさせ
「もういいよ。これで提出して」
と、納得のいかないものを完成形とするより、
ChatGPTに50回やり直しをさせ、
「これだ。これなら、いいだろう」
と、自分で納得できるものを完成させたほうが会社のためにもなる。
情報の収集や分析、加工といった、大半のデスクワーカーの仕事もそうだ。
AIをうまく活用できれば、昭和のおじさんたちはさらにレベルの高い仕事を大量に処理できるようになるだろう。部下育成に気を取られることもなくなるからだ。
空いた時間を、チャレンジャブルな仕事に充当できるようになり、さらに経験を積むことができるようになる。
AIに学習させれば、どんなに特殊なケースもパターンを覚えて再現できるようになるはずだ。自分の知恵やセンスが学習データとなり、会社の資産として残り続けるだろう。
このように、これからは昭和時代に「やり直し」や「ダメ出し」され続けた40代、50代の出番だ。彼らの経験に基づいた知恵やセンスが、ChatGPT等の生成AIによって、数々の難局を乗り越える原動力となる。
少なくとも、
「昭和世代のおじさんのせいで、若い人が定着しない」
「人手不足を解消するには、ベテラン社員に変わってもらわないと」
という悩みが減ることは間違いないだろう。