GDPRとAI規制法がもたらす影響とは?北欧から見る欧州の未来
社会のデジタル化が世界的にも進んでいるとされる北欧諸国。そして、欧州は、EU一般データ保護規則(GDPR) や欧州(EU)AI規制法など独自の規制を進めている。
「世界の人口の6%に満たないとはいえ、世界経済の14~15%を占めている。北欧だけでなくEUも含めて豊かな地域ですが、経済成長に貢献できるような企業や社会を育成していかなければ、このままではいけない」
デンマークのスタートアップの祭典TechBBQでそう警告するのは、スウェーデンの女性エコノミスト・オブ・ザ・イヤーを受賞し、奨学金非営利団体アンダース・ウォール財団の理事長を務めるAnna Lundinさんだ。投資マネージャーとしてNorrsken VCに入社する前は、Spotifyで8年間、戦略、オペレーション、市場拡大に携わってきた。
世界地図で、欧州の規制枠にいながら独自の発展を進める北欧の利点、そして課題について、Lundinさんはこう語る。
北欧の強み
- デンマークやスウェーデンはライフサイエンス分野で強く、医療技術や製薬での先進性を持っている
- ノルウェーやスウェーデンはグリーンテックでの革新、特に再生可能エネルギーや持続可能な技術でリードしている
- 北欧のリーダーは持続可能なビジネスモデルと環境保護に強い関心を持ち、世界的にも高い評価を受けている
- 北欧の人々は高いデジタルリテラシーを持ち、技術に対する信頼も厚い
- 北欧企業は柔軟な働き方や従業員のエンゲージメントを重視しており、高いモチベーションを維持している
北欧の課題
- 多くの北欧企業やスタートアップは売却を目指す傾向が強く、世界的な規模での成長を目指すことが少ない
- 教育システムにはより高度な技術的スキルの習得が不足しており、STEM教育においてアジアなどの成長市場に遅れをとっている
- EU内の競争政策が過剰で、通信インフラなどの大規模な投資が十分に行われていない
- スタートアップは多いが、あまりに多くのことが、売却して投資家に引き継いでもらうか、企業に売却することに集中しすぎている→未来の企業を作り上げていない
- 人間中心のアプローチは多くの利点があるが、大規模で迅速な展開が必要な場面では柔軟性が逆に障害となる場合がある。大規模なスピードで動きたいのであれば、一緒に動く必要があり、北欧のように一人一人が柔軟でありすぎるわけにはいかない
- GDPRやAI規制法などのEUの規制が、グローバル企業にとって北欧市場への参入を難しくしている
「GDPR規制が復活したとき、グローバルなハイテク企業はみなEUのGDPR規制を採用し、自社のソフトウェアに組み込みました。しかし、AI法が始まる2024年には、例えばMetaのような企業が、EUのこの新しい規制のために、オープンソースでLLaMAと呼ばれる大規模な言語モデルをEUのデータで訓練しないと言っています」
北欧はどうしていけばいいのか
- 北欧企業は売却志向を改め、世界的なリーダー企業を目指すための長期的な所有構造やビジョンを持つ必要がある。つまり、もっとグローバルなスケールの拡大を目指す
- より高度な技術的スキルを育む教育体制の整備を行い、グローバルな技術競争に対応できる人材を育てる
- 米国との規制調和を目指し、技術規制を統一することで、欧米連携を強化し、取り残されるリスクを減らす
- 電気通信や新技術の導入など、必要なインフラに対する投資を増やし、競争力を強化する
- ヨーロッパ基盤の言語モデルやその他の技術を自ら構築し、地域の価値観に基づいた技術開発を行う
- 持続可能性を基盤としたビジネスモデルを強化し、環境と経済の両面での持続的成長を目指す
- 柔軟性を保ちつつ、大規模なプロジェクトや市場拡大に対するスピード感を持つ戦略を導入する
- 自ら技術を構築し、規制との整合性を保つことで、地域社会の価値観を守りつつ、テクノロジーの進展を進める
経済的には豊かだが、小国ゆえに規模拡大というかだに直面する北欧。そのうえ、今後のAI法は欧州のハイテク企業の競争力を制限するかもしれない。米国とEUの間で技術規制を調和させる必要性と、欧州の価値観を技術に確実に組み込むための国家が支援する言語モデルの可能性が対談では強調された。
Anna Lundinさんの指摘は、良くも悪くも北欧社会の特徴をうまく捉えている。日本においても、デジタル化や持続可能な社会の実現に向けた取り組みが進む中で、北欧の課題から学べる点はある。地域の価値観を反映した技術開発といったアプローチは、日本社会に合わせて応用も可能だ。世界的な競争力を維持しつつ、地域独自の価値観を守ることは、北欧だけでなく、どの国にも共通する課題といえるだろう。