そもそもセイバーメトリクスって何が良いの?
曖昧だった部分を比べる手法
セイバーメトリクスとは1970年代にアメリカで、ビル・ジェームズによって提唱された統計学を用いて客観的に選手の評価や戦略を分析する手法である。
これによって先入観に左右されない見方が出来る。例えば、「先頭打者へのフォアボールはヒットを打たれるより失点につながりやすい」というイメージがあるが実際にはほとんど差が無いという統計がある。また、打者成績は打率の順に並んでいることが多いが得点には打率よりも長打率や出塁率の方が関係していることもわかった。
このように統計学を用いて客観的に分析すると”主観にとらわれない事実”が浮かび上がる。その他にもセイバーメトリクスが優れている点は、これまで曖昧だった部分を比べることが出来るようになったことだ。
3割打つ打者と10勝する投手、チームにより貢献したのはどちらか?
これまでは共通の物差しが無かったため比べようがなかった。しかし、どれだけの得点を生み出したか、どれだけの失点を防いだかに着目すればその選手の貢献度を測ることが出来る。
エルドレッド(広島) 打率.260 37本塁打 104打点
ゴメス(阪神) 打率.283 26本塁打 109打点
非常に近い成績を残しているが、二塁打や四球など他の要素も含んだ上で生み出した得点を比べてみるとエルドレッドが79.72点でゴメスが94.06点。出場試合数に25試合の差はあるがどちらがよりチームに貢献したかは一目瞭然だ。
また、他にも数字で表しにくい指標と言えば守備力だろう。これまでは失策の数や守備率でしか比べることが出来なかったが、アメリカの専門的な会社が持っているような特別なデータが無くてもNPBのホームページで公表されている成績だけで簡易版ながら守備範囲を比べることも出来る。セイバーメトリクスの出現によってこれまで主観頼みで曖昧にされていた部分は確実に範囲が狭まっている。
省きたい「運」の要素
客観的に分析する以上「運」の要素はなるべく排除したい。環境によって大きく変わるのは打点や得点などだ。打点は打席に入った時の状況に大きく左右され、同じ能力の打者でも4番を打つか8番を打つかで結果は全く異なる。同様に得点も後ろにクリーンアップが控える1、2番と下位打線へと続く打順では本塁を踏む回数に違いが出て当然。もちろん1死3塁で狙って外野フライが打てる技術や抜群のスタートを切れる走塁技術は素晴らしい。しかし、打点や得点はその打者の能力以外に依存する部分が大きいためセイバーメトリクスでは重要視しない。
同じく投手の勝ち星や防御率も運の要素が強いと考える。勝ちがつくかどうかは味方打線との兼ね合いが大きく、防御率も自責点のみが計算対象となるため同じような打球を打たれても安打か失策か公式記録員の”主観”の影響を受ける。更には「安打となるか凡打になるかは野手の守備力に左右される。これでは投手の能力が反映されているとは言えない」とする考えさえあり、投手成績の中で野手の守備力の影響を受けない奪三振、与四球、被本塁打の3つのみから算出される指標もある。
日本でもチーム編成に生かす球団が
アメリカ発のセイバーメトリクスは、低年俸のアスレチックスが高勝率を残したことから注目を浴びた。日本でも長打率+出塁率で打者の攻撃力を示したOPS(On−base Plus Slugging)を目にする機会が増えるなど徐々に浸透しつつある。獲得選手の特徴を見る限り日本ハム独自の選手評価システム、ベースボール・オペレーション・システムにもセイバーメトリクスの考え方は含まれている。楽天も他球団を戦力外になったセイバーメトリクス的には評価の高い選手を獲得しているし、ネットのインタビューで立花球団社長は「田中が残した数字で最も大きいのは、24勝ではなく、212イニングを1点台の防御率で抑えたことです」(web Sportiva)と話していた。セイバーメトリクスには得点と失点から勝率を予測する方法もあるが、これを意識してのものだと思われる。大エースが抜けた穴をいかに埋めるかを問われると「失点を減らすよりも得点を上げる」という趣旨の答えをしていた。この投手が12〜15勝して、この外国人投手が10勝前後すれば優勝ラインの80勝に届く、という感覚に頼った編成ではなくロジカルな視点を大事にしている。昨季は日本ハムが、今季は楽天が最下位に沈んでいるがどちらもその前年には優勝を飾っている。年俸総額から見ても戦力的に他球団より圧倒的に優れていたかと言えばそうでもない。セイバーメトリクスは混パ演出にも一役買っている。