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『仮面ライダー』の本郷猛は、知能指数が600。いったいどれほどアタマがいいのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

先日、NHK総合で『仮面ライダー』の第1話が放送された。放送開始50周年ということで「全仮面ライダー大投票」という企画を進めているためだろうが(投票結果は11月6日発表)、NHKが『仮面ライダー』をまるまる1話放送したのには驚いた。

そしてもっと驚いたのは、その話のなかで、ショッカーの首領が本郷猛に向かって「われわれが求めている人間は、知能指数600、スポーツ万能の男。君は選ばれた栄光の青年だ!」と言ったことだ。

知能指数600! あまりの数値にびっくりするし、そんなスゴイ設定が『仮面ライダー』の第1話から明かされていたとは……!

これ、どれほどすごい頭脳なのだろうか? 本稿では、本郷猛の「知能指数600」について考えてみたい。

◆知能指数とは何か?

現実の世界では、知能指数は平均が100と定義され、150だと天才といわれる。

ただし、それがシンプルに「頭のよさを表す数値」かといえば、そう単純ではない。

知能指数と呼ばれる指標は、歴史のなかで2種類が生まれている。

もともと知能指数は、フランスの心理学者アルフレッド・ビネーが1905年に提唱した「知能検査」から生まれたもので、それは学校での集団学習に向かない子どもを発見し、適切な教育を受けさせるための検査だった。子どもにさまざまなテストを受けさせ、「何歳の平均と同じか」を、実際の年齢と比べる。

たとえば、10歳の子どもの成績が12歳の平均と同じだったら、知能指数は12÷10×100=120となる。

だが、こうした数値が意味を持つのは、人間の知能が発達を続ける子どものうち(18歳までとされる)だけだ。

成人の知能を数値化する方法が考案されたのはその数十年後で、被験者がテストを受けて、全体のなかでどんな成績かが数値化されるようになった。たとえば、上位16%との境界線上なら知能指数115、上位2.5%との境目なら知能指数130という具合。

つまり前者は、18歳以下の人の「年齢と比べた発達度」を表し、後者は年齢に関係なく「全体のなかでの成績」を示す。まったく異質な指数なのに、どちらも「知能指数」という言葉で呼ぶから、話がヤヤコシクなっているのだ。

仮面ライダー=本郷猛は24歳だから、明らかに後者であろう。すると、試験を受けたなかでの成績がズバ抜けてよかった……ということになる。

◆10万人に1人の頭のよさ?

マンガやアニメには、頭のいい人というのがたくさんいて、たとえば『ゴルゴ13』のデューク東郷は知能指数180、『ルパン三世』のルパンは知能指数300だという。このヒトたちも相当すごい。

知能指数は「全体のなかの何%にあたるか」に置き換えられる。逸材が出てきたときに「10万人に1人の天才」などという言い方をするが、それで表現できるということだ。

たとえば、デューク東郷の知能指数180とは、上位0.0000044%との境界線上にいることになる。これは分数に直すと2300万分の1だから、つまりゴルゴは2300万人に1人という天才!

しかし、日本の人口は1億2600万人。「日本に5~6人しかいない頭のよさ」と考えたらすごいけど、「ゴルゴ13レベルの天才が、わが国には5人か6人いる」と考えてもドキドキしますね。

同じように算出すると、ルパン三世の知能指数300とは、

150000000000000000000000000000000000000000000000人

に1人の大天才!

さすが世紀の大泥棒は、ものすごいですな。

ところが、本郷猛はそのレベルをはるかに上回る頭脳の持ち主なのだ。

知能指数600の彼は、

2300000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000人

に1人のスーパー大天才!

ちなみに、世界の総人口はおよそ7800000000人。上の数字よりはるかに少ないわけで、そんな結果が出ることがあり得るのか?

これ、まったくあり得ないわけではない。それは、テストで極端な結果が出た場合で、たとえば問題がモーレツに難しく、1112人がテストを受けて、本郷猛だけが点を取り、彼以外の1111人は全員が0点だった場合。

……って、それはどんなテスト問題なんですかね。そんなに難しい問題は、知能テストとして間違っているとしか思えません。

ところで、最後にオソロシイ報告を。

1970年代に大流行した「仮面ライダーカード」の400番に、本郷猛の説明として、こんな記述があった。

「小学校のころから、理科や算数がバツグン。せいせきはクラスで5ばんいない」。

5番以内!? ダントツではなく!? すると、本郷猛のクラスには、本郷レベルの大天才が5人もいたことになる。担任の先生はさぞかしやりにくかっただろうなあ……と想像いたします。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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