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「新・ガザからの報告」(3)(24年5月28日)

土井敏邦ジャーナリスト
(パンを焼く避難民の家族/撮影・ガザ住民)

【再び悪化した食料事情】

(Q・現在の生活はどういう状況ですか?)

 現在、私たちの生活はひどい状況です。人びとは調理用ガスの危機を迎えています。ガスがないんです。人びとは木材を集めています。木の枝、古い家具などです。調理をするために木も切り倒しています。しかし今やガザにはほとんど木が残っていません。木製の電柱さえ、燃料にするために盗まれているんです。私は古い家具を燃やしています。古着もです。私たち大人や子どもたちの古着です。また私の書棚の本も燃やしています。古本です。今は調理用のガザがないことが最も深刻な問題で、それが環境にもひどい影響を及ぼしています。木を切り倒すと環境汚染を増幅し、ひどい環境状況を生み出します。

(Q・食料事情はどうですか?)

 食料事情は一旦、好転しましたが、今またひどくなりました。食料を手に入れるのが難しくなったんです。エジプトから来ていた食料供給はトラックが入って来なくなり、ストップしてしまいました。イスラエル側(ケロム・シャローム/エレズ、両検問所)からの食料も、アメリカが作った臨時港からの食料の量も限られています。

 食料搬入には3つのルートがあります。1つはイスラエルから、2つ目はアメリカの海上輸送、そして空からの食料投下です。しかし主要な搬入元であるエジプトからのトラックによる搬入手段を失いました。

(Q・今あなたの家族はどんな食べ物を食べていますか?)

 2、3週間前から食料事情はまた悪化しています。再び食料危機に直面しています。子どもたちのために最大、2食だけ、時には1食だけです。食料が限られていて、マーケットには品物がない。食料はとても高くなりました。だから、また食料不足に苦しんでいます。

 水については頭痛の種です。私たちにはきれいな水がありません。汚い水を使っています。洗浄されていない水です。中にはタブレットを買う人もいます。アイランドで製造されたもので、水を浄化するものです。5リットルの水に1錠入れます。飲めるようにするためにです。しかし味はひどいものです。苦く、辛くもなります。子どもたちはこの水を飲みたがりません。しかし他の手段がないのです。それは人の健康のためによくありません。

 小麦粉はありますが、その量は限られています。肉、鶏肉、魚もありません。わずかな種類の野菜しかないのです。トマト、じゃがいも、玉ネギなどですが、とても高いです。子どものためにサラダを1皿を出すのに6~7ドルはかかります。もちろんオリーブ油もありません。

 野菜の他は缶詰です。しかしこの缶詰が健康障害を起こしています。この戦争の初めからこの缶詰を食べています。しかしガザに届く缶詰はほとんどが期限切れです。それは本国ではゴミ捨て場に捨てられるものです。でも私たちが食べられるのは、野菜と缶詰しかないんです。

【ハマスが支配していたラファ検問所】

(Q・5月7日にイスラエル軍がラファに侵攻しましたが、今、ラファの検問所はどうなっていますか?)

 以前、ラファの検問所が民間の会社スタッフがコントロールしていると日本のジャーナリストが主張しているとあなたは私に知らせてきたことを覚えています。今回、ラファ検問所でハマスの戦闘員をイスラエルの戦車が殺害しました。ラファ検問所がこれまでハマスによって完全に支配されていたことの証拠です。

 企業「アハラ」のスタッフが国境の管理をしていたというのは、まったく事実と違います。今回、イスラエルに占拠されるまでハマスがコントロールしていました。そこにイスラエル軍が戦車で侵攻してきたのです。その検問所での戦闘で、戦車によって20人以上のハマス戦闘員が殺されました。

(Q・トルコのエルドアン大統領が負傷したハマスの戦闘員を受け入れたと聞きましたが?)

 私はそんなニュースを聴いていません。トルコがハマスの負傷した戦闘員を病院で治療したという最近のニュースは聞いてはいないけど、それはこの戦争の最初からやっていることです。しかし秘密裏に、です。それが公にされなかったのは、トルコがNATOのメンバーだからです。

(Q・負傷したハマス戦闘員がトルコに移送されたということは、検問所がハマスに支配されていたという証拠ですね?)

 もちろんです。私は最初から検問所はハマスにコントロールされていると言ってきました。国境の通過は完全に制服を着たハマスの国境管理当局によってコントロールされていたんです。そしてそのセキュリティーのためにハマスの戦闘員が守っていたんです。そしてカタールやトルコ、マレーシア、アルジェリアの医療団が出入りしていました。だからイスラエルはこのルートを切断しようとしたのです。イスラエルが恐れたのは人質やハマスの負傷した軍事部門の指導者たちがこのルートでガザの外に秘密裏に出すことを恐れたからでしょう。ハマスの指導者たちはガザの外で治療を受ける必要があったのです。

(感染症を患う子どもたちが増加している/撮影・ガザ住民))
(感染症を患う子どもたちが増加している/撮影・ガザ住民))

【蔓延する肝炎】

(Q・以前、避難民の中に病気が蔓延しているとのことでしたが?)

 ガザ地区ではたくさんのパンデミックや感染症が高い比率で広がっています。何千という人が薬を求めて病院に殺到しています。病気とりわけ感染症に苦しんでいるからです。その主要な原因は水です。汚染された水、汚染された食料、汚染された空気・・・それは環境汚染のためです。ゴミは回収されません。それが環境汚染をさらに引き起こしています。空気も土壌も地下水も汚染し、それが蠅や蚊、害虫をもたらしています。

(Q・主にどんな病気が蔓延していますか?)

 最も深刻なのは肝臓の障害です。肝炎など他の感染症です。何万という人が肝炎に苦しんでいます。

(Q・どうやって治療していますか?)

  家で休養すること、食料油を避け、甘い食べ物を食べる。砂糖、もし手に入るなら果物、ジャムなどです。塩分はできるだけ避ける。もちろん回復するためには薬が必要です。

(Q・すでに9ヵ月になろうとしています。人びとの精神状態はどうですか?)

 私たちの間で新たな精神的な問題を抱えています。人びとは神経質で不安定になっているのです。いつもお互い叫びあっている、争っている、とても神経質になっています。平穏でいられず、我慢できなくなっていて、精神的なコントロールが利かなくなっています。毎日、人びとが街や通り、近所でお互い争い、叫びあっているのを目撃しています。最近、この現象が増えています。この2、3週間でとくにそうです。人びとはとても精神的に疲れはて、それが日常の行動に現れているのです。

(Q・殺人などの犯罪は増えていませんか?)

 窃盗、殺人などの犯罪の率が増加しています。先週も、ガザ中部で3件の事件がありました。ナイフによる刺傷、銃撃などの事件です。このような犯罪が増えているのは、人びとが神経質になっていて、それが行動に現れていのです。

【民衆の中に隠れるハマス幹部】

(Q・イスラエルとハマスの交渉がいつも決裂することに住民は失望していますか?)

 2つに分かれます。1つは失望している人たちです。「停戦」の交渉のごとに双方がエジプトやカタールに行き、交渉する。そして最終的に何の成果もない。停戦も実現しない。人びとはとても失望しています。

 他方、まったく気にかけない人たちもいます。交渉の状況は馬鹿げていると見て、そのニュースを追おうともしないのです。

(Q・数日前にイスラエル軍がラファ市内を攻撃し、45人の住民が殺されました。この事件について説明してくれませんか?)

 2日前の夜に、イスラエル軍がラファ西部を攻撃しました。そこはテントの密集地でした。40人が殺され、200人以上が負傷しました。それはとても残虐な虐殺です。

 しかしイスラエル軍は最終的にその目的を果たしました。2人のハマスの軍事部門の指導者を殺害したのです。ヨルダン川西岸出身の2人のパレスチナ人です。イスラエル兵の捕虜交換(2011年10月)で出獄し、2人はハマスのヨルダン川西岸担当で軍事部門の指導者になりました。彼らがヨルダン川西岸でのハマスの軍事部門をコントロールしていました。

 この2人がラファのテント村に8~10人の部下たちと共に潜んでいて。彼らがこの空襲で殺されました。しかし他の人たちは一般市民で、ほとんどは子どもたちでした。

(Q・ということは、このイスラエル軍の攻撃の目的は2人の指導者を殺害するためだったということですか?)

 そうです。人びとはイスラエルを非難すると共に、ハマスの指導部を非難しています。「なぜハマスの幹部たちが一般市民の中に隠れていたのか」と。

(Q・ハマスに対する住民の感情に変化はありますか?人びとはハマスの指導部に怒っている、とあなたは以前言ったが、今はどうですか?)

 住民のハマスへの怒りは増しています。なぜなら人びとが一層苦しんでいるからです。生活の必需品、水、食料、薬、セキュリティー、平和、住居、自由、これらは人間にとって不可欠なものですが、それが人びとにはないのです。人びとはこの戦争を長引かせているハマスの指導者にとても怒っています。人質を解放することで戦争を終わらせることができるはずなのに。住民はハマスを激しく非難しています。

(Q・もし人質が解放されたら、イスラエルは何の障害もなく、ハマスを壊滅できると思うのですが?)

 ハマスはアラファトを真似すべきだと思います。1982年にレバノンにイスラエルが侵攻したとき、同じような状況でした。アラファトはこの流血を止めるために、PLOをベイルートから撤退させました。当時、パレスチナ人とレバノン人の死者が約2万人だったが、私たちは今4万人に近づいていて、2倍です。アラファトは撤退を決意しました。その戦争を終わらせるためにです。

 しかしハマスはそれを受け入れない。ハマスもアラファトのように撤退すべきなのです。しかしこの戦争は止まらず、私たちはとても高い代償を払わされています。

(Q・しかしイスラエルはシンワールが外に脱出することを許さないでしょう。イスラエルは彼を殺害したいはずです。しかも1982年にPLOが撤退したあと、サブラ・シャティーラ難民キャンプでどれだけの住民が虐殺されたことか。同じことが起こるとは思いませんか?)

 イスラエルがガザをこれ以上破壊するとは思いません。ガザはすでに破壊されています。しかしハマスは「この戦争を終わらせるために、自分たちがガザを撤退する」と提案することはできると思います。

 しかしこの戦争はすぐには終わらないでしょう。ハマスはガザの支配を手放すことを受け入れないからです。どんなことが起ころうと、ガザを支配し続けたいと願っていると思います。

(Q・民衆はそれを受け入れるだろうか?)

 いいえ。ほとんどの住民はそれを拒否しています。ガザにハマスが残るかぎり、この戦争は終わりません。この戦争はハマスを壊滅するでしょう。ハマスの政府としての権力をです。ハマスがガザを支配することを阻止されることを住民は望んでいます。

【環境汚染が引き起こす癌】

(Q・将来、どうなりますか?住民は病気や精神的問題を抱えている。生存できるのか?)

 人びとはすでに崩壊しています。すでに倒れているのです。不幸にもすべてが崩壊しつつあります。ハマスは地下のトンネルに隠れていますが、地上のガザは完全に消滅しました。ほとんどの建物、インフラは破壊されました。

(Q・住民には希望がないということですね?)

 この戦争が終わって、最も困難なことの1つは、病気の癌(がん)です。これから20~30年でがん発生率が最も高い地域の1つになるかもしれません。外の人には、どれほどガザが爆撃されたか想像もできないでしょう。毒物、化学物質でガザの土壌、空気、建物などが汚染されました。そんな環境の中で、将来のガザの人たちがどうなるか、想像できますか?

 世界で最も癌発生率が高い地域になり、どの家族、どの家にも癌患者を見ることになるでしょう。

(Q・しかも治療もできない)

 そうです。

(Q・あなたはこれからのどうすることを計画していますか?)

 この戦争の結果を見て判断します。もしハマスがガザで権力を持ち続けるようなら、間違いなく、私はガザを出ます。いい生活を送れる場所を探します。子どもの将来のためにです。

 もしハマスがガザから排除されれば、ガザに留まるか、外に出るか考えます。しかしたぶんガザを出るでしょう。

【ハマスの越境攻撃は「占領へのレジスタンス」?】

(Q・日本の中には、10月7日のハマスの越境攻撃を「占領へのレジスタンス」だと主張する人たちがいて、それに賛同する人は少なくありません。ガザからのそういう動きはどう見えるのか?)

 彼らはガザで何が起きているのか、本当の姿を知らないのです。見ていない。アルジャジーラの報道、カタール、トルコ、イスラム同胞団が作り出したオフィシャルなイメージを信じているのです。

 私は生まれてからずっとガザで育ってきました。そしてガザで起こったことを目撃してきました。そんな私から見て、10月7日の攻撃は「レジスタンス」ではありません。犯罪であり、人権侵害です。倫理、道徳に反する行為です。一般市民を攻撃したギャングです。子どもを殺し、遺体を焼いた。パーティーで踊っていた若者たちを殺害した。コーヒーショップやレストランで飲食していた人たちも殺した。バス停留所で待っていた人たちも殺した。妊婦たちも家で寝ている老人たちも殺した。イスラムの教えでは、こういう人たちに危害を加えることは避けなければならない。女性や子ども、老人たちが攻撃から除外されるべきだった。どんな戦争でも、彼らは除外されるべきだった。預言者ムハマドが子どもや女性や老人たちに危害を加えてはいけないと命じています。それがイスラムなのです。私はハマスがほんとうにイスラムに従っているのかわかりません。

 もしハマスが兵士らだけを攻撃していたら、私はあの攻撃を「テロ」とは呼びません。それはレジスタンスです。国境で兵士たちを殺害したあとに、なぜイスラエル内に侵入し、一般市民をああいうふうに殺したのか、私には理解できません。

【ガザへの支援】

(Q・外からガザの人たちにどういう支援ができますか?どんな支援を必要としているのですか?)

 私たちにはまず食料が必要です。今はそれが一番必要です。食料がとても高い。私の周辺はとても貧しい地域で、隣人たちはとても貧しいんです。ほとんどの人たちは農業で生活していましたが、今は野良仕事に出られません。農地の近くに戦車がいて、殺されてしまうからです。彼らには食べ物が必要です。

(Q・薬はどうですか?)

 糖尿病や高血圧の薬、赤ん坊のミルクなど住民はたいへん困っています。

(Q・お金を送っても物を買うのは難しいですか?)

 ブラックマーケットで買うことはできます。戦争前のように通常のマーケットで買うのは難しいです。他の地域から密輸した品物、盗まれた支援物資を買うことができます。しかし食料や薬を買うことはとても困難です。もちろん金があれば、買うことができますが。

 私はイタリアの社会党からお金を受け取りました。3000ユーロ(約49万円)を送ってきました。それで私はテントやこどものミルクなどを買いました。買った物と値段をまとめ、その資料を写真とビデオをつけて社会党に送りました。ごかましがないことを示す証拠としてです。

 私が買い、配給したものすべての物を、写真やビデオで撮影し、レポートを送ることができます。

しかし金を送るときは、Paypalではなく銀行を通して送ってください。「パレスチナ銀行」は機能しています。7~10日はかかりますが。(続く)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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