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【インタビュー前編】アルカトラス、34年ぶりの新作。グラハム・ボネットが語る『ボーン・イノセント』

山崎智之音楽ライター
Alcatrazz / photo by Alex Solca

アルカトラスのニュー・アルバム『ボーン・イノセント』が2020年7月31日(金)、世界同時発売となる。

元レインボー〜マイケル・シェンカー・グループのヴォーカリスト、グラハム・ボネットを中心に結成。イングヴェイ・マルムスティーンとスティーヴ・ヴァイというギター・ヒーローを輩出してきた伝説的ハード・ロック・バンドであるアルカトラスの新作スタジオ・アルバムとしては4作目、何と34年ぶりとなる。

2019年5月の来日公演に同行、アルカトラス『ノー・パロール・フロム・ロックンロール』(1983)とレインボー『ダウン・トゥ・アース』(1979)という2大名盤を完全再現した名手ジョー・スタンプをギタリストに迎えた本作。さらにクリス・インペリテリ、ボブ・キューリック、ダリオ・モロというグラハムが共演してきた歴代ギタリスト、そして日本の若井望も参戦。オーセンティック(正統)なアルカトラス・サウンドが完全復活を果たしている。

新時代、2020年のアルカトラスについて、グラハムとジミー・ウォルドー(キーボード)が語る全3回のインタビューをお届けする。まずはグラハムの熱気を帯びたトーク前編を。

<アルカトラスの正統な新作といえるアルバムになった>

●『ボーン・イノセント』はアルカトラスとしては34年ぶりとなる新作スタジオ・アルバムですが、この名前を復活させたのは何故ですか?

アルカトラスを聴くようなロック・ファンは、こういうアルバムを求めていたと思う。俺には独自のソングライティング・スタイルがある。それは他の人が真似出来ないものだ。去年、レインボーの『ダウン・トゥ・アース』とアルカトラスの『ノー・パロール・フロム・ロックンロール』を完全再現するライヴをやって、日本のファンがすごく盛り上がってくれた。オリジナル・メンバーの俺、ジミー・ウォルドー(キーボード)、ゲイリー・シェア(ベース)がいるし、アルカトラスの正統な新作といえるアルバムになったんだ。

●『ボーン・イノセント』には、あなたが過去に共演してきたギタリスト達が集結した、いわば“グラハム・ボネット・フェスト”的なアルバムでもありますが、マイケル・シェンカー・フェストは意識しましたか?

ALCATRAZZ『BORN INNOCENT』ジャケット/ワードレコーズ 2020年7月31日(金)世界同時発売
ALCATRAZZ『BORN INNOCENT』ジャケット/ワードレコーズ 2020年7月31日(金)世界同時発売

決してマイケルのアイディアをパクったわけではないよ(笑)。長いあいだシンガーをやっていると、いろんなギタリストと繋がりが出来るんだ。そんな足跡を振り返ってみたかったんだ。今のアルカトラスではジョー・スタンプが“正式”なギタリストだ。それに加えてクリス・インペリテリやボブ・キューリック、ダリオ・モロなどが新曲を提供して、ギターを弾いてくれたし、スティーヴ・ヴァイは「ダーティ・ライク・ザ・シティ」を書いてくれた。ただ、アルバムとしてのひとつの流れがあることを重視した。ギタリストという人種は、いつだって自分のやりたいようにやるからね。『ボーン・イノセント』では、俺のヴォイスとメロディ、そして歌詞が曲をまとめ上げているんだ。ギター・コンピレーションではなく、バンドのアルバムとしてのトータル性があるよ。まとまりのないものにはしたくなかったんだ。

●ジョー・スタンプはどんなギタリストですか?

ジョーは素晴らしいギタリストだ。アルカトラスで弾くなら、その精神を受け継ぐギタリストでなければならない。もちろんライヴではイングヴェイ・マルムスティーンやスティーヴ・ヴァイ、リッチー・ブラックモアやマイケル・シェンカーが弾いた曲をプレイするし、テクニックも必要だ。ジョーは多かれ少なかれイングヴェイに通じるタイプのギタリストだよ。でも、ただ弾けるだけでなく、クリエイティヴでオリジナルであることも大事だ。ステージで激しく動き回るけど演奏に支障はない。さらに彼は地球上に残された数少ない、正気を持ったギタリストだ。彼とは人間として付き合っていけるよ。

●ジョー・スタンプズ・レイン・オブ・テラーなど、ジョーの過去のキャリアは知っていましたか?

いや、ジョーの名前を知っている程度で、彼のプレイは知らなかった。数年前、一度オールスター・ジャムみたいなライヴで一緒だったけど、彼のことをよく知るまでには至らなかった。でも今ではバンドのみんなと仲良くやっているよ。クール・ガイだ。

●ジョーが過剰に弾き過ぎるときはありましたか?

ジョーはいつ弾くべきか、いつ抑えるべきかを心得ているよ。ギタリストという人種は自己主張が強いから、超絶速弾きに走ったりするものだ。テクニカルなギターはアルカトラスの魅力のひとつだし、俺も「弾きまくって欲しい」と頼んでいるよ。大事なのはバランスだ。曲やメロディを犠牲にしてまで弾く必要はない。トゥー・マッチは求めていないんだ。まあ、ライヴだと喉を休められるし、有り難くもあるんだけどね。レインボー時代はリッチーがソロを延々と弾いて、次にコージー・パウエルがドラム・ソロ、さらに俺がトイレに行って戻ってくると、ドン・エイリーがキーボード・ソロを弾いていた(笑)。でもアルカトラスのショーでは、ソロよりも曲数を増やすようにするよ。

●ジョーが加入する前、アルカトラスにはジョーイ・タフォーラとカート・ジェイムズが参加しましたが、彼らが短期間でバンドを去ったのは何故ですか?

うーん、2人とも、自らの意志でバンドを去っていったんだ。イングヴェイやスティーヴの成功例があるせいか、アルカトラスを足がかりにして、さらなるステップアップを目指すギタリストが多いんだよ。きっと何か良いことがある!と考えているのか...ジョーイはグラハム・ボネット・バンドの『ミーンホワイル、バック・イン・ザ・ガレージ』(2018)では良い仕事をしてくれたけど、我々とは別の選択肢を選んだ。カート・ジェイムズも“神秘的な人物”で、残念ながら別の道を行くことになった。

●スティーヴ・ヴァイが「ダーティ・ライク・ザ・シティ」を提供していますが、彼とはずっと交流があったのですか?

スティーヴと共作するのは『ディスタービング・ザ・ピース』(1986)以来だよ。たぶん一度も直接会っていないと思う。お互いのアルバムへのゲスト参加や、ライヴ共演も一度もなかったから、本当に久しぶりだ。本当は今回、ギターを弾いて欲しかったけど、スケジュールの調整が付かなくてね。でも3曲をプレゼントしてくれたんだ。その中から俺が1曲を選んで完成させた。スティーヴのインスト・デモには元々「ダーティ・ライク・ザ・シティ」という仮タイトルが付いていたんだ。そのタイトルからインスピレーションを受けて、歌詞を書いて完成させたよ。ジョーが素晴らしいギターを弾いている。

●「フィン・マックール」には日本人ギタリスト若井望が参加していましたが、それはどのように実現したのですか?

ノゾムは去年(2019年)、アルカトラスの日本公演にゲスト参加してくれたんだ。彼のプレイは素晴らしいと思ったし、今回アルバムを作るにあたって日本のレコード会社から提案があったとき、面白いと思った。ノゾムは初期アルカトラスのファンだ。若さとハングリーさを兼ね備えている。

Alcatrazz live in Japan 2019 / photo by Yuki Kuroyanagi
Alcatrazz live in Japan 2019 / photo by Yuki Kuroyanagi

<大概のギタリストはエゴがエンパイア・ステート・ビルディングより高くそびえ立つんだ>

●ブラックソーンでバンド仲間だったボブ・キューリックが「アイ・アム・ザ・キング」「ザ・ウーンド・イズ・オープン」でプレイしていますが、彼とは連絡を取っていましたか?

ボブとはたまにライヴ会場や酒場で会って、話すことがあるよ。 彼はラスヴェガスに住んでいて、去年だかアルカトラスのライヴで「オール・ナイト・ロング」で飛び入りしてくれた。彼とはずっと友達だよ。ブラックソーン をやっていた時期、俺はハッピーではなかった。でもボブは常に友人だったし、また一緒にプレイしたいね(注:ボブは2020年5月28日に亡くなった)。

●余談ながら、ボブはモーターヘッドのレミー・キルミスターとよくつるんでいましたが、あなたはレミーを知っていましたか?

面識があった程度だよ。ハリウッドの酒場“レインボー・バー&グリル”に行くと、レミーが必ず飲んでいて、酔っ払って「よお!」とか言ってくるんだ。すごく親しかったわけではないけど、良い人だった。彼が亡くなって寂しい。“レインボー”に行ってももう会えないんだからね。

●“レインボー・バー&グリル”はレインボーの「ロスト・イン・ハリウッド」の“舞台”として知られていますが、あなたは頻繁に訪れていたのですか?

実際には“舞台”というわけではなく、あの酒場をイメージしてロジャー・グローヴァーが歌詞を書いたんだ。俺は1980年代の一時期、毎週末“レインボー”で飲んでいたよ。当時はロックンロールのヤバイ空気があったんだ。1階には酔っ払いがいて、2階ではヤバイ物がやり取りされていた。売人でなく、タダで薬物を配布する奴もいたんだ。どうやってビジネスを成り立たせていたか不思議だよな(苦笑)。俺はシンガーだし、自分の喉のために手を出さなかったけど、ハードなドラッグのせいでダメになっていった人間を何人も知っている。そんな当時の雰囲気を捉えたのが「ロスト・イン・ハリウッド」だったんだ。今では“レインボー”はすっかり観光地になっているし、パパとママが子供を連れてランチを食べに来ている。まあ、昔のような悪所に戻っても、俺はもう行かないだろうけどね。

●「サムシング・ザット・アイ・アム・ミッシング」「ワース・レーン」でギターを弾いているダリオ・モロとは2001年のグラハム・ボネット&ドン・エイリー・バンドやエレクトリック・ズーなどで共演してきましたが、どんなタイプのギタリストですか?

ダリオはリッチー・ブラックモアやマイケル・シェンカーのような、オールドスクールな味のあるロック・ギタリストだ。もっと広く知られるべきギタリストだし、プロフェッショナルなミュージシャンだよ。さらに彼は親しみやすい人間でもある。多くのギタリストと違ってね(笑)。エゴがエンパイア・ステート・ビルディングより高くそびえ立つタイプじゃないんだ。

●ダリオはグレン・ヒューズとヴードゥー・ヒルというプロジェクトを組んでいましたが、グレンとは交流がありますか?

1980年代にディープ・パープルのツアー・マネージャーだった人のパーティーで会ったことがあるけど、プライベートな交流はない。お互いの家を行き来するほどの付き合いではないよ。そのパーティーではみんなヒッピーみたいに床に座って飲んでいた。俺はこっちの床、グレンはあっちの床にいたんで、交流することがなかったんだ。彼は良い人だと聞いているし、いつかじっくり話してみたいね。ギタリストの話とか(笑)。

●他に『ボーン・イノセント』に参加させたかったギタリストはいましたか?

ダニー・ジョンソンのことが頭にあったけど、ずっと会っていなくて連絡先が判らなかったんだ。アルカトラスの『デンジャラス・ゲームス』(1986)に入っている「ザ・ウィッチウッド」でのプレイは素晴らしいし、別のスタイルでアルバムを作るとしたら、彼を探し出して声をかけるよ。

●あなたは長いキャリアにおいて、あらゆるギター・ヒーロー達と共演してきました。まだ共演したことがなく、共演してみたい人はいますか?

うーん、好きなギタリストの大半は既に共演して喧嘩別れしたか、それとも死んでしまったかのどっちかなんだ(苦笑)。生きている人だったら、ジェフ・ベックかな。彼のギターは常にソウルフルで、マジックが込められている。バーニー・マースデンも味わいのあるギターを弾くよね。あと、今、好きなギタリストはトミー・エマニュエルなんだ。特にコネもないし、今回のアルバムに彼がフィットしていたか判らないから、参加を頼むこともなかったけどね。いつか一緒に何かやってみたい。ギャラが高そうだけどね(笑)。

グラハムへのインタビュー後編記事(全3回の第2回)では、彼の長く豊潤なキャリアを彩る秘話をいくつか明かしてもらおう。

アルカトラス 『ボーン・イノセント』

2020年7月31日 世界同時発売

【新作日本公式ウェブサイト】

https://wardrecords.com/page/special/alcatrazz_innocent/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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