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「本部社員が自腹で買い取り」恵方巻の廃棄 消費者は毎年知らずに費用負担 経済・環境・社会への影響大

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
恵方巻(写真:アフロ)

昨晩、「恵方巻 大手コンビニ社員の内部告発も 全国107店舗調査 2024年の結果はどうだったのか」と題した記事を投稿した(1)ところ、大手コンビニ関係者から情報をいただいた。

大手コンビニ社員による自爆営業が2024年も

今年も本部社員が恵方巻を買って廻っていたとのこと。いわゆる「自爆営業」だ。2022年には、ある大手コンビニ加盟店で本部社員が2万円ほどの恵方巻を買い取った。2023年には1店舗で3万円ほど買い取り、2024年には2万円弱を買い取ったそうだ。節分当日の19時以降に担当している店舗を廻り、廃棄が仕入れ金額の10%を超えない程度に抑えるよう買っていたとの話だった。この関係者は「加盟店より本部社員の方が地獄のよう」と語った。

われわれ消費者が知らずに廃棄コストを負担

ところで、恵方巻の廃棄は毎年、SNSなどで写真が投稿されているが、われわれ消費者も廃棄コストを負担していることに気づいているだろうか。なぜなら、日本の多くの自治体では、コンビニやスーパーの売れ残りを「事業系一般廃棄物」として回収しながら、最終的には家庭ごみと一緒くたにして焼却処分しており、その費用は市区町村の税金を使っているからだ(2)。食品ロスを含む食べ物のごみ、つまり生ごみは、その重さの8割以上が水である。燃えにくいものを、多額の費用と膨大なエネルギーを使って燃やしている。東京都世田谷区の場合、事業系一般廃棄物と家庭ごみの処理には1kgあたり63円の税金を費やしている(3)。

首都圏の企業から食品ロスなどを受け入れリサイクルしている株式会社日本フードエコロジーセンターの高橋巧一社長は、テレビ朝日の取材に対し、

食品ロスは、いまだにほとんどが各自治体の焼却炉で燃やされている。スーパーなどで余っているものが自分たちの税金を使い、燃やされている

と答えている(4)。

芸人とごみ清掃員の二足のわらじで活躍する、マシンガンズの滝沢秀一さんは、テレ東プラスの取材に対し、こう答えている(5)。

生ごみの汁は絞って捨てた方がいいのはなぜか。ごみに水分が多いと焼却炉に水をかけているようなものなので、炉の燃焼力を高めるためにわざわざ重油を加える必要があります。当然、費用は税金で補われる。ご家庭で一度ぎゅっと絞るかどうかで、皆さんの負担が変わってくるわけです。

恵方巻廃棄の経済・環境・社会への具体的な影響とは

今回、全国107店舗を対象に実施した恵方巻売れ残り調査に参加した高校生の森永理子さんは、恵方巻廃棄による経済・環境・社会への影響がどれほど大きいか、分析してくれた。

経済的影響

まず、経済的な影響としては、8億6,508万4,514円の経済損失をもたらしているという結果になった。恵方巻の売れ残りとその売価を計算した、大手コンビニ3社の推定廃棄金額は次の通り。

セブンイレブン 5億1,087万7,200円
ファミリーマート 2億4,851万2,970円
ローソン 1億569万4,344円

合計金額の8億6,508万円という数字は、昨日の調査結果で筆者らが25店舗まわって計算した結果や算出金額とも整合性がある(1)。

2024年2月3日に全国107店舗の大手コンビニ加盟店で実施した調査結果より森永理子さんが算出、筆者がグラフ化
2024年2月3日に全国107店舗の大手コンビニ加盟店で実施した調査結果より森永理子さんが算出、筆者がグラフ化

また、恵方巻の金額が明確にわかるもののみで計算したところ、単価が安いものほど廃棄率が高いという結果も得られた。

500円未満 0.49%
500円以上1,000円未満 0.36%
1,000円以上 0.13%

全国調査の結果から森永理子さんが単価ごとの廃棄率を算出、筆者がグラフ化
全国調査の結果から森永理子さんが単価ごとの廃棄率を算出、筆者がグラフ化

環境への負荷

次に環境への負荷を計算した。環境省が定める温室効果ガス排出量算定方法ガイドラインに基づき計算すると、今回の恵方巻廃棄につき、470トンの二酸化炭素が排出されると推定した。

ただし、恵方巻1本あたりの重さは2023年に計量した219gとしたが、2024年に販売されていた恵方巻にはもっと重量の多いものがあったので、実際にはもっと多い可能性がある。

社会への影響

森永さんは、捨てている恵方巻があれば何人の人が暮らしていけたのかを、1日あたりのエネルギー摂取量から計算した。1日あたりに必要なエネルギー摂取量を2,000kcalとし、恵方巻1本あたりのエネルギー量を暫定的に655kcalとすると、次のような結果になった。

80人の人が10年間暮らすことができる
160人の人が5年間暮らすことができる
798人の人が1年間暮らすことができる
9,719人の人が1ヶ月暮らすことができる
41,651人が1週間暮らすことができる
129万1,562人が1日暮らすことができる

この恵方巻があれば、救われる命がある、ということになる。

政府は食品ロス重量だけでなく経済・環境・社会への影響も併せて発表

これまで省庁は、例年の食品ロスを重量ベースでのみ発表してきた。2023年末に発表された「パッケージ」によれば、今後は、重量だけでなく、経済損失金額や温室効果ガスの排出量も併せて公表していく考えとのこと(7)。筆者は2021年ごろから毎年、重量だけでなく、経済・環境・社会への影響も伝えていくべきではないかと記事で提言してきた(8)(9)(10)。

食品を捨てることによって、お金をどれだけ損しているのか、環境にどれだけ負担をかけているのか、雇用や教育、医療、福祉に費やせるチャンスをどれほど奪っているのか、という具体的なことを示すことにより、一般の人にもその影響や損失が伝わりやすくなると考える。

最後に、連日の分析と調査に邁進し尽力してくれた、高校生の森永理子さん、そして調査に協力いただいた10代から60代のみなさまに感謝を述べたい。

調査に協力してくださったみなさま(五十音順、敬称略)

石橋俊伸

石橋三智子

岩田和音

金城さくら

河野豊

小坂井美星

酒井茜音

坂巻達也

鴫原世紀子

福田慎

丸山日奈子

森永理子

参考資料

1)恵方巻 大手コンビニ社員の内部告発も 全国107店舗調査 2024年の結果はどうだったのか(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2024/2/5)

2)「水」を燃やすために1兆円 食品ロス・生ごみ処理に多額の税金が費やされる日本(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2023/4/18)

3)事業系一般廃棄物ガイドブック(東京都世田谷区、2023年4月)

4)節分 恵方巻き商戦ピーク “二極化”続く…食品ロス対策は(テレ朝News、2024/2/3)

5)マシンガンズ滝沢秀一が警鐘 ぞんざいなごみの捨て方は税金に跳ね返る(テレ東プラス、2023/11/29)

6)事業者からの温室効果ガス排出量算定方法ガイドライン(環境省)

7)食品ロス削減目標達成に向けた施策パッケージ概要(消費者庁、農林水産省、環境省、こども家庭庁、法務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、2023/12/22)

8)最新の食品ロス量、過去最少 食品ロス削減推進法が一因か?日本政府に望むこと(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2021/12/1)

9)速報 最新の食品ロス推計値(2020年度)過去最少 考えられる理由とは(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2022/6/9)

10)【速報】2021年度(令和3年度)の食品ロス量、本日発表(井出留美、Yahoo!ニュースエキスパート、2023/6/9)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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