速報 最新の食品ロス推計値(2020年度)過去最少 考えられる理由とは
2022年6月9日、政府が食品ロスの最新の推計値(2020年度:令和二年度)を発表した(1)(2)(3)。
2020年度は、前年度(2019年度:令和元年度)の570万トンに比べてさらに低い、522万トンとなった。過去最少の値である。
家庭からが47%、事業系から53%
522万トンの内訳を見ると、家庭からが47%、事業系からが53%で、ほぼ変わりはない(2019年度は家庭からが46%、事業系から54%)。
一人1日あたりの食品ロス量は約113g。年間一人あたり、約41kgの食品ロスを排出していることになる。
なぜ過去最少になったのか
2019年度の食品ロス推計値も「過去最少」だった。このとき、報道機関は「2019年に成立した食品ロス削減推進法が要因」だと報じた(4)。
では、2020年度は、なぜ、さらに過去最少になったのか。一言でいえば「コロナ禍だから」だと考える。その要因について考察する。
1)飲食業由来の食品ロスや廃棄が減った
まず、コロナ禍で、飲食業の営業が停止した。実際、農林水産省が実施したアンケート調査でも、外食事業者の65.5%が、コロナ禍で「食品ロスは減少した」と回答している(5)。
2)観光業由来の食品ロスが減った
1)とリンクするが、国内外からの観光客も減少した。それに伴い、観光客由来の食品ロスも減少した。実際、日本の代表的な観光都市である京都市では、これまで人口50万人以上の自治体の中で、ごみ少ないランキングで1位になることはなかったが、2020年度の一人1日あたりの廃棄物排出量に関し、全国で一位となった。もともと京都市は家庭ごみが全国の政令指定都市の中で最も少なかったが、事業系ごみの削減に関しては苦戦していた。それが減ったことも一因となった(6)。
3)小売業の季節商品販売によるロスも減った
恵方巻は季節商品の最たるものだが、2020年度は、この恵方巻の売れ残り量も削減した。日本フードエコロジーセンターに搬入された、恵方巻の売れ残り量の推移を見てみると、2019年に比べて、2020年の節分には、搬入量が減少している。2020年2月初旬は、まだコロナ禍の初期ではあったが、2019年に施行された食品ロス削減推進法の影響が出ていると見られる。
筆者は、閉店間際の恵方巻の売れ残り数を、大学生インターンと一緒に、2019年から毎年数えている。その傾向を見ると、上のグラフと同じだ。2019年から2021年までは右肩下がりに減ったが、2022年の節分は、むしろ前年より増えていた(7)。
したがって、全体の食品ロス推計量に関しても、今後、2022年度が公表された場合、はたして「過去最少」になるかどうかはわからない。
4)値引き販売や需要予測の精度向上
農林水産省大臣官房新事業・食品産業部外食・食文化課 食品ロス・リサイクル対策室長の森幸子氏によれば、
とのこと。
確かに、食品ロス削減推進法が施行され、事業者の責任も明文化されたわけで、コスト削減にもつながる食品ロス削減をやらない手はない(やっていない事業者もまだ存在するが)。
日本なりの目標に近づいた今、さらに野心的な目標を
日本政府は、2030年までに食品ロスを半減する、その目標の基準年を2000年に設定している。年間980万トンと、非常に食品ロスが多かった年だ。多い年を基準にしておけば、それは達成はたやすくなるだろう。実際、半減の490万トンに近づいてきている(下記グラフ、ピンクのライン)。
ただ、欧州は、もっと野心的な削減目標を立てている。そもそもSDGsは、「バックキャスティング」で目標設定している。「貧困を終わらせる」「飢餓を終わらせる」といったように、理想の姿を描き、そこに向かって今すべきことを実行していくやり方だ。もしも2000年ではなく、2015年を「半減」の基準にすれば、目標まで200万トン近くを減らす必要が出てくる(グラフ、黄色いライン)。
日本の目標の立て方は「フォーキャスティング」だ。過去や現在から目標設定する。確かに短期的にはそれでもいいかもしれないが、食品ロス削減やSDGsは長期的なものなので、バックキャスティングの要素を取り入れるべきだと考える。今から2000年比の目標を下方修正し、2010年代を基準にした野心的な目標にしてはどうだろうか。
量だけでなく、経済損失や環境負荷を数値で示そう
前回、2019年度の食品ロス推計値が発表された際に「政府に望むこと」として書いたが(4)、「何百万トン」という量だけを公表するのではなく、その経済損失(金額)や環境負荷(温室効果ガス量)、社会へのインパクト(何人分が食べられる量)などを政府には示してほしい。食品ロスは、環境・社会・経済への影響が膨大なのだ、ということが「何百万トン」からは伝わりづらいからだ。
SDGsウェディングケーキモデルは、土台に環境、2段目に社会、3段目に経済に関するゴールが据えてある。食品ロスも、この3要素に対する影響を示すことで、どれほどの社会的課題かが国民につたわりやすくなるはずだ。
参考情報
1)食品ロス量が推計開始以来、最少になりました(農林水産省、2022/6/9)
2)我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和2年度)の公表について(環境省、2022/6/9)
3)「食品ロス量(令和2年度推計値)の公表」について(消費者庁、2022/6/9)
4)最新の食品ロス量、過去最少 食品ロス削減推進法が一因か?日本政府に望むこと(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/12/1)
5)農林水産省 新型コロナウイルス感染症による食品ロス発生量への影響(事業者へのアンケート調査)
6)全国ごみ少ないランキング1位の京都市、静岡県掛川市、長野県川上村 なぜ?コロナの影響も(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/4/5)
7)恵方巻売れ残りの損失額は10億円?2022年、85店舗調査で探る経済・環境・社会への影響(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/2/7)