Yahoo!ニュース

【速報】2021年度(令和3年度)の食品ロス量、本日発表

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
集積場の家庭ごみから出てきた、まだ食べられる食品の数々(筆者撮影)

2021年度の食品ロス量は523万トン

本日2023年6月9日、2021年度(令和3年度)の食品ロス量が、農林水産省・環境省より公表された(1, 2, 3)。全体で523万トンとなり、前年度(2020年度:令和2年度)の522万トンから1万トン増えた。

事業系は279万トン(53%)家庭系は244万トン(47%)

年間523万トンのうち、事業系は279万トン。2020年度(275万トン)に比べて4万トン増えてはいるが、新型コロナ感染症が発生する前の2019年度(309万トン)に比べると、30万トン低くなっている。

食品ロス量の推移(農林水産省公式サイトより)
食品ロス量の推移(農林水産省公式サイトより)

農林水産省で食品ロス問題を担当している、農林水産省大臣官房新事業・食品産業部外食・食文化課 食品ロス・リサイクル対策室長の森幸子氏によれば、

前年度に比べて増加しているのは、度重なる行動制限に伴う需要予測のブレなどがあると考えています。一方、外食においては、新型コロナで市場の縮小が続いていること等により、食品ロス量も新型コロナ以前と比較して低い水準が続いている状況にあると考えています。

とのこと。

恵方巻の売れ残り調査で2021年度は最少

筆者は2019年から毎年、閉店間際の恵方巻の売れ残り調査を実施している。それと並行して、首都圏で食品リサイクル業を営む日本フードエコロジーセンターからも、恵方巻納入量のデータを提供していただいている。それによれば、2021年度は、ここ5年間で最も少ない値を示した(4)。

恵方巻の売れ残り納入量の推移(日本フードエコロジーセンター提供データより)
恵方巻の売れ残り納入量の推移(日本フードエコロジーセンター提供データより)

2020年度は、ちょうどコロナ禍に突入した年だったので、「2020年度の値に比べて2021年度は増加するのでは」との見方もあった。が、ふたを開けてみれば、さほどの変化ではなかった。むしろ、コロナが落ち着いてきた2022年度、2023年度に増える可能性もあるかもしれない。

経済・環境・社会への影響をデータで示そう

記事を通して何度か提言してきた通り、食品ロスは、量だけ示されてもよくわからない。

英国のWRAP(ラップ)などがデータで影響を示しているように、

いくら損しているのか(経済)

どれだけ環境に悪影響があるのか(環境)

どれほどの人が食べるものを失っているのか(社会)

といった、経済・環境・社会への影響を数値で示す必要があると考える。

たとえば、ある食品小売業の幹部によれば、スーパーの食料品の平均売価は1g1円。これを523万トンに掛け算すると、単純計算では5兆2300万円の損失ということになる。

温室効果ガスの排出量や、523万トンあればどれだけの人が食べられるのかなどについても数値で示す必要があるのではないか。

南極隊員は、1人年間1トン食べる計算で食料を持っていくと伺った(5)。もしそうであれば、523万トンあれば、523万人が1年間食べていける計算になる。東京都環境局は、過去の食品ロス量612万トンについて、「612万トンは、東京都民1400万人が1年間に食べる食品の量に匹敵する」と述べている(6)。

世界の食品ロスによる温室効果ガス排出量は自動車に匹敵する(WRIによる)
世界の食品ロスによる温室効果ガス排出量は自動車に匹敵する(WRIによる)

環境・社会・経済の持続可能性のために食品ロスを最小限に

SDGsのウェディングケーキモデルは、土台に生物圏(環境)、下から2段目に社会、3段目に経済のゴールが並んで構成されている。

食品ロスという社会課題は、これらすべてに影響を与えるものだ。だからこそ、数字で示す必要があると考える。

環境・社会・経済を持続可能にしていくために、今後とも、食品ロス量を最小限にしていく努力を続けていきたい。

SDGsウェディングケーキモデル(出典:ストックホルム・レジリエンス・センター)
SDGsウェディングケーキモデル(出典:ストックホルム・レジリエンス・センター)

参考情報

1)最新の食品ロス量は523万トン、事業系では279万トンに(農林水産省、2023/6/9)

2)我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和3年度)の公表について(環境省、2023/6/9)

3)令和3(2021)年度食品ロス量推計値の公表について(消費者庁、2023/6/9)

4)恵方巻、89社が予約販売に応じた2023年、45店舗の調査結果はどうだったのか(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2023/2/9)

5)「キャベツ♪!キャベツ♪!」と狂喜乱舞 南極観測隊の料理人が痛感した野菜の重要性(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2019/10/31)

6)食品廃棄物・食品ロス対策(東京都環境局、2021/1/19)

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

井出留美の最近の記事