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今や「絶滅危惧種」? オープン戦・地方試合をゆく

阿佐智ベースボールジャーナリスト
3月13日、4年ぶりに大分で行われたオープン戦

 先日、プロ野球において、とくにオープン戦の「地方試合」が減ったことについて論じた(参照『なぜ「オープン戦は少なくなったのか?:プロ野球「春の巡業」について考える』, https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20180224-00081952/)が、それを受けて、今回は大分で行われた福岡ソフトバンク対読売ジャイアンツのオープン戦に足を運んだ。

ソフトバンク対巨人のオープン戦が行われた別大興産スタジアム
ソフトバンク対巨人のオープン戦が行われた別大興産スタジアム

「ハレの日」としてのオープン戦

 

 3月13日。梅が満開の大分。最高気温19度で快晴。絶好のオープン戦日和の中、1980年完成の別大興産スタジアム(旧名・新大分球場)へ足を運ぶ。ホークスがやってくる、おまけに相手は巨人ということだが、定期の市バス以外に足はない。仕方なく、大分駅の一駅先まで行き徒歩で球場へ向かう。

 道すがら、観光バスが徒歩の私を追い越してゆく。客席には小学生の姿がある。行き先はもちろん球場だ。その多くにとって初めてであろうプロ野球の試合に、窓越しにも子どもたちのキラキラした表情がわかる。

 球場周辺は、ホークス戦、巨人戦らしく、華やいだ雰囲気に包まれていた。人気チームの試合会場には、「ハレ」の日の空気が漂っている。大分の野球ファンにとって、この日は数年に一度のプロ野球の日だ。前回ソフトバンクが同じ巨人とオープン戦をやったのは実に4年前のことになる。

 両チームのレプリカユニフォームに身を包んだ来場者の表情は、プロ野球を見慣れたフランチャイズ球場のファンのそれとは明らかに異なる。私自身、奈良で育ち、少年の頃、自分の住む町にオープン戦がやってきて胸をときめかせたことを今でも鮮明に覚えている。大阪の高校に通っていたので、プロ野球は見慣れていたのだが、やはり「おらが町」にプロ野球がやってくることには特別の思いがこみ上げてきた。親にねだり、大阪に住む友人のチケットまで買ってもらい、その友人を誇らしげに招待したことを今も覚えている。その試合は、タイガース対ホークスの試合だった。当時の南海ホークスは脇役以下の扱いで、試合後、タイガースの移動バスに群がる群衆をかき分け、当時のホークスの主力選手、山本和範がユニフォーム姿にもかかわらず、誰に振り返られることもなく、駐車場に出てきたところで握手をしてもらったことが懐かしい。当時、ホークスの扱いはそのようなものだったが、現在、ソフトバンクはどこへ行っても主役級の扱いをうける人気球団に成長した。

九州ということもあって、スタンドはビジター側の3塁側もホークスファンに占拠されていた
九州ということもあって、スタンドはビジター側の3塁側もホークスファンに占拠されていた

 試合開始時には、スタンドはほとんど埋まっていた。試合後の公式発表では入場者数9641人。キャパシティ1万人というからまさに「大入り」だ。観客の7,8割方がホークスファンであることは言うまでもない。

 試合直前のホークスの投球練習、キャッチャー甲斐の矢のような送球がセカンドベースめがけて放たれると、ネット裏最上段に陣取った地元小学生たちが一斉にどよめいた。彼らの視線は、おそらく初めて観るか、めったに観ることができない「生プロ野球」にくぎ付けになっている。バットがボールに当たっただけで、もうやんややんやの大喝采だ。

 半分が芝生席の外野スタンドには、福岡をはじめ、東京、大阪などフランチャイズのある都市から応援団員が「遠征」してきているが、正直、その声は大きくない。スタンドを埋めた観客のほとんどは、本拠地球場で行われるトランペットから奏でられる応援歌を楽しみながらも、両チームが見せる「プロのプレー」、ひとつひとつに拍手を送っていた。球場の構造なのだろうか、ネット裏スタンドに陣取ると、投球、打球の唸る音が響き渡る。こういう風景もオープン戦の地方ゲームならではのものである。こういう地方ゲームが、平成に入ってめっきり少なくなってしまったことが残念で、私は先日の記事を書いた次第なのである。

外野席の応援団は、全国各地からやってきていた。大阪から来た団員は、「せっかくの大分開催なんでやってきた」とここまで来た理由を述べていた。
外野席の応援団は、全国各地からやってきていた。大阪から来た団員は、「せっかくの大分開催なんでやってきた」とここまで来た理由を述べていた。

球団側の戦略

 私の記事に目を通していただいた福岡ソフトバンクホークスのスタッフ、鈴木直雅さんがインタビューに応じてくれた。広報という立場での私見という断りを入れながらも、福岡ソフトバンク球団として、地方ゲームを減らしている認識はないと記事に対する反応を示してくれた。

「我々が球団を保有してからは、地方試合が減ったということはないと思います。むしろ普段プロのプレーを見ることができない地方のファンにもゲームを観てもらおうという姿勢です。今回の大分での試合もそういう観点から実施し、おかげさまでチケット完売に近いお客様に来場いただきました」

 ただ、20年、30年のスパンを考えると、プロ野球全体として確実に地方ゲームが減っているのは、事実である。それについて触れると、鈴木氏はこう答えてくれた。

「そこまで前のことはわかりませんが、ただ、運営面で本拠福岡ヤフオクドームの方が試合をやりやすいというのはあります。オープン戦と言えども、選手は全力でやりますし、我々としてもそういう姿を皆さんに見てほしいと願っています。そう考えると、球場の設備や警備など様々なことを考えれば、オープン戦も本拠地でということになるのではないでしょうか」

 確かに、運営面で言うと、この試合の球場スタッフには、一部にヤフオクドームからの出張者もいたが、大半は地元で集めたアルバイトで、1万人近い来場者を円滑にさばいていたとは言い難かった。例えば、駅までの帰りの足ひとつについても、警備員に尋ねたところ、臨時シャトルバスがある、ない、と答えは二転三転、2人に聞けば、正反対の返事が返ってくるという有様だった。結局、臨時バスは試合直後から運行されたのだが、球場までの足という集客の要とも言えるところで、現場スタッフに情報が共有されないという状況では、確かに球団の現場サイドとしては、地方ゲームは組みにくいだろう。

ホークスの得点に驚喜する地元女性ファン
ホークスの得点に驚喜する地元女性ファン

 また、選手の立場に立ってみても、やはりホーム球場の方が安心してプレーできることは間違いない。この日の試合でも、とくにホークス守備陣がファインプレーを連発し、スタンドにもその「本気度」は十分に伝わった。ただ、その本気度の高さに、設備や運営が追いつかなければ、調整の場で選手が故障を抱えてしまうことになりかねない。昭和の時代と違って、現在では、地方球場にはラバーフェンスはじめ、最低限の設備は整えられてはいるが、それが、ソフトバンク球団が胸を張る本拠、ヤフオクドームのそれに肩を並べるかと言うとそうではないことは明白である。それでも、なお九州一円では試合を開催したいという理念のもと、球団は、スケジュールを組んでいるという。

「限られた中で地元九州を中心に多くの方々に一軍の試合を見ていただこうと工夫はしています。今シーズンは熊本、鹿児島で公式戦を行います。公式戦で行けないところに関しては、オープン戦を行うようにしています。例えば、昨年は長崎で初めて開催させていただいたり、それで今年はここ大分、過去には山口県の宇部でも行いました」

 周知のとおり、ホークスは現在、宮崎でキャンプを行っている。このキャンプには、九州はおろか、全国からファンが押し寄せ、メイン球場のアイビースタジアムには、有料席が設けられるほどの盛況だが、ここで、地元宮崎のファンは、ホークスの雄姿を思う存分目に焼き付けることができる。今年は「オープン戦」は実施されなかったが、宮崎市観光協会主催で行われる入場無料の「練習試合」も3試合組まれるなど、ソフトバンク球団は、前身のダイエーが推し進めた地域密着を継続、発展させている。

 かつての南海時代は、ホーム球場でオープン戦を実施しても、平日のデーゲームでは閑古鳥が鳴いているのが当たり前(当時のパ・リーグの本拠地球場のオープン戦などは、巨人・阪神戦以外は観客数百人ということは珍しくもなかった)であったため、興行を丸ごと買い取ってもらえるならば、地方にも行ったが、オープン戦でも2,3万の動員を見込め、雨天中止の心配のないヤフオクドームで開催しない理由は、見当たらない。それでもなお、地方ゲームを行う努力をしているというのが、現在のソフトバンク球団の姿勢であると、鈴木氏は語ってくれた。

地域密着から世界へ

大分のファンは久々のプロ野球を存分に楽しんでいた
大分のファンは久々のプロ野球を存分に楽しんでいた

 その他、ホークスはかつての本拠、大阪(京セラドーム)と本社のある東京(東京ドーム)でも公式戦を開催する。これについては、いまや全国区となったホークス人気による需要に応えるためだと鈴木氏は言う。

「我々の究極の目標は、世界一ですから。まずは、全国のファンにその姿を見てほしいですね」

 ちなみにホークスは、過去、ダイエー時代の2002年に、戦後唯一となる国外興行を台湾で行っている。また、2010年春には韓国の名門、ロッテ・ジャイアンツを福岡に招いて興行試合を実施している。今後、世界に羽ばたこうという球団として、再び国外で試合を行う予定はあるのかと尋ねると、

「そこは、私にはわかりません。NPBなどと話もせねばならないことですから」

という返事が返ってきた。

 ネット裏では、その豪華な陣容に、「もうひとつの侍ジャパン」と囁かれているホークスが、九州一円をマーケットとする「地域密着」と「世界戦略」を並行に進めていった先には、孫オーナーが掲げる「世界一」があるのかもしれない。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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