夢と消えたセンバツ 32校主将たちの甲子園に懸ける思いは?
「新型コロナウイルス」禍によって、3月11日に史上初の中止が決まったセンバツ大会。選手たちだけでなく、迎える我々もむなしい思いに変わりはない。無観客での開催を模索していた4日の段階で、事前行事の中止は相次いで発表されていた。それには、センバツならではの恒例行事も含まれている。抽選会の前日、主将たちが勢揃いして行われる「キャプテントーク」(以下、トーク=タイトル写真)は、25年も続いていて、数年前からはライブ配信もされている。
25年続く「キャプテントーク」
トークは、95年(平成7)年、阪神・淡路大震災を受けて、抽選会が早期化、簡素化されたことに伴い、翌96年に始まった。筆者は99年からこのイベントの司会をしている。今年で22回目となるはずだった。筆者と毎日新聞社運動部のセンバツキャップの記者(今回も安田光高記者)とのダブル司会で、進行は主に筆者が行うが、質問やデータ紹介などは安田さんにもお願いする。出場32校の主将たちには、事前にアンケートをお願いして回答してもらい、それをもとに筆者が「台本」を作成する。アンケートのデータを整理して、誰に何をきくかを思案している段階で、中止が決まった。改めて32校主将の回答に目を通すと、溢れる思いがつづられていて、彼らがいかにこの大会に懸けていたかが痛いほどわかる。ささやかではあるが彼らの思いを紹介するので、読者の皆さんも傷心の彼らに心を寄せていただきたい。
苦労、自慢、ユニーク練習、感動したことなど回答
主な質問項目は、以下の通り。
・主将として心がけていること、苦労したこと、悩んだこと
・チームで自慢できること
・ユニークな練習方法
・他校への質問
・今大会の優勝候補はどこだと思うか、またその理由は
・野球を通して学んだこと、一番感動したこと
例年、トークでは、ユニークな練習と他校への質問で盛り上がる。筆者は、アンケート内容からある程度の答えを予測して「台本」を作るが、実演も交える練習紹介や、他校への質問では何が飛び出すかわからないので面白い。この部分を深く掘り下げられないのは残念だが、主将たちの回答から印象的な意見を紹介したい。
「当たり前のことを当たり前に」~創成館主将
まず、主将としての心がけや苦労することは、健大高崎(群馬)の戸丸秦吾主将が、「誰がどのようなことをできるようになったか、また、何ができないかを見つける」と答えた。さぞかし指導者も信頼しているだろうと察する。東海大相模(神奈川)の山村崇嘉主将は、「個性的でプライドの高い選手たちをどうまとめるか」と、大物選手揃いならではの悩みも。また、創成館(長崎)の上原祐士主将は、「挨拶やゴミ拾いなど、当たり前のことを当たり前にすることで、91人の部員を同じ方向に向かわせる」と、大所帯ならではの苦労話を披露した。創成館は、中止を知らされた当日、ほとんどの選手が泣き崩れていた。91人の気持ちがひとつになっていた証拠で、胸が締め付けられる。
坊主頭禁止の鹿児島城西
チームとして自慢できることでは、21世紀枠の磐城(福島)・岩間涼星主将が、「文武両道を実践し、野球も勉強も全力で取り組む」と答えた。久しぶりの甲子園で、往時の輝きを取り戻すきっかけをつかんでほしかった。同じ21世紀枠の帯広農(北海道)・井村塁主将は、「実習で作った野菜を、練習間の補食として食べる」と自慢したが、自分たちで作った野菜は、さぞかしパワーをもたらすだろう。夏に向けてエネルギーを蓄えてほしい。また、鹿児島城西は、長髪を認めているようで、「5ミリ以下の坊主は禁止」と、古市龍輝主将は話している。春夏通じて初めての甲子園は夢と消えたが、夏こそ伝統の第一歩を刻んでもらいたい。
「鬼ノック」で鍛える星稜
ユニーク練習は、具体的に紹介してもらえないので列挙は控えるが、星稜(石川)の内山壮真主将が、一組6人で20~30分間ノックを受け続ける「鬼ノック」を挙げた。また、倉敷商(岡山)の原田将多主将が言う「仙一メニュー」は、大先輩の星野仙一氏(故人)ゆかりの練習法と思われるが、ぜひ尋ねてみたいものだ。ユニークというより、苦しそうな練習を行っているチームが多く、例年、トーク後の宿舎では盛んに意見交換があり、実際にチームで取り入れたという事例も耳にした。ここにトークの存在意義がある。
名門チームの強みをききたい主将たち
他校への質問は、答えが出ないので割愛するが、東海大相模や智弁和歌山には強打の秘訣を。健大高崎には、「走塁練習について」。昨年、大活躍した明石商(兵庫)には、「細かいプレーをどう練習しているか」などの質問をしたかったようだ。また、中京大中京(愛知)や明徳義塾(高知)には、「守備について」など、強豪と言われるチームの強み、長所について尋ねたいのは例年と同じだった。特に、21世紀枠で初出場の平田(島根)の保科陽太主将が、健大高崎や履正社(大阪)に質問したがっていたのは実に惜しい。筆者は真っ先に平田を指名したかった。上記の練習と質問はいつも盛り上がるので、毎年、「続きは今晩、宿舎でやってください」と言って終わらせている。
優勝候補筆頭は中京大中京だった
「今大会の優勝候補は?」という質問には、12校の主将(自薦除く)が「中京大中京」と答えた。その理由としては、「神宮大会で優勝しているから」(宮城・仙台育英の田中祥都主将ら6校の主将)、「バッテリー中心に安定している」(智弁和歌山の細川凌平主将)、「打力がある」(履正社の関本勇輔主将)、「圧倒的な力があり、波が少ない」(奈良・天理の下林源太主将)など、よく観察しているという印象。東海大相模と天理が「2票」で続き、大阪桐蔭と履正社の「大阪2強」はそれぞれ「1票」だった。また、「自信がある」「それだけの練習をしてきた」などの理由で自校を挙げた主将が9人。さらに、「わからない」と答えた主将は13人もいて、これは例年よりかなり多い。
中京主将は大阪桐蔭推し
ダントツの優勝候補に挙げられた中京大中京の印出太一主将は、ただ一人、大阪桐蔭を推していて、その理由については、「投打のバランスがよく、勝負所での粘りがある」と説明した。履正社を挙げたのは、花咲徳栄(埼玉)の井上朋也主将で、「甲子園経験者が多く、経験値と技術力が高い」と評価する。1年の夏から中軸を打つ井上は大阪出身でもあり、地元チームを意識しているのは当然と言える。しかし、試合がなくなった以上、こうした話題は空虚としか言いようがない。無観客でもいいから、せめて1試合だけでもいいからやらせてあげたかったと思うのは、筆者だけではないだろう。
「寮生活で親のありがたみ実感」~白樺学園主将
高校野球を通して学んだことや感動したシーンでは、「寮生活をして、親のありがたみがさらにわかった」という白樺学園(北海道)の業天汰成主将や、県岐阜商の佐々木泰主将の「多くの人のサポートで困難を乗り越えられた。周囲の人に感謝」という言葉を聞くにつけ、甲子園での晴れ姿を見てほしかっただろうと思う。彼らだけでなく、多くの主将たちが、支えてくれた周囲の人たちへの感謝の気持ちを表している。
センバツ決定の瞬間、忘れられず
春夏通じて初出場の加藤学園(静岡)の勝又友則主将は、「甲子園を決めたときの校長先生の涙」に最も感動したと話し、日本航空石川の井口太陽主将も、「校長先生からセンバツ出場決定を聞いた瞬間」が忘れられないという。両校とも出場が微妙だっただけに実感がこもっている。32校の主将たちは、こうした熱い思いを丁寧に記してくれた。「歓喜」と「絶望」。短期間に32校の選手たちは得難い経験をした。たとえ甲子園でのプレーはかなわずとも、92回センバツ大会出場という事実は残る。胸を張って、「俺は甲子園に出た」と言ってほしい。