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「第二次大戦で米国人・中国人は協力し日本人と戦った」と習氏。米企業幹部との夕食会で強調した“友情”

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

15日、1年ぶりとなる対面での米中首脳会談がアメリカのサンフランシスコ近郊で行われた。

バイデン大統領と習近平国家主席は、国防相会談の再開や両国軍の司令官の対話、さらにアメリカの若年層が過剰摂取することで社会問題になっているフェンタニル(鎮痛剤のオピオイド)の中国での製造・輸出の抑制など、20余りの項目に合意したと伝えられた。

その一方で肝心の台湾問題は平行線をたどっている。

オーサーコメント

メインはコーヒーステーキ。30万円の夕食会で習氏が語った“友情”

首脳会談後、習氏は米中関連の事業団体(National Committee on United States–China Relations, The US-China Business Council)が主催した、ハイアットリージェンシーでの夕食会で登壇し、両国の“友情”をアメリカの企業幹部らに強調した。

ニューヨークタイムズは内容を細かく報じている。夕食はコーヒーステーキ(コーヒー豆の粒を表面にまぶしたブラックアンガス・ステーキ)もしくはベジタリアン向けに野菜カレー(ジャスミンライス)のコース料理で、レセプションも含む夕食会の参加費用は一人当たり2000ドル(約30万円)と報じた。8人分の円卓に加え習氏と同席できるテーブル1席が4万ドル(約600万円)というオプションもあったという。

出席したのはボーイング、ナイキなどアメリカを代表する大企業の幹部クラスで、アップルのCEOティム・クック氏の姿もあったと同紙は伝えている。テスラやXのイーロン・マスク氏もいたが、習氏への挨拶でカクテルアワー中に会場に出向き、夕食前に会場を後にしたという。

  • イーロン・マスク氏のXより。

習氏は夕食会の壇上で、参加した幹部クラス300人以上を前にこのように問いかけた。

  • 「一番考えなければいけないのは、我々は敵なのかそれともパートナーなのかということです」

  • 「相手を競争相手と見なせば誤った情報を与えられた政策と望ましくない結果を招くだけだ」

  • 「中国はアメリカのパートナーであり友人になる準備ができています」

ほかにも両国の友情を強調するため、習氏は80年代にアメリカのアイオワ州で過ごしたことや、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・ブリッジを背景に撮影された昔の写真の話を持ち出すなど、個人的なアメリカとの繋がりについても語った。

このゴールデン・ゲート・ブリッジの写真は今回の首脳会談中、バイデン氏が習氏にスマートフォンで写真を見せ「この若者を知っていますか?」と尋ねたものだ。習氏は「はい、これは38年前のもの(自分)です」と答えた。習氏はこのエピソードについて「私が1985年にアメリカを初めて訪れた時の写真を、バイデン大統領がどこからか探してきて私に見せてくれました」と、夕食会の参加者にシェアした。

また記事によると、米中の友情の証として習氏は再びアメリカにパンダを送る準備があるとした。さらに第二次世界大戦中に日本人との戦いの中でアメリカ人と中国人は共に協力し合った歴史についても話したという。

世界第2位の経済大国および世界で二番目に人口の多い中国は、事業拡大とさらなる成長を狙う世界的企業にとっては絶対に押さえておきたい魅力的な市場だ。普段素顔が見えにくい習氏だが、夕食会での内輪的な話にアメリカの企業幹部らはより親近感を持ったことだろう。

  • 米中首脳会談に同席した中国外務省の華春瑩報道官のXより。

ニューヨークタイムズは「習氏の前向きな口調や一部の出席者の熱意は、中国経済や安全保障への脅威について近年アメリカで話されてきたことと対照的だった」「出席者の多くに歓迎された」と報じた。その一方で「中国は何十年にもわたり米国企業にとって魅力的な市場だったが、同国の景気減速と権威主義化の加速で経営陣の熱意は冷めている」と、冷静な見方も示した。

またこの日、中国総領事館前や夕食会の会場外では、チベットや香港出身者による中国政府への大規模なデモ集会も行われていた。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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