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イ・ビョンホンが明かす『非常宣言』制作秘話「日本のファンの姿に胸が熱くなった」【インタビュー】

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
(写真提供=BHエンターテインメント)

1月6日から全国ロードショウとなった映画『非常宣言』。韓国映画界の名優ソン・ガンホ、カンヌ国際映画祭で主演女優賞にも輝いたことがあるチョン・ドヨンをはじめ、キム・ナムギル、イム・シワン、キム・ソジン、パク・ヘジュンなど、人気と実力を兼ね備えた役者たちが顔を揃えた同作で中心的な役割を担っているのが俳優イ・ビョンホンだが、「『非常宣言』を撮影しながら感じたことは多かったねー。それは新型コロナも関係していたからもしれない」という。

というのも、そもそも映画『非常宣言』はさまざまな形で新型コロナの影響を受けた作品だった。

例えば制作時期。本来のクランイン予定は2020年3月だったが、当時は新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃で、その影響をもろに受けた。

撮影を始められたのは6月で、感染予防対策を徹底しても夏には制作スタッフの中からコロナの陽性者が出て撮影がストップしたほどだったという。

「当時は世間的にも新型コロナへの警戒が厳しく、撮影現場に入る前から防疫対策が始まりましたよね。まず、僕たち出演者や帯同するマネージャーはもちろん、スタッフ全員が各自で自宅検温を済ませたあと、スタジオに入るときも体温チェックと問診シートの提出が決まりになっていました。控室でも社会的距離を維持し、撮影中は全員マスク着用が当たり前。僕たち俳優陣はさすがに本番ではマスクなしで演技をしましたが、手洗いやモニターチェック時の配慮など、コロナ前にはなかった決まり事が増えたのは事実でした。“新しい生活様式”ならぬ“新しい撮影様式”が浸透した時期でした」

映画『非常宣言』の撮影風景(2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.)
映画『非常宣言』の撮影風景(2022 showbox and MAGNUM9 ALL RIGHTS RESERVED.)

そうした環境の変化が演技に支障を来たしていてもおかしくはなかったはずだが、イ・ビョンホンは「環境の変化で演技に集中できなくなるということはなかった」という。

「環境はもちろん、そのときの精神状況がどうであれ、僕たち演技者はカメラが回ると役柄や劇中世界に没入できるものなんですよ。そういった心の切り替えや集中力の維持のために、特に意識していることはありませんが、とにかく新型コロナによる環境の変化を言い訳にしたくありませんでした。僕だけではなく、俳優陣やスタッフ全員がそんな気持ちで、取り組んだ作品ですね」

かくして映画は完成し、2021年の第74回カンヌ国際映画祭に公式招待もされたが、その後も新型コロナに行く手を阻まれた。第六波、第七波と続いた新型コロナの流行に邪魔されて韓国公開が二度も延期されたのだ。

ようやく公開されたのが2022年夏。まさに最初から最後まで新型コロナに振り回されながらの飛行の末の着地だったが、韓国では映画PRのためのプロモーション活動もできて全国各地を巡る舞台挨拶もできた。

(参考記事:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン主演の映画『非常宣言』、制作の裏側を「A to E」で解説)

ソウルの舞台挨拶では、見覚えのある日本人ファンたちの姿もあったという。

「ソウルの舞台挨拶で劇場の扉を開くと、すぐに見覚えのある日本のファンの方々の顔が目に飛び込んできました。驚きとともに、韓国に来るまでのご苦労などを思うと有難く、胸が熱くなりました。まだ完全に払拭されたわけではないけど、着実にコロナ前の日常が戻りつつあるんだなとも思いました。韓国と日本を気軽に行き来できるような日常が、ようやく戻って来たとね」

映画『非常宣言』韓国公開時の舞台挨拶の様子(写真提供=BHエンターテインメント)
映画『非常宣言』韓国公開時の舞台挨拶の様子(写真提供=BHエンターテインメント)

『非常宣言』の劇中では謎の殺人ウイルスがパニックを起こすが、現実世界では新型コロナが猛威を振るって世界中が大混乱した日々。

今改めて振り返ると、撮影現場でのフィクションとテレビで流れる新型コロナのニュースがシンクロした日々でもあったと思うが、だからこそイ・ビョンホンは今、感じることがあるという。

「最初に『非常宣言』の出演オファーをいただいたとき、“果たしてこの世の中でこんなことが実際に起こるだろうか”と思っていましたけど、実際に新型コロナというウイルスが流行して世界各地でさまざまな衝突も起きました。『非常宣言』の劇中でも描かれたように、現実世界でも人と人との関係が遮断され、隔離され、それが誤解や偏見を生むこともあった。フィクションであるはずの映画よりも、現実世界のほうが先を進んでいるんですよ。僕はそこに、なんとも言えない複雑な感情を抱いてしまいます」

新型コロナだけではない。いまだ解決できない温暖化問題で地球のあちこちで歪みが生じているだけではなく、ロシアによるウクラナイ侵攻なども起きている。ほんの数年前には想像すらできなかったことが現実に起きていることを、イ・ビョンホンは憂いでいる。

「パニック映画を彷彿させるような新型コロナのパンデミックの脅威だけではなく、気候温暖化の影響で地球のあちこちで異常気象が発生していますよね?パキスタンではモンスーンがもたらした洪水で国土の3分の1が水没してしまったらしい。そしてウクライナで起きている戦争です。国際化が進み人も情報も国境を軽々と超えてしまうグローバル時代に、戦争が起こるなんて誰も思わなかったと思うんです。これまで映画でフィクションとして描かれてきた出来事が、現実世界でも次々と起こってしまっている。リアル(現実)が映画を追い越し、先に進んでしまっている。そういう時代に僕は俳優として何をどうすべきなのか。答えはまだ出ていませんけど、自問し続けたい」

映画よりも先を行く現実とどう向き合い、何をすべきか。その答えが出るのはまだ先のことなのだろうが、イ・ビョンホンはこれからも映画を通じてさまざまなメッセージを届けててくれるはずだ。

『非常宣言』にも、イ・ビョンホン演じるジェヒョクが“地上の人々”に向けて送ったメッセージは示唆に富んでいた。その想いを今度は日本の劇場でぜひ、受け止めたい。

(写真提供=BHエンターテインメント)
(写真提供=BHエンターテインメント)

■イ・ビョンホン プロフィール

1970年7月12日生まれ。1990年にKBS公開採用14期生に合格し、ドラマ『アスファルト、我が故郷』でデビューした。2000年に公開された主演映画『JSA』は韓国でメガヒットし、社会現象に。2004年にドラマ『美しき日々』が日本で放送され“韓流四天王”のひとりとして第一次韓流ブームの牽引役に。紅白歌合戦・特別ゲスト(2004年)、韓国人俳優初の東京ドーム単独公演(2005年)など快挙も多く、2009年には『G.I.ジョー』でハリウッド進出。『REDリターンズ』『ターミネーター:新起動/ジェネシス』『マグニフィセント・セブン』などにも出演し、第88回アカデミー賞(2016年)では韓国人俳優初のプレゼンターも務めた。映画では『王になった男』『インサイダース』、ドラマでは『IRIS-アイリス-』『ミスター・サンシャイン』など代表作多数。最近は『KCIA 南山の部長たち』『イカゲーム』『私たちのブルース』など、幅広いジャンルの作品で存在感を放っている。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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