Yahoo!ニュース

コロナ第4波への懸念。それでもヴァカンスムードたっぷりの南仏コードダジュール、ニースの夏模様

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
ニースの海岸(写真はすべて筆者撮影)

ヴァカンスシーズン開始

6月末からフランスでは夜間外出制限が解除されました。また、屋外でのマスク着用の義務も一部の例外地域を除いてはなくなり、さてはいよいよコロナ禍の出口が見えてきたのか、という気になります。ところが、ここ数日は新規感染減少傾向が止まり、逆に増加に転じていること、そしてデルタ株感染の割合が上昇しているのが顕著で、第4の波への懸念が拭えません。

それでもフランスの7月、8月はヴァカンスシーズン。国内移動を制限する風潮はまったくといっていいくらい見られず、とにかくワクチン接種キャンペーンをスピードアップすることが感染拡大防止への急務という政府方針。7月8日時点でワクチン接種を完了した人の割合(12歳以上)は39.3パーセントとなっています。

ところで、コロナ禍で筆者の取材旅行も例年より大幅に少なくなっていましたが、久しぶりに南仏を訪れる機会がありました。ニースを中心とするコードダジュール(紺碧海岸)地方を巡るもので、地元の観光協会(CRT Côte d'Azur France)の企画で、これまで知らなかったフランスを発見することができました。

思うように旅ができない昨今ですが、複数回に分けてご紹介する記事から少しでも旅の気分を感じていただければ幸いです。

海水浴を楽しむ人でにぎわうニースの海岸
海水浴を楽しむ人でにぎわうニースの海岸

「プロムナード・デ・ザングレ」。裾の長いドレスを着た英国人たちがそぞろ歩いていた時代から今も変わらず親しまれている海岸沿いの遊歩道
「プロムナード・デ・ザングレ」。裾の長いドレスを着た英国人たちがそぞろ歩いていた時代から今も変わらず親しまれている海岸沿いの遊歩道

南仏の中心都市ニースへ

まずはニースから。

地中海に面したこの町はフランスだけでなく世界中の人を引きつけてやまない魅力のある町です。海岸線に沿って緩やかな弧を描きながら数キロメートルにわたって続く遊歩道「プロムナード・デ・ザングレ(英国人の散歩道)」がこの街の成り立ちを象徴しています。都市化が進んだのは18世紀の終わり。気候が穏やかで陽光あふれるこの土地は、北ヨーロッパの人々にとっては憧れの場所で、英国貴族をはじめとする裕福な人々の避寒地として発展してきたという歴史があります。

コートダジュール(紺碧海岸)の名前の元になった海の色、そして太陽そのもののようなオレンジ色や黄色の建物が見せる鮮やかなコントラスト。ビジュアルからすでに気分を高揚させてくれます。この土地の風土、特に光に惹きつけられた芸術家たちは枚挙にいとまがありません。マティス、シャガール、ピカソを筆頭に、20世紀美術の巨匠たちの傑作はまさにこの光の下で生まれたのでした。

マチス美術館。マチスが制作の場とした市の高台にある
マチス美術館。マチスが制作の場とした市の高台にある

シャガール美術館では、ゆったりとした空間で大作に向き合える
シャガール美術館では、ゆったりとした空間で大作に向き合える

サレイヤ広場の朝市
サレイヤ広場の朝市

市場には食材だけでなく色鮮やかな花々が並ぶ
市場には食材だけでなく色鮮やかな花々が並ぶ

パリから空路で1時間半。曇り空の首都からニースの空港に降り立てば、同じ国ながら別世界に来たような光と空気感に満ちています。空港から市内へは渋滞がなけれは車で15分ほど。アクセスが容易なのも嬉しいところです。今回の宿は「ベスト・ウエスタン・プリュス・オテル・マセナ・ニース(Best Western Plus Hôtel Masséna NIce)」。ニース市街地の要にあるマセナ広場からすぐという絶好のロケーションです。

マセナ広場。四方を赤いファサードの建物がぐるりと取り囲む。街の随所でコンテンポラリーアート作品がアクセントになっている
マセナ広場。四方を赤いファサードの建物がぐるりと取り囲む。街の随所でコンテンポラリーアート作品がアクセントになっている

「ベスト・ウエスタン・プリュス・オテル・マセナ・ニース」
「ベスト・ウエスタン・プリュス・オテル・マセナ・ニース」

コロナ禍のホテルの実情

屋外ではマスク着用不要と冒頭で書きましたが、ホテルやレストラン、お店に入るときには依然としてマスクは必須です。ガラス扉を入ってすぐのところに手指消毒ジェルが完備されているのももうおなじみの光景となりました。レセプションのスタッフとはガラス越しの対面ですが、マスクをしていても開放的な笑顔で出迎えてくれているのがわかります。どことなくイタリア語のような抑揚がある話しぶりからも、(南に来た)という実感が湧いてきます。

「休業したのは2ヶ月だけでした」と、支配人のジャック・スソンさん。フランスでは、1年以上、断続的に厳しいコンフィヌモン(外出制限)があり、観光業には非常な打撃となりました。世界中からツーリストが訪れるニースでは、時期によっては9割のホテルが休業していたというほどですが、そんな中でもこちらではできるだけ営業するという方針を貫いてきたそうです。

ホテル支配人のジャック・スソンさん
ホテル支配人のジャック・スソンさん

「ホテル業には社会的な責任もあると思います。ツーリストが一人もいない時期でも、宿泊の需要はゼロではありません。例えば、医療機関への技術支援の仕事、建築関係などです」

客室数110という規模の4つ星ホテルで稼働率15から20パーセントという状況は経営的にとても厳しかったはずですが、最善の感染防止対策を実践しつつ営業を続けました。

「休業するという決断はある意味簡単なのですが、再開するのは逆に難しいんです」とも彼はいいます。

「なぜなら、すべての大掃除から始まって、機械やコンピュータシステムを再びきちんと稼働させなくてはなりません。ホテル、レストランで5、6ヶ月ずっと閉めていたところが多いですが、その間にスタッフと連絡が取れなくなり、再開時には行き先不明の従業員もいるということも珍しくありません。うちのスタッフは全部で35人ですが、誰ひとり欠けることがありませんでした」

1年半前に改装されたロビー
1年半前に改装されたロビー

都市の中心にありながら静かで落ち着ける客室
都市の中心にありながら静かで落ち着ける客室

そう聞けば、なんとはなしに感じられていたアットホームな雰囲気の理由がわかるような気がします。

支配人によると、6月の客室稼働率は55〜56パーセント。もちろん例年であればもっともっと高い数字になるところですが、コロナ禍の最中としては決して悪い数字ではありません。

宿泊客の多くはフランス人。彼らの旅先が国内に集中しているということがまずあります。また北ヨーロッパ、例えばスカンジナビアやドイツではフランスよりも早く6月からヴァカンスをとる習慣があり、ビジネス使用ではなくプライベートで宿泊する人の割合が多くなってきている様子です。

いつもならアメリカ人、イギリス人も多いホテルですが、今はごくごくはごくわずかで、上顧客の日本人、中国人は皆無という状態。「1日も早く日本からのお客様をお迎えしたいです」と、支配人は笑顔を見せました。

※ニースの魅力はこちらの動画からご覧いただけます。

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

鈴木春恵の最近の記事