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リーグワン上位争いの鍵は?&ディビジョン1第8節ベストフィフティーン【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
爆発力の際立つナイカブラは日本代表でもある(写真は第5節)(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。

 元プロ野球監督で故人の野村克也が残した格言は、ラグビーでもあてはまる。3月5日から3日間にかけておこなわれたリーグワンのディビジョン1・計6試合は、勝敗における必然性を考えさせた。

 3月、東京は秩父宮ラグビー場。イーグルスはブレイブルーパスに18-21と惜敗。終始スクラムを制圧し、反則を奪いながら、決定機を逃した。

 例えば、10-0とリードして迎えた前半15分頃。敵陣ゴール前右でラインアウトからモールを形成。向こうのペナルティを誘う。

 しかしその直後のラインアウトの際、モールを組み込む際の動きがオブストラクション(ボールを持っていない相手選手がプレーを妨害する行為)と判定されてしまう。

 25分にも、敵陣ゴール前右モールを押し込みながらその脇の接点でシーリング(ボールの出所をふさぐ反則)を取られた。

 徳永祥尭。勝ったブレイブルーパスのナンバーエイト兼共同主将は、7―15とリードされていた前半について話しながら、さりげなく核心をついたような。

「内容的にはもっと(点を)取られてもおかしくない内容でしたが、ディフェンスに自信を持って守りきれたのは誇りに思えます。修正点は多くありますけど――よくある言葉ですが――勝って反省できるのはよかった」

 敗れた側は潔かった。

 スタンドオフの田村優主将は、「そこまで悲観することではない。次に向けて頑張りたいと思っています」。この日はコンバージョンゴールを2本、ペナルティーゴールを1本、外し、8得点を逸している。その件を自分から持ち出し、こう語った。

「皆、勝てる試合を落としてショックで。僕自身も決められるゴールを決められなくて。試合を通して圧勝できる感じがあったんですけど、僕たちがいて、相手チームもいて、レフリーもいるというなか、ラグビーの難しさを感じる歯がゆい試合でした」

 試合を支配しながら、その試合を落とした。この体験からはどんな学びがあったか。

 田村は会見で「開始10分くらいで相手を圧倒しかけていたんですが、圧倒しきれなかった。ちょっとの隙があった。…切り替えていくしかないです」と話し、臨席していた沢木敬介監督はこう応じた。

「自分たちから相手にチャンスを与えすぎて、それで相手が復活してくるというのを1試合のなかで何回もしてしまっている。何というのかなぁ…。本当に、相手がギブアップするようにとどめを刺す強さ、マインドを、皆が持たないといけないです」

 攻め込むさなかのミス、反則がかさんだのを思い返していたのだろうか。いわば、負けに不思議の負けなしといったところか。

 もちろん、相手に「ギブアップ」させる機会を逸した側が勝つケースはある。これを不思議の勝ちとするのはやや乱暴だが、これだけは確か。勝った陣営が「勝って反省」と振り返るケースは、あらゆるカテゴリーの、あらゆるゲームで頻発する。

 同日のパロマ瑞穂ラグビー場では、ヴェルブリッツがシャイニングアークスに31-22で勝っている。

 フォワードにテストマッチプレーヤーを多く並べるヴェルブリッツは、個の力を駆動して前半は28-5とリード。ところが後半は再三のミス、イエローカードを伴うペナルティにより、現在最下位も優れた海外選手の揃うシャイニングアークスに主導権と得点を与えてしまう。

 さらに試合終盤も、フランカー、ピーターステフ・デュトイが驚異のワークレートからジャッカルを決めながら、その後のペナルティーキックをインゴールまで蹴り込み得点機をふいにする。いわば、シャイニングアークスに「ギブアップ」させる機会を失った。

 さらに28-19のスコアで迎えた後半38分には、失トライの危機をテレビジョン・マッチオフィシャルで「ノックオン」と判定され一命をとりとめていた。

 反則数は相手より4つ多い14。ナンバーエイトの姫野和樹主将は、ブレイブルーパスを制した第4節の時点で警鐘を鳴らしている。

「ペナルティの数が多いのが問題点です。そこに関しては練習(での注意喚起)で治ると思っています。その意識づけをリーダーとしてやりたい。あとは、全体のクオリティを上げたいです。システム上、『誰が(いるべき場所に)いない』とか、細かい部分で改善できる部分はある」

 イーグルス、ブレイブルーパス、ヴェルブリッツは現在の順位をそれぞれ5、6、4位とする。上位4強によるプレーオフ行きを盤石なものにするには、防げる反則を最小化する、得点機を逃さないといった、勝利への必然性を高める一手が求められよう。

<ディビジョン1 第8節 私的ベストフィフティーン>

1、岡部崇人(イーグルス)…ブレイブルーパスをスクラムで圧倒。交代直前の1本で反則を取られたのは、自身と反対側での出来事だった。ボールを持てば防御の懐を突っ切りわずかずつゲイン。

2、アッシュ・ディクソン(グリーンロケッツ)…ブラックラムズ戦で途中出場。試合序盤にやや地面に崩れがちだったスクラムをその強靭さで立て直す。特に後半開始早々には、自陣ゴール前の1本を押し返して反則を誘った。強風にさらされラインアウトの確保には難儀も、肉弾戦でハードワーク。

3、垣永真之介(サンゴリアス)…スクラムを安定させたうえ、防御を引き付けてのパスでチャンスメイク。

4、辻雄康(サンゴリアス)…強烈なチョークタックルが光った。複数名の相手のスイープを食らいながら、走者を掴み上げたまま自立。攻めてはスクラムハーフ周辺のフェイズで存在感。フットワークと強靭さの合わせ技でゲインラインを切る。

5、パトリック・トゥイプロトゥ(ヴェルブリッツ)…グラウンド中盤で防御を巻き込みながら突進し、オフロードパスでさらにチャンスを拡大したのは前半22分頃。その後、複数の走者が絡んだ連続攻撃は、自らのフィニッシュで幕を閉じた。守っても力強いタックル、接点への絡みで向こうの展開力を抑制。特に前半29分の一発は、その先のフェーズにおける相手の落球(ここでは姫野の連続タックルが効いた)の呼び水となった。

6、ベン・ガンター(ワイルドナイツ)…66-10で制したレッドハリケーンズ戦がまだ動き出したばかりの時間帯に、強烈なタックルを重ねた。前半の終盤には、自陣深い位置でのジャッカルで反則を誘うシーンを2度、作った。

7、クワッガ・スミス(ブルーレヴズ)…首位スピアーズに24-30で惜敗も、終盤の追い上げで鮮烈な印象を残す。この人は鋭いキックチェイス、チョークタックル、ターンオーバーと球際で光った。

8、ピーターステフ・デュトイ(ヴェルブリッツ)…上記、トゥイプロトゥのオフロードパスをもらい、一気にゲインしたのはこの人。守備時も運動量が際立った。鋭く飛び出しながら、自分の目の前の選手が別な味方にタックルされるとみればすぐに次の防御ラインへ。試合終盤の相手ボールスクラムからの防御局面での動きは、繰り返し再見されたい。後半20分には大きく駆け戻ってのタックルを決めてすぐに起き上がり、攻守逆転に反応して球をもらっていた。

9、グレイグ・レイドロー(シャイニングアークス)…終盤に登場し、落ち着いて好配球。守っては自陣で相手の球出しを阻止するタックル。

10、アイザック・ルーカス(ブラックラムズ)…スペースへ走り込んで球をもらう、スペースへ球をさばく、スペースがなければ自ら仕掛ける。守っては終盤にトライセーブタックルを2発。これにて21-18で勝利。

11、根塚洸雅(スピアーズ)…攻守逆転からの快走、自陣の深い位置からの果敢な仕掛けと、エネルギーに満ちた走りを重ねる。

12、中村亮土(サンゴリアス)…スティーラーズを56-17と大差で下す。前半17分、グラウンド中盤のラックから出た球を、防御の近い位置でもらうや数的優位のある右大外にパス。ダミアン・マッケンジーの勝ち越しトライを演出した。直後の防御局面では、好判断からのジャッカルで相手の攻めのテンポを鈍らせた。

13、ディラン・ライリー(ワイルドナイツ)…広い守備範囲。攻めては鋭い1歩で複数の防御を引き付け、大外にスペースを作る。

14、ジョネ・ナイカブラ(ブレイブルーパス)…持ち前の快足を活かして2トライを奪取。そのスピードは、味方のパスがインターセプトされた後のバッキングアップでも生かされた。

15、ダミアン・マッケンジー(サンゴリアス)…アンストラクチャーからの軽快な走りで得点を演出。地域獲得のキックも距離が出た。相手が蹴った球を正面で捕球し、鋭く仕掛けながら逆側へ展開したプレーが前半14分のチーム初トライを生んだ。以後、間もなく勝ち越し。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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