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ノルウェー王室が揺らぐ理由…支持率急落の裏にある衝撃のスキャンダルとは?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
土曜日に結婚式を挙げるノルウェー王女と自称シャーマン(写真:ロイター/アフロ)

「ほぼ10人中4人が、王室を否定的に捉えている」。

8月25日のノルウェー公共放送局NRKの見出しだ。

  • 36%が王室に対して否定的な見方をしていると回答
  • 肯定的な見方が増えたと答えたのはわずか5%
  • 55%は王室に対する見方は変わっていないと回答

長い間、スキャンダルが続きながらも安定した支持率を得ていたノルウェー王室に何が起きているのか。その原因はノルウェーに住む人には明白だ。2人の王室メンバーと、これから家族となるアメリカ人によるスキャンダルが、度を越えているからだ。

事実、調査でも「より否定的な見方をするようになった」と回答した人の多くが、この3名の名前を挙げている。

王位継承権はないが、メッテ=マリット王太子妃が王太子と結婚する前に別の男性との間に産んだマリウス・ボルグ・ホイビーは、交際相手に対する身体的暴力や破壊行為の容疑で逮捕された。

詳しくは「ノルウェー王室メンバー、薬物と暴力事件で波紋広がる」の記事を参考に。

陰謀論を拡散するシャーマンが王室メンバーに

王位継承順位第4位のマッタ・ルイーセ王女とアメリカ人で自称シャーマンのデュレク・ヴェレットは、8月31日(土)にノルウェーで結婚式を挙げる。

元夫は自殺し、3人の子どもの母として、自分らしく自由に生きようとバッシングに立ち向かってきたマッタ。彼女を応援する女性は、ノルウェーには意外と多い(特にビジネスウーマン)。しかし同時に、スピリチュアル・ビジネスを展開し、「天使と交信できる」などの発言を繰り返している人物でもある。

その彼女が連れてきた恋人が、アメリカ人で、黒人で、シャーマンだった。

さらに彼は怪しいビジネスをしていることが知られ、ノルウェーでは大きな物議を醸している。

これまでの言動の一例

  • 「悪い行いをする子どもたちには霊が取り付いており、私はそれを祓うことができる」
  • 「私の半分は爬虫類で、もう半分は銀河だ」→レプタリアンという有名な陰謀論
  • 「魂の最適化」という怪しすぎるメダルを販売。メダルは「パワフルなテクノロジー」により「あなたのエネルギーを最大限に発揮する」とされており、本人はコロナ感染時に医療機関を拒否し、このメダルのおかげで体調が改善したと宣伝
  • 「性交渉のパートナーが多すぎると、女性の膣の内側にはある種の痕跡が残る。私はそれを浄化できる」
  • 「私のスピリチュアルな力で、がん患者を救うことができる」

プリンセスの称号を商用利用

このカップルがノルウェーで最も批判される理由は、マッタがプリンセスという称号をスピリチュアル・ビジネスに利用しているからだ。

多くの批判を受け、王室は彼らに「称号の商用利用を行わない」ことを求め、マッタは公務から退いたものの、家族の象徴であるプリンセスの称号を捨てることは拒否した。

しかし、それでも二人は折に触れて「プリンセス」の権威を行使している。

デュレク・ヴェレットは家族関係にも亀裂を生じさせており、ノルウェーのメディアに内情を暴露しようとする一部の家族を口止めしようとしている。家族への抗議の手紙には連名で「プリンセス」が記されており、家族がSNSで「王室の後ろ盾があっても私は屈しない!」と告発する事態が続いている。

また、結婚式を前に、カップルはオリジナル・アルコールを発売したが、ボトルのラベルに王女の称号を刻印。飲酒に厳しいノルウェーでは、広告禁止違反だと撤去された。

批判に対して頑なに「黒人差別」と主張

このカップルは、批判がどれだけあっても「ノルウェーの反応は黒人差別に基づくものだ」と一貫して主張している。

確かに、デュレク・ヴェレットは黒人として人種差別を受けている。

しかし、称号の問題などに関するどのような批判にも「黒人差別だ!」と反応するため、溝はますます深まるばかりだ。

ノルウェーのマスコミを警戒、結婚式の報道規制とネットフリックスとの契約

カップルはノルウェーのマスコミと長年対立してきた。そのため、週末に観光名所ガイランゲルフィヨルドで開催される結婚式では、報道陣の多くを結婚式やパーティーに立ち入らせない方針だ。英国のセレブ雑誌に独占権を与え、テレビ放映権はネットフリックスに渡された。

王室一家が参列するプリンセスの結婚式を、国民が生放送で見られないのは異常極まりない。

これに対し、王室は「他のメディアがアクセスできない場合、王室一家は写真や映像を撮られる権利を保留する」と発表。つまり、国王らが参列する結婚式の写真は英国の雑誌やネットフリックスには出ない「はず」だそうだ。

ノルウェーでは国民は王室に対して寛容であり続けてきた

数年前、デュレク・ヴェレットが「メダルのおかげでコロナウイルスから回復した」と発言した際には強い反発があった。それでも、当時「王室に否定的な見方をする」と答えたのは17%に過ぎなかった。今では、その数は2倍以上に増えている。

55%は「王室に対する見方は変わっていない」と寛容な姿勢を保ったままだ。しかし、デュレク・ヴェレットが正式に王室メンバーとなれば、その波紋はさらに大きく広がるだろう。

元交際相手の証言で暴力や薬物問題が注目されているマリウス・ボルグ・ホイビーは、結婚式に参加しない。マリウスの事件は北欧諸国でも報道されており、週末の結婚式にデンマーク王室は欠席、スウェーデン王室は出席予定だ。

国民には人気があり、高齢で体調も心配されている国王。しかし、家庭内のコントロールができず、家族が好き勝手に行動し続けるなら、王室と国民の間の信頼関係は回復が難しくなるだろう。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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