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コーチングのプロが考えた「ほめる技術」をいったん否定してみる

横山信弘経営コラムニスト
人それぞれ、褒め方もさまざま(写真:アフロ)

褒めてマネジメントする「ホメジメント」

 上司が、部下を褒めて効率的にマネジメントすることを私は「ホメジメント」と名付けています。

(※参考:部下に達成グセをつける「ホメジメント」の効果

 正しく褒めることで、部下の成長スピードが上がることは間違いないことです。しかし、筆者は50歳。褒めることに慣れない世代です。上司から褒められた経験が乏しく、「そんなことやって当り前」「口に出さなくても、キチンと評価してる」というのが上司のスタンダードな姿勢だと思い込んでいます。

 なかなかこの思考・価値観を変えることができませんでした。思考プログラムは過去の体験の「インパクト×回数」で、できているからです。

 とはいえ、環境の変化に合わせて上司も変化していかなくてはなりません。変化に対応できない種は滅びると、過去の歴史が証明しています。

 どんなに超人手不足の時代と言われる近年でも同じです。三越伊勢丹、博報堂、東芝などのグループが40代後半から50代にかけてのベテラン社員に、早期希望退職を募りました。

「部下を褒めて成長させろと言われても、俺たちの世代にはムリ」

 と言っているようなベテラン勢が対象です。これほど変化スピードの激しい時代に、変化耐性の低い人材を保護できません。企業価値そのものが急落していくため、企業側も必死です。

コーチングのプロが考える「褒め方」

 とはいえ単に部下を褒めるといっても、簡単ではありません。「いつ」「誰が」「何を」「どこで」「どのように」「どれぐらい」褒めるのか、一つ一つの切り口で考えていくべきだからです。

 拠り所になるのが、コーチングの世界で使われている考え方です。

 コーチングの世界では、コミュニケーションスタイルや価値観によって、人のタイプを大きく4つに分けています。人や物事を支配していく「コントローラータイプ」、人や物事を促進していく「プロモータータイプ」、全体を支持していく「サポータータイプ」、分析や戦略を立てていく「アナライザータイプ」の4つです。

※ 株式会社コーチ・エィの許可を得て「Hello, Coaching!」を参照。

 コントローラータイプには、「凄いですね!」「さすがですね!」と単純に褒めても相手に響かないそうです。自分をコントロールしようとしているのではないかと勘違いされてしまうからで、その人のチームや、メンバーの功績について褒めると効果があるそうです。

 プロモータータイプの人は、とにかく褒められれば褒められる分だけ、とてもいい気持ちになるそうです。サポータータイプの人は、日ごろからコツコツと努力をし続けチームのために支援しているので、どんな小さな事でも褒めてあげるとよいようです。

 アナライザータイプは、その人のどのような行動であったり意思決定が良かったのか、正しく分析して褒めてあげることが大事のようです。

 私はこの話を聞いたとき、とても有益な知識だと受け止めました。すぐに自分や部下がどのようなタイプなのか診断し、実践してみました。

 しかし、なかなかうまくいきません。

 その理由は簡単です。私はプロのコンサルタントではありますが、コーチングについてはプロではない。

 長年NLP(神経言語プログラミング)を学習し実践してきたため、コーチングの知識は明るくても、日々の鍛錬をしていないので、うまく使えないのです。(それはコンサルティングの世界でも同じ)

 なぜうまくいかないかというと、まず部下がどんなタイプなのか、簡単には判別できないからです。プロモータータイプなのか? それともサポータータイプなのか? 混合タイプか? それともこの4つ以外のタイプなのか?

 私の周りにいる多くのプロコーチは、必ず相手と正しく向き合ってコーチングをします。話のネタとしてはいいです。しかし、当然のことながら人の数だけタイプは異なるわけですから、4つのタイプにそれぞれ4種類の褒め方があるとだけ信じて実践するわけにはいきません。

必要なのは「キャリブレーションスキル」

 脳は「刺激―反応モデル」です。外部から刺激を受けて体が反応します。そしてその反応を脳が知覚して、感情を呼び起こします。

 先述したとおり、脳の思考プログラムは過去の体験の「インパクト×回数」によって変わります。どのような刺激を受けると、どう反応するかは、その人の過去の体験が決めるわけですから、どのように褒めれば、どのようにその人が反応するのか。人によって違うのは当然と言えるでしょう。

 「いつ」「誰が」「何を」「どこで」「どのように」「どれぐらい」褒めたら、部下の成長スピードは速まるのか。

 いろいろ試して、部下の反応を観察するのです。部下だけではありません。お客様も、家族も、友人もです。相手の無意識的な生理反応を、五感を使って感じとるのです。これをNLPの世界では「キャリブレーション」と呼びます。

 キャリブレーションスキルは、直訳すると「観察眼」です。正しくキャリブレーションするには、相手の微細な表情の変化にも気づく感度の高さが要求されます。プロのコーチは日々の実践トレーニングによって、このキャリブレーションスキルを非常に高く維持しています。(よってキャリブレーションスキルが低いコーチは、プロのコーチとは呼べません)

部下の「何」を褒めるのか?

 部下の反応(無意識的な生理反応)をよく観察しろと言われても、どうしたらいいかわからない人もいることでしょう。ですから、その「切り口」を今回の記事で考えたいと思います。

 私はNLPの実践者であるため、NLP的なアプローチで、部下の「何」を褒めたらいいのか、考察してみます。切り口には、意識の階層モデルである「ニューロロジカルレベル」を使います。

■ ニューロロジカルレベルの5階層

 1.アイデンティティ

 2.信念・価値観

 3.能力

 4.行動

 5.環境

1.アイデンティティは、「私は~である」で表現できます。

2.信念・価値観は、「私の価値観は~である」。

3.能力は、「私の能力は~である」。

4.行動は、「私の行動は~である」。

5.環境は、「私の環境は~である」。

 これら5つの切り口で、部下の反応を探ってみましょう。部下を褒めたいと思ったとき、

 「君は本当にすごいね!」「あなたは素晴らしいよ」と褒めます。褒める対象を部下自身(アイデンティティ)にして、相手の表情がパッと明るくなったら、この褒め方は効き目があるかもしれません。

 ちなみに私であれば、少しばかり居心地の悪さを覚えます。「ありがとうございます」と素直に言えず、「いやいやいや……」「私自身がすごいんじゃなくて……」ととっさに言いたくなります。

 相手の価値観を褒めるのはどうでしょうか。

「今回のプロジェクトが成功したのは、君の価値観に多くの人が共感したからだ。私も考え方を変えようと思う」

 などと褒めてみます。

 部下の反応が鈍ければ、「まわりくどい言い方だな」と受け止められている可能性があります。理屈ではなく、しっくりこないのです。そういう部下にはアイデンティティそのものを褒めたほうがいいでしょう。

 もし私だったら、このような褒め方のほうが嬉しいですね。

 次に、褒める対象を能力にしてみます。

「こんなことまでできるようになったんだ。凄いじゃないか」「君にそんなスキルがあるとは知らなかった。いいね!」

 などと。

 部下の行動を意識するのは、すごくわかりやすい褒め方です。

「お客様が困った顔をした瞬間に、あのような提案をしたのは見事だった」「毎朝やるべきことを書きだしてから仕事に取り掛かっている。その習慣はとても素晴らしい」

 最下層は「環境」です。その人のみならず、その人の置かれた環境――つまり組織やチームを褒めてみましょう。

「君のグループは、よくやってくれる」「あなたの組織はとても雰囲気がいい」

 5つの切り口で、褒めてキャリブレーションしてみましょう。人によっていろいろな反応を見せることに気付くはずです。

 私の部下もさまざまです。どんなに本人を褒めても、困った顔をする部下がいます。その部下の、能力や行動を褒めても、はにかむだけで嬉しそうにしません。

 嬉しそうにするのは、自分が指導したクライアント企業や、自分の後輩を私が褒めたときです。

 「すごいよ」「さすがね」「すばらしい!」――と、褒め言葉「3S」を会うたびに使っていれば、気分をよくしてバリバリ仕事をする部下もいます。

 やはり人それぞれ、さまざまです。

 「自分が喜ぶことを相手にもしてみよう」とはよく言われることです。しかし、自分の反応を参考にしてはいけません。「自分視点」ではなく「他者視点」で考える。これがホメジメントの基本です。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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