部下に達成グセをつける「ホメジメント」の効果
上司が最も望んでいること
世の中の上司が、最も望んでいることは何か? それは、部下の成長です。以前よりも、できることが多くなった。高い目標を達成できるようになった。そんな部下の姿を目の当たりにすると、上司は喜びます。「お前も成長したな」と心から祝福したい気持ちになるものです。
しかし、単に成長したらいいというわけではありません。大企業でも中小企業でも、多くの管理者はプレイングマネジャーです。自分も達成すべき目標を持っていることが多いため、できる限りはやく成長させ、部下を独り立ちさせたいと願っています。
効率のよい成長はどのパターン?
さて、ひとえに部下の成長といっても、いくつかのパターンがあります。
生産性という表現を借りれば、投入された資源量に対して、産み出された生産量(成果)が大きければ、生産性の高い――つまり効率のよい成長を部下が見せたということになります。
仮に、部下が「100」という成果を生み出すのに、
(A)上司の「1000」の資源(労力)量を必要とする
(B)上司の「100」の資源(労力)量を必要とする
(C)上司の「10」の資源(労力)量を必要とする
(D)上司や他の同僚の「1000」の資源(労力)量を必要とする
――とした場合、今のあなたの部下はどの状態でしょうか。
部下が「1」の成果を出すのに、上司が同等の「1」の労力を投入するのであれば、部下の存在価値はゼロです。物を1メートル運ぶのに、部下も上司も同等の労力を投入したことになるため。
したがって(C)以外の状態では、部下の存在価値がありません。上司など、他の人がやったほうが資源投入量が少なくて済みます。「単純労働者」としての欠員補充として雇ったのであれば別ですが、とはいえ、それならそのような人材は、今後すべてロボットに置換されていくことでしょう。
(A)(B)(D)の状態を、いかに(C)に近付けていくかが上司の役割です。
効率的に部下が成長するのは(AもしくはD)→(B)→(C)と遷移するスピードが速いパターン。
上司が「10」手を差し伸べるだけで「100」の成果を部下が産み出す。こんな姿が理想です。上司がほとんどアドバイスしなくても、部下が十分な働きをするようになったら、「もう何も言うことはない」と上司は感じるはず。
「目標を与えるだけで、勝手に達成してしまう」
と、上司が寂しさを覚えるぐらいになったら、部下は独り立ちしたと言えるでしょう。
ハーズバーグの二要因理論
部下が「100」の成果を出すのに、上司が「100」とか「1000」の労力を投入しているのであれば、部下の存在価値がないと書きました。同様に、上司の存在価値もないと言えます。
それでは、どのように部下育成をすれば、効率的に部下は成長していくのでしょうか。「ハーズバーグの二要因理論」を用いて解説したいと思います。
職務満足、そして職務不満足を引き起こす要因が2種類あるとした「ハーズバーグの二要因理論」は、部下を成長させるうえで大変参考になる理論です。
二要因とは、職務満足につながる「動機付け要因」と、職務不満足につながる「衛生要因」。今回は「動機付け要因」を整理していきます。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。ですから「動機付け要因」の最たるものが「達成」であることは、直接肌で感じています。
達成しなければ不満足となるわけではありません。しかし目標が達成されれば、部下の満足レベルはMAXになります。
次に「達成」ほどレベルが高くはないが、「動機付け要因」として無視できないのが「承認」です。ですから部下の職務満足レベルを上げ、成長を促すためには、目標を与え、達成させ、上司からの適度な「承認」が必要なのです。
部下をどう褒めるか?
褒めることが大事だ、とよく言われます。しかし、単に褒めるだけで成長するのは、コーチングの世界では「プロモーター」タイプのみと言われます。
「プロモーター」タイプの部下であれば、どんなときも「君はいいねえ!」「すごいね!」「さすがだね!」とべた褒めすればいいのかもしれません。
しかし、たとえば「コントローラー」タイプであれば、褒められるようなことをした覚えもないのに、そのようなことを言われつづけると、「課長は私のことをコントロールしようとしているのか?」と疑うそうです。
「アナライザー」タイプなら「自分のどの行動、意思決定が褒められることなのか、もっとわかりやすく解説してほしい」と受け止めるそうです。
したがって、ただ褒めれば部下は成長すると考えるのは短絡的です。
先述したとおり、上司が与えた目標を達成させて、そして褒めるのです。それであれば、なぜ褒められたかは明確です。どのようなタイプであろうが、部下は承認されたと受け止めます。
もっと成果を出そうという動機付け要因になることでしょう。
達成グセをつける「ホメジメント」
それでは、どのような目標を部下に与えたらいいのか。ここが大事なポイントです。それは「絶対達成する目標」です。
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。クライアント企業へ支援に入ったときに、必ず最初にやることです。
「絶対達成する目標を立てて、その目標を達成させる」
そのことに何の意味があるのか、と思う人がいます。目的はクライアント企業の営業たちに「達成グセ」をつけることです。
恒常的に目標が達成できない人は、達成するクセがありません。年間の営業成績が達成できない人は、たとえ一週間の行動目標ですら達成できません。自分で宣言しても、あとになって「急な仕事が入った」「問い合わせ対応で忙しかった」などと、言い訳をしてきます。
ですから、絶対達成する目標を与えて、必ず達成するように上司が指導します。どんな小さなことでもかまいません。
「見積書を3時までに完成させる」と部下が言うなら、それは本当に「絶対達成できる目標なのか」と問いかけます。「絶対達成できる」と部下が言うなら、任せます。
もし「わかりません」と答えるようなら、「何時までだったら絶対達成できる? 絶対達成できる期限を決めよう」と質問して考えさせます。
「でも、途中で突発的な仕事が入ったら」とか「でも、決めた時間までにできないときもありますし」と言い出したら、達成グセがついていない証拠。達成グセがついてない部下は考える習慣がありません。思考停止になっているので、まずは考えさせる質問をすることが大切です。
「それ以外の仕事が入らないように私がする。絶対達成するなら、どんなに長い時間をかけてもいい」
と言ってあげましょう。
「だったら1年かけてやります」
といった、ふざけた答えをする部下はいないでしょうから、「3時までは難しいかもしれないので、余裕を見て4時まででお願いします」などと言ってくるはず。
たとえ「4時までかかるわけないだろ!」と思っても、こらえます。部下に達成グセをつけることが大事だからです。
どう考えても絶対達成できる目標を決めたわけですから、目標は達成されます。(万が一、これでも達成できない場合は、上司と部下との関係が著しく悪いか、部下の資質の問題かもしれません)
どんな小さな目標であっても、上司と約束した目標ですから部下は満足します。
そしてキチンと上司は部下を、このタイミングで褒めます。こうすることで、動機付け要因である「達成」と「承認」が同時に発生します。
おそらく上司は「こんなことで褒めたくない」と思うでしょうが、これが上司の仕事だと受け止めましょう。少しずつ、苦労しないとできないもの、上司に相談しないと達成できないような目標へとレベルを上げていけばいいのです。
上司が、部下を褒めて効率的にマネジメントすることを私は「ホメジメント」と名付けています。
部下のタイプ・属性によっても褒め方は変わりますが、どのような行動、成果を出したら褒めるべきかをまず頭に入れてホメジメントしましょう。