夏の3連休の水遊び 水辺の熱中症対策はどうすれば良いでしょうか?
いよいよ来ました、この夏の3連休。周囲の人に聞いて回ると「西伊豆で限りなく透明な海のスノーケリング」「越後湯沢で冷え冷え川遊び」など楽しい計画で満載のようです。その中で「水遊び中の熱中症が心配」という声が多くありました。
そこで、水遊び中の熱中症対策を簡単にまとめると・・・
■ 水温は33度以下で
■ 帽子をかぶり上着を羽織りながら
■ 水分とミネラルの補給
以上について、科学に基づき「なぜか」をお話しします。
水辺にて実際に熱中症になるのか?
つい数日前に、筆者はある学校のプールにてういてまて教室の指導を屋外で行いました。指導者役の筆者は水着姿でプールサイドに立ち、炎天下で1時間半ほど声を張り上げて指導していました。教室の終わるころに軽い熱中症かと疑いたくなる自覚症状が出て、ふらつきが始まりました。この日12時の近所の気象は次の通りでした。
天気 快晴
気温 34.7度
湿度 59%
風 南南東 4.5 m/s
一方で、プールで指導を受けていた人たちは服を着たままとても気持ちよさそうに水の上に浮いていました。熱中症と疑われる症状を訴えた人は参加者約50人のうちゼロでした。水温は教室開始時に26度、終了時に28度となっていました。
体温が奪われもせず、温まりもせずの温度を中性温度(図1)と呼びます。筆者が別途計算したところ、水着の状態における中性温度は空気中で気温およそ28度、水中で水温およそ33度でした。つまり外にいる時には日陰で気温28度以下、水中では水温33度以下なら、ゆで上がることは計算上はないことになります。
このおよその数字を使って先日のういてまて教室の状況を解析すると、プールサイドに立っていた筆者は28度より高い気温でやられたのに対して、プールの中に浸かっていた参加者は33度に未達の冷たい水で身体が冷やされたため「熱中症からは、ほど遠かった」状況にあったということになります。古今東西、全身を水に浸けることは、身体を冷やすための最高の手段だと言えるでしょう。
ならば水遊びには、熱中症の心配はないのか?
「川や海での水遊びは、膝下の水深まで」と、いつも口を酸っぱくしていますが、はて熱中症の心配はどうでしょうか。
膝下の水深なら水の流れの中に座ったとして、腰から上は空気中に出ます。身体はいわば、中途半端に濡れていて、そして濡れていないので、熱中症の心配はアリということになります。下半身が冷やされているとは言え、直射日光に照らされていれば上半身や頭の冷却が追い付きません。太陽の日差しの強さによっては身体がヒートアップするばかりです。上半身や頭の冷却が進まない限りは、熱中症の心配はつきまといます。では水遊び中ならどのようにして熱中症対策をしたら良いでしょうか。
水遊び時の熱中症対策
◆水温は33度以下であること
身体を水で直接冷やすのであれば、その水温は33度以下でなければなりません。それ以上であれば、お湯の張られたお風呂の浴槽に浸かっているのと同じことになります。身体が温められてしまいます。
◆帽子をかぶり上着を羽織ること
水遊びでは、水に浸からない部位を常に冷やさなければなりません。そのためには帽子をかぶり、上着を羽織り、さらにそれらに水をかけて濡らします。この水が蒸発する時に、帽子や上着の温度を下げてくれます。
簡単な紙上実験をしてみましょう。気温が34.7度、湿度59%の条件にてプールサイドにいた筆者がもし帽子をかぶっていて、その帽子に水をかけて濡らしていたら帽子の温度は何度になるでしょうか。
気温:34.7度、湿度:59% ⇒ 帽子の温度:27.7度
この計算は、乾湿計による湿度の導出法に倣っています。計算上は帽子を水で濡らすだけで、濡れている間は帽子そのものの温度が中性温度の28度よりも低くなると予想できます。当然、濡れた上着を羽織っても同様の効果が得られることでしょう。
ところが「今日は蒸し暑いゾ」という気象で、気温が33.0度、湿度75%の条件ではどうかというと、帽子の温度は次の通りです。
気温:33.0度、湿度:75% ⇒ 帽子の温度:29.1度
気温よりは低い温度ですが、帽子をつけた状態で29.1度では中性温度を越えてしまい、帽子の中に熱がこもるかもしれません。そういう時には、風通しが良くて、日陰になるような場所を選んで水遊びをします。風が吹けば帽子や衣服から水分が蒸発しやすくなります。水分が蒸発することで帽子から熱を奪ってくれます。
◆水分とミネラルの補給
一般的に言われているように、水分とミネラルを必要に応じて適宜とるようにします。「水遊びだから身体から水分が抜けない」ということはありません。競泳選手が水泳の練習をしている時ですら、泳ぎながらでものどがかなり乾きます。
具体的には
濡れてもよい帽子と長袖薄手の上着を水着の上から羽織ります。膝下水深で水に座って浸かります。5分に一回は帽子と上着を濡らします。それでも暑いと感じたら、風通しのよい日陰に移動して水遊びを楽しみます。
30分に一回は水から陸に上がり、風通しのよい日陰に入ります。気温が30度を越えていても湿度が低いとむしろ寒く感じることもあります。あまりに寒いようなら濡れた衣服を脱いで、乾いたタオルで身体の水を拭き取り、バスタオルなど大きなタオルにくるまります。そして水分とミネラルをゆっくりと補給します。
火照った身体で急に水に入らないこと(溺水事例)
夏休みが始まるころの、溺水につながる最も危険な原因は「深さを確かめずに水に入る」ことです。レジャー先の水辺に到着した直後の、身体が火照っている時に冷たい水を前にして悲劇が起こるものです。
事例1:プールに到着した親子。更衣室で母が5歳児と2歳児の着替えをさせていた。2歳児の着替えに手間取っている間に5歳児が着替え終わり「先にプールに行っていい?」と言われたので母が「いいよ」と言ってしまった。その直後5歳児はプールに走り飛び込みをして溺れた。
事例2:渓谷の川に到着した家族。父母がタープテントを立てたり、敷物を敷いたりする準備をしようと車から資材を下ろしている途中で、9歳男児が「先に川に行く」と言い残し、その子は一人で川に向かいそして走り飛込みをして溺れた。川に流され発見されたのはだいぶ後だった。
家族連れなら、水辺に到着後大人は子どもと一緒に水に近づき、一緒に水の深さを確認しましょう。そして入水したら膝下までの水深のところで、家族揃って一緒に楽しく遊びましょう。
事例に基づいた水難事故防止の啓発番組をぜひご覧ください
夏の3連休に合わせて水難学会はNHKの水難事故防止のための啓発番組作りに参加しました。その番組は次の日程で放映されます。一部、リンクを張り付けてあります。
7月17日7:00- NHK総合 おはよう日本
すでに放映が終了した7月13日分を含めて番組を見逃してしまっても、NHKプラスにて全国から視聴が可能です。また、番組内容は都合により変更になる場合があります。