『帰ってきたウルトラマン』のビックリ挑戦! 星よりデカい怪獣をどうやって倒したのか!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
たいへん残念なことに、団時朗さんが亡くなられてしまった。
団さんといえば、どうしても『帰ってきたウルトラマン』を思い出す。
夕日のなかで怪獣たちに苦戦していたウルトラマンの姿が忘れられない。
『帰ってきたウルトラマン』は、筆者が小学5年のときに始まったのだが、まことに衝撃的な番組だった。
ウルトラマンが帰ってくるというので、心待ちにしていたら、やってきたのはかつてのウルトラマンではなく、よく似た別人だった!
そのウルトラマンに変身する郷秀樹は「いざとなったらウルトラマンになればいい」と慢心した!
MATチームの隊員たちはいがみ合い、怒号が飛び交った!
新しいウルトラマンは、なんだかちょっと弱かった!
郷秀樹の恋人のアキちゃんと、兄の坂田さんが宇宙人に殺された(しかも車でハネた)!
衰弱した宇宙人をかくまっていた少年を、街の人々が容赦なくいじめた!
最終回で出てきたゼットン二代目が、めちゃくちゃカッコ悪くなっていた!
うーむ、こんなふうに羅列すると、ろくな記憶がないみたいだが、決してそうではない。
『帰ってきたウルトラマン』が、深みのある人間ドラマを作ろうとしていることは伝わってきたし、描写が過剰になりがちなのは、70年代のドラマや特撮番組では珍しいことではなかった(それでも、アキちゃんと坂田さんが殺されたのはナットクできんけど)。
途中でウルトラセブンや初代ウルトラマンが登場するというサプライズは楽しかったし、キングザウルス三世やステゴンやベムスターなど魅力的な怪獣も多かった。
グドンとツインテールが「食う・食われる」の関係にあるという設定には目を見張った。
シーゴラスの大津波や、バリケーンの台風など、怪獣たちが「自然の脅威」を利用して攻めてくるのも、理科好きな子どもだった筆者には嬉しいことだった。
なかでも、決して忘れられない怪獣がいる。
それは、暗黒怪獣バキューモン。
この怪獣は、なんと「北斗七星を10日で飲み込んだ」という!
星を飲み込むのだから、もう驚異的にデカい。
あまりに大きすぎて、姿カタチもはっきりせず、テレビの画面で見る限り、真っ黒な雲みたいな感じだった。
その体格について、怪獣図鑑には「身長/無限 体重/無限」と書かれていた。
主人公が慢心したり、正義のチームで怒号が飛び交ったり……という人間ドラマの一方で、宇宙規模の怪獣を登場させる。
この間口の広さが『帰ってきたウルトラマン』の魅力でもあったと思う。小学5年生だった筆者が、この番組から受け取った影響はとても大きい。
亡くなられた団時朗さんを偲び、本稿では、空想科学の世界でも屈指の大怪獣・バキューモンについて考えたい。
北斗七星を10日で飲み込むとは、どれほどすごい怪獣だったのか?
◆ウルトラマンより2京倍デカい!
星を飲むからには、その体は星より大きいはずである。
たとえば、太陽の直径の10倍の大きさがあるとしたら、バキューモンは身長1400万km。ウルトラマン(身長40m)の3億5千万倍ということになり、もう絶対に勝てる気がいたしません。
だが、劇中の「北斗七星を10日で飲んだ」という話から考えれば、そんな大きさでは済まないはずだ。
この星座の7つの星を、ヒシャクの形に添って進んでいくと、距離の合計は実に100光年。光の速度でも100年かかる。
バキューモンがこれをわずか10日で進んだとしたら、その移動スピードは光の3650倍ということになってしまう。
この宇宙で光の速度を超えることはできないから、するとこう考えるしかないだろう。
バキューモンは移動しながら星を飲んだのではなく、移動しなくても星を飲めるほどデカかった。つまり身長100光年!
怪獣のサイズとしてはあまりにも巨大だが、これまで発見された最大の暗黒星雲は、差し渡しが350光年。暗黒怪獣を名乗るからにはこのくらいあっても不思議はないだろう。
するとウルトラマンの身長の2京4千兆倍で、ウルトラマンはますます配色濃厚に……。
◆北斗七星はどこにある?
しかし冷静に考えると、ちょっと謎めいた話になってくる。
「バキューモンが北斗七星を10日で飲んだ」というのは、地球からの観測結果に基づいた話である。
それまで見えていた北斗七星が10日間で消えていった、ということだろう。
「星座」はあくまでも地球からの見え方で、星座を作る星々が実際に寄り集まっているわけではない。地球からの距離はバラバラなのだ。
「北斗七星」の7つの星の、地球からの距離は次のとおり(7つの星にはそれぞれ立派な名前があるが、ここではヒシャクの先端から順に「北斗1星」「北斗2星」と呼称する。距離は『天文年鑑2018』による)。
北斗1星 地球から120光年
北斗2星 地球から79光年
北斗3星 地球から84光年
北斗4星 地球から81光年
北斗5星 地球から81光年
北斗6星 地球から78光年
北斗7星 地球から100光年
北斗2星から6星までは、地球からだいたい同じ距離にあるが、端っこの北斗1星と7星は、かなり遠いところにある。
そして、北斗1星の「地球から120光年」とは、光の速度でも120年かかる距離である。
地球で、北斗1星が消えるのがいま観測された場合、実際に消えたのは120年前。
つまりバキューモンが飲み込んだのは120年前なのだ。
さらに100年前に北斗7星を飲み、84年前に北斗3星を飲み、81年前に北斗4星と5星を飲み、79年前に北斗2星を飲んで、78年前に北斗6星を飲む。
ややこしいけど、こんなふうに43年をかけて7つの星を飲まないと、地球からは「北斗七星が10日で消えた」という観測結果にはならないのである。
つまり、バキューモンは、北斗七星の星を、地球から遠い順に飲みながら、地球に近づいてきているわけだ。
だが、事件は、それだけでは終わらなかった。
バキューモンは、かに座の星まで飲み始めたのだ。
MATの丘隊員は「天文研究所から連絡が入りました。いま、かに座で2番目に明るい星が消えました!」と報告する。
もちろん、これも「いま」起こった事件ではありません。
かに座で2番目に明るい「かに座δ星」は、地球から136光年の距離にある。
消えたのは136年前のことであり、ややっ。そうなると、バキューモンは北斗七星を飲む前に、こっちを食したことになります。
◆戦う相手が違うと思う!
科学的に考えると、ややこしい物語だが、劇中の展開もいろいろややこしかった。
宇宙から怪獣ザニカがやってくると、MATの伊吹隊長は、かに座の消失と関係があるかもしれないと推測する。
その根拠は「あの怪獣、カニにそっくりだ」。
えっ!? かに座という星座名は、地球から見た星の並びがカニを思わせるからで、そこに棲む生物の形態とは無関係なのでは……と思ったが、ナレーションは「伊吹隊長の推定は正しかった」と続く。
ザニカは、バキューモンに故郷を食べられて地球に逃げてきた怪獣だったのだ。
うーむ、ホントに世のなか、何が正しいかわかりませんなあ。
そこにウルトラマンが登場する。
バキューモンがかに座を飲んだのは、136年前も前の話なのに、いったいどうするつもりだろう?と思っていると、ウルトラマンはザニカを攻撃した!
そのハサミをすっぱり切断。ええ~っ!?
そしてザニカが膝をつき、涙を流したとき、ウルトラマンはハッとする。
その心情をナレーションがこう代弁した。
「ウルトラマンは気づいた。この怪獣は、追われてこの地球に来たのだ。問題は、この怪獣ではない」。
そうだよー、どう考えたってそうだよー。
ウルトラマンはようやく、バキューモンを倒すために宇宙に飛び立つのだった。
バキューモンの体内に飛び込み、戦うウルトラマン。
地球を角砂糖の大きさにするという強烈な圧力に苦しむが、ウルトラブレスレットをサーベルに変形させて、当たり構わず突き刺すと、バキューモンは星を吐き出し、すべての星が元の場所に戻って輝き始めたのだった。
驚いた。それで死んだのか、バキューモン!?
バキューモンの体の大きさが、前述のとおり身長100光年としたら、この巨体がせいぜい20mほどしかないサーベルで刺さされるのは、
人間が長さ0.000000000000036mmという、原子の直径の280万分の1の針で刺されるのと同じ。
それで死ぬとは、この巨大な怪獣は、デリケートさも宇宙規模であった。
また、ウルトラマンの活躍で、かに座や北斗七星が再び輝き出したとしても、その光が地球に届くのは80年後や136年後の話である。
などと考えるとまずます話がややこしくなるけど、いずれにしても『帰ってきたウルトラマン』は、たった30分のドラマで、これほどの情報を盛り込んだエピソードを描いたのだ。
いろいろツッコミを入れてしまうけれど、いま思えば本当にスゴイ。
そして、そういう番組を見ながら空想科学の心を育むことのできた筆者は、とても幸せだったと思う。
団時朗さんに、心からの感謝を伝えたい。