貨物船衝突から2ヶ月 周防大島の宿泊クーポン7分で完売 一方、骨折者続出の実態も
瀬戸内海の離島、山口県の周防大島。本土と島を結ぶ橋に外国船が衝突した事故からまもなく2ヶ月が経ちます。
マルタ船籍の貨物船のクレーンなどが橋に接触、送水管が切断されてしまい、町のほぼ全域約9050世帯、1万4600人以上が40日もの間、断水に悩まされました。橋の損傷で大型バスやトラックの通行が規制され、物流や観光など地域経済が大きな打撃を受けました。
島の特産であるみかんの出荷が出来ず、ホテルや温泉施設などではキャンセルが相次ぎました。
そうした中、先月末、橋の補強が進み一般車両の通行規制が解除、今月1日には水道管の仮設工事が完了し全域で水の供給が再開されました。
日常を取り戻しつつある周防大島ですが、島の人たちから「ぜひ伝えて欲しいことがある」との連絡を受け、きのう(17日)現場を訪ねました。
あまり報道されていない事故後の課題、そして観光復活に向けた地元の取り組みを取材しました。
文末に映像による現地ルポのリンクを貼っておきます。ぜひご覧ください。
■骨折やヘルニアが続出 40日の断水で壊れた身体を誰が補償するのか?
「水道から水が出るようになり、あっという間に普段の生活に戻りました。だからこそ経験した課題をしっかり検証して次に繋げたいです」
そう語るのは、地元の仲間と共に町議会の傍聴などを続ける中村明珍さん(40)。取材に来て欲しいと私に連絡をくれた1人です。
ご近所のお年寄りが、水を運ぶ際に腰を傷めてしまい、注射を打ちながら痛みを堪えている様子を見て居た堪れない気持ちになったと言います。身体を傷める人たちは他にもいました。
中村さんたちの懸念は、事故を引き起こした船会社がどこまで個人の損害を賠償するのか。そして、町民の最も身近な窓口である町役場や町長がどのように対応していくのかです。報道だけでは情報に限りがあるため、詳細な情報を求め、今月から参加者を募って町議会の傍聴ツアーを実行しています。
議会の傍聴に参加した農家の女性。自宅の井戸水が使えたため、ご主人が近所のお年寄りに水を届ける活動を続けました。
「なぜ、水道が復旧するまで自衛隊の給水活動が続けられなかったのでしょうか?」と女性は行政の対応に疑問を抱いています。
防衛省によると、衝突事故発生から2日後の10月24日、航空・陸上自衛隊は、山口県知事の災害派遣要請を受け、島での浄水・給水支援活動をスタートさせます。延べ約500人の隊員を動員して住民の支援活動にあたりますが、2週間後の11月7日に県知事からの撤収要請を受け、任務を完了させます。「自治体での対応が可能になった」との県知事の判断でした。
町内の水道が復旧した12月1日までの約25日間は、地域力がまさに問われたと女性は振り返ります。
「身体を壊したり、経済的な損害を受けた人たちはどこまで自己責任として処理されてしまうのか?それが心配です」と今後の賠償交渉の行方を懸念します。
先日まで、町内の病院で働いていた男性は、断水が長引くにつれ、病院には骨折の疑いのある人が次々とやってくるようになったと振り返ります。
男性は、そうした状況を受けFacebookなどを使って疲労骨折への注意喚起なども行ってきました。お年寄りだけではなく、50歳代の地域の担い手世代が給水のため腰などを酷使し駆け込んでくることもあったといいます。運んできた水を中腰のままトイレや風呂に移す日々は相当な負担だったと語ります。
「水道事業がいかに重要かがよくわかる今回の事故でした。お年寄りの場合、一度の骨折で寝たきりや普段通りの生活が2度とできなくなることもあります。骨折に至らなくても、ヘルニアを発症して仕事に影響が出ることもあります。水道法の改正などが議論されている真っ最中でしたが、この島の状況を見ると、水道インフラをどう維持するのかは真剣に考えなくてはならないと感じています」。
町役場は町民の骨折の状況について把握しているのでしょうか。
担当者に問い合わせてみると、「町内にある3つの公立病院の状況は把握しています。そのほかの民間病院についてはわかりません」とのことでした。町によると、事故が発生してから身体の不調を訴え病院を受診した町民の数は、12月5日現在、3つの病院であわせて74名。そのうち24名が骨折でした。約3割です。町役場によると、民間の整形外科などを受診した人たちの実態は調査する予定はないと言います。
この数字を聞いた元病院勤務の男性は「感覚的には24人で済まないように思う」と首を傾げます。
今後、こうした個人への賠償がどこまで認められるのか?事故と怪我との因果関係をどのように立証していくのかなど課題が見えてきました。
■宿泊半額クーポンは発行から7分で完売 観光客を惹きつける周防大島の魅力とは?
NHK時代に岡山放送局に勤務していた経験から、瀬戸内の風景には格別の思いがあります。
地元の皆さんに案内をしていただき、周防大島の海岸線を見下ろせる展望台を訪ねました。夕日を受けきらきらと光る穏やかな海、ほんのりと紅葉したなだらかな可愛らしい山々、高い空と対比しながら眺めるその島の様子はまさに絶景です。
周防大島の観光協会を訪ねました。
急な訪問にも関わらず快く対応してくださったのは、事務局長の江良正和さん。ちょうどこの日は、山口県と周防大島町が、一日も早い復興に向けて計画した「周防大島応援キャンペーン」の開始日。島内の宿泊施設やフェリーの料金が割引になるプレミアムクーポンが午前10時から売りに出されました。
江良さんによると、宿泊券は販売開始から7分で完売。多くの人たちに関心を持ってもらえていると、とても励みになると話していました。プレミアムクーポンは、来年3月1日に第2弾が準備されています。
観光協会では、これから春にかけて様々なイベントを企画しています。
例えば、島の名物「みかん鍋」を囲んで男女が交流をはかる街コンならぬ「鍋婚」。町内の3つの温泉施設を割引価格で利用できる回数券の発行で疲れを癒してもらう「沸活」。名物の太刀魚の刺身をフォトジェニックに皿に盛って炙って食す「タチウオの鏡盛り」。太刀魚の甘みと炙りの香ばしさが、柑橘香るきめ細かな塩で頂ける絶品。江良さんは、冬から春にかけての瀬戸内の海の幸をぜひ堪能して欲しいと語ります。
海の幸だけではありません。瀬戸内産にこだわり全て手作りのジャム工房もあります。
「瀬戸内ジャムズガーデン」では季節毎に、地域の果物を使った様々なジャムを職人が一つ一つ丁寧に作って販売をしています。大鍋を使用せず短時間で果実本来の風味を生かす小ロット製法。12月は、ゆずや青リンゴ、大島みかん、完熟のかぼすを使ったジャムが特に味わい時です。山小屋のようなかわいい店舗が特徴で、海辺を眺めながらジャムを塗ったパンやケーキなどが食べられるカフェも併設しています。
さらに、初日の出を家族やカップルで楽しむのにうってつけのホテルもあります。
ブライダルも手がける海辺のホテル「サンシャインサザンセト」。客室からのぞむ、目の前の海から朝日が昇ります。静かな瀬戸内海の水平線から徐々に顔を覗かせていく太陽の姿は、まさに初日の出に相応しい神々しさ。嶺潤一郎室長は「ぜひ年越しの旅行に利用して欲しい」と語ります。
秋のブライダルシーズンを直撃した今回の事故で、キャンセルせざるを得ない状況にも追い込まれました。しかし、延期してでもこのホテルで式を行いたいと春に挙式を行うカップルもいると言います。嶺さんはこう語ります。「こうした困難に直面した経験があるからこそ、さらにサービスを磨いてお客様に満足してもらえるようなホテルにしていきたいです。ぜひ多くの方に遊びにきていただきたいです」。
ぜひ、旅行先に迷ったら周防大島を選択肢の一つに。
島の人たちが皆さんを待っています。動画もぜひご覧ください。