テント泊登山を甘く見てはいけない!痛い目に遭わないためにやっておくこと、覚えておくこと
2020年は新型コロナが終息しない中、三密を回避しながら登山をするシーズンとなりました。だったら山の中でテント泊したら良いではないかと考えている登山愛好家も多いかと思います。テント泊の素晴らしさを味わう前に挫折してしまうことがないよう、事前にチェックしてほしい点をご紹介します。
最初に知っておいてほしいことは主要な登山コースではキャンプ指定地以外ではテントは張ってはいけないということです。国定公園や国立公園など自然保護エリアでは特に厳しく規制されているので覚えておいてください。
今年からほとんどのキャンプ指定地は完全予約となっています。
何でもかんでもと快適装備を準備しすぎてはいけないのです。その代償は背負う荷物が増えるということです。
1:'''全ての食料と水をパッキングして背負ってみましょう。
'''自宅の体重計で背負った自分と空身の自分で引き算すれば重さが出ますね。実際にテント泊装備を背負う登山に行くのであれば、2週間前には近場の山で実際に近い重量を背負って歩いてみましょう。多分、気分的には「いやぁー、大丈夫かなぁ?」となるかもしれません。
不安を感じたなら、あなたは正常です。見込みあります!
自分の行動様式を見直す良い機会です。目標のテント泊登山の行動開始時間を早め、糖質とミネラル、水分の補給方法と量を見直し、歩くスピードと歩幅・段差を小さくしていくのが必要となるかもしれません。想像していた以上に疲労してしまうこともあります。いくら気軽だといっても単独行では安全への選択肢は限られてしまうので避けてください。荷物を減らす仲間もいないので、行動不能に陥り集中力不足によって怪我も起きやすくなってしまいます。
キャンプ地にたどり着かないからと、今年の夏のアルプスで指定地以外でテントを張る登山者が続出したらどうなるでしょうか。
命を守る行動ということで「よく頑張った!」と褒められる?そんな訳はありません。
自分が必要とする荷物を自分で担げないのに「無謀にも山にきた登山者」ということになります。自分の命を粗末にしてはいけないのです。
荷物を背負った自分がどのくらい前後左右に大きくなって、動きが鈍くなっているのか、ほとんどの人は想像できていません。狭い登山道でのすれ違い、急斜面での登り下りなどザックの大きさが災いして起きた転落死亡事故は昨年も多発しました。
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転ぶな危険!小さなミスと大きな代償 人気の水平道に相次いだ転落死
同じ機能を持つ装備であれば軽量でコンパクトな物を選ぶことは間違っていませんが、複数のソコソコ機能を詰め合わせたマルチタイプには気をつけましょう。
私のおすすめは単機能・故障しにくいシンプル構造の物です。
あったら良いなという程度の物は持っていく優先順位は低いです。車で乗り付けられるオートキャンプやベースキャンプ登山であれば思いつく楽しい物を持っていくと良いでしょう。
2:前もって登山用コンロを使って自宅で「晩御飯」をつくって使い方に馴れておこう。
別に料理の予行演習をしておくということではありません。ガスカートリッジと燃焼器の脱着、五徳と持っていくコッヘル鍋の安定性はどうですか?キャンプテント生活では燃焼中や鍋に内容物(水・お湯も)が入っているときは鍋の取っ手を離さない事はとても重要です。狭いテント内で料理中の「火傷」はとても多く、起こしてしまうと十分に冷やすこともできず悲惨です。
3:テントはまず自宅で立てる練習をしておきます。立てるだけならばたぶん誰でもできると思いますが、テントは立てるとき、畳むときに破損トラブルは起きやすいのです。立て方は自分の持っているテントで練習してください。今は一般的な注意事項を述べさせていただきます。
ゴム紐で連結されているテントポールは連結部分がしっかりと差し込まれた状態ですか?立てている作業中に半分抜けた状態で曲げられると破損します。風が強い中でテント設営は複数、仲間と協力して立てましょう。
テント出入り口ファスナーを閉じておくこと。なぜならば立てた瞬間「凧」のように飛んで行くからです。テントは正常に立った状態以外、横向きに寝かされるとポールに強すぎる曲げ圧力がかかってしまいます。折れるか復元不可能な曲がりを生じさせてしまいます。
テントを張ったまま、留守にして登山に行く場合はどうしますか。張り綱とペグの再チェック、出入り口を確実に閉めておかないと、帰ってきたら遠くに飛ばされていることもあります。人間による盗難は別問題として、食べ物やゴミをテントの廻りや外に置いておけば動物による被害を引き起こします。北海道なら命を守る(人もクマも)ヒグマ対策ルールが決まっています。しっかりと調べておきましょう。
テント本体袋、フライシート袋、ポール袋などはひとまとめにして自分のポケットにしまい込んで作業します。これを怠るとテント撤収時に収納袋探しで大騒ぎになることがしばしばです。
4:自立式テントなのになぜ張り綱?
現在のテントは強風があると本体をしならせながら耐えるのですが、テント四隅への「ペグ打ち」とポール末端からテント高さ半分程度にあらかじめついている張り綱用ループを使っての「ペグ打ち」をしておくことで悪天候時のテント倒壊を防ぐことができます。良い天気と満天の星空を満喫できれば素晴らしいのですが、悪天候の時は薄い生地でできたテント空間は「命を守るシェルター」です。きっちりと張ることを身に付けておくようにしましょう。
テント固定は「ペグ打ち」だけではない ⇒ 石自体の重さを利用することもあります。
5:テントスペースは有限です。
早めに到着すれば凸凹や傾斜、風当たり、雨天時の浸水、景色の良さなど選択肢は多いです。しかし、テント場が混み合ってきたらどうしましょうか。電車の長座席と一緒ですよね。上手に詰め合えば良いのに、「先行者特権だ!」とばかりに広い範囲を占拠するのがスマートな事なのか、今一度考えてみたいものです。
テントスペースを選ぶとき、優先順位の高い要素は何でしょうか。第一は安全面です。強風の通り道や降雨時に雨水が流れ集まる場所は避けること。第二は傾斜地や凸凹地は睡眠に影響があるので可能な限りフラットな場所がベターですが、贅沢は言えないのでテント内床をマットレスだけでなく、ザックなどあらゆる持ち物で調節することで解決することもあります。
布きれを挟んで過ごすテント生活、お隣さんと仲良くできた方が楽しいに決まっています。つい忘れがちなのが、自分たちが出すおしゃべりや笑い声、音楽などです。明るいうちに夕食は済ませて、ゆっくり夕闇が訪れるのをコーヒーやホットワインを片手に眺めるのも良い時間の過ごし方です。
さぁ、明日は4時に起きて日の出を見ながら歩きたいのでもう寝ようか。
6:テントを立てたらすること。
物を入れ込む前に一応中に入って寝っ転がってみてください。傾斜は?頭はどっちかな?避けがたい位置に石が突出していませんか?気になるようなら位置や向きを変えてみてください。
防水・防汚・若干の断熱のために、底面を全面覆えるシートを敷いておきます。次に個人のマットレス、食糧やコッヘル鍋、メンバーの水筒をチェック、個人装備だけになった各自のザックをテント内に入れます。ドーム型テントの場合、隅の方に各自の荷物とすぐに使わない共同装備を置くようにします。天井が高い中央部スペースは共用部分なので空けておくようにします。
想像してみてください。
外は豪雨の肌寒い一日、一歩も外に出られないとき狭いテント内でどのように過ごしますか。人の身体からは絶えず水蒸気が発生しています。狭いテント内は人の熱気で外界に比べて温度は高いのが普通です。この様な環境では暖かくて湿った室内空気はテント生地の内側で「結露」を起こします。テント生地防水性が完璧であってもテント内が湿ることはごく普通の事なのです。事象を科学的に捉えてみるのもよいでしょう。
7:テントは火器厳禁?!
テントの取扱説明書にはテント内での火気使用は禁止と書かれています。外は横殴りの風雨です。さて、どうしましょうか。
なぜ、テント内で禁止になっているか考えてみましょう。狭いテント内の空間に十分な酸素が無くなると不完全燃焼を起こし、酸欠や一酸化炭素中毒の危険が高まります。かつて、雪に埋もれたテント内でガスランタンをつけて休んでいて起きた事故がありました。
では、どうやって防ぐのでしょうか。入り口とベンチレータの二か所に空気の出入り口をつくって十分な空気が流れるようにします。雨風、寒気が入っても行うのです!燃焼器具は小まめに消火する習慣が大切です。常に自分の手のコントロール下においておきましょう。うたた寝厳禁!「寝るならつけるな!つけたら寝るな!」これは鉄則です。
ナイロンやポリエステルでできているテント生地はコンロの炎や熱くなった五徳で簡単に融け破れてしまいます。テント内のメンバーが気づきにくい消した直後のまだ熱い五徳での火傷と生地の穴あけは起こしやすい失敗です。
私の失敗 ⇒ パキスタンヒマラヤの7000mのキャンプテントでかつて燃料カートリッジの交換時にテントを焼いてしまったことがあります!1985年の不幸な出来事でしたが、少し幸運なこともあったので、今こうやってお伝えすることができるのはうれしいことです。 ⇒ 燃料の交換と補充はテント内では決して行わない習慣を!
8:山で手に入る水は全て「天然水」です。
山小屋やキャンプ指定地で手に入る飲料水は沢からくみ上げる、雪渓の湧水、雨水など貴重な資源です。水は空気中にも植物の中にも土の中にも存在していますが、蛇口の先からほとばしる水を得るには大変なコストがかかっていることを知ってください。
私たちが担いで行動し続けるとき、背負える水はせいぜい3リットル程度(3kg)でしょう。水場の確認はとても大切です。今年は小屋の営業は不安定ですし、ヘリコプターによる荷上げも十分ではありません。お金を払えば手に入るという町の経済感覚が通用しないということを覚えておきましょう。
余程水に恵まれたキャンプ地以外では飲み物と炊事を通して体に取り入れる水が最優先です。食材で汚れた食器やコッヘルは前もってティッシュなどで拭き取るなど下準備が大切です。洗剤も使いません。
私の習慣 ⇒ 自分の使った食器でお茶を飲むこと、最初は少しで食器の内側を洗う気持ちで、最後に緑茶でスッキリさせれば濡れたティッシュゴミも出さずに済みます。
夏山シーズンはこれからが本番ですが、先ずは麓のキャンプ場でテント生活技術を身に付けるのもおすすめです。屋外生活技術はそのまま、自然災害時にも役に立ちます。
良い山登りを!