どんなに口下手でも、相手に「熱意」を伝えるために準備すべき3つのポイント
■ 熱意を伝えたかったら、簡潔に話さない
人を動かすには、「1時間」は話せるようにしたほうがいい。
(参考記事:人を動かすには「1時間は話せ」 どんな人をも動かすコミュニケーションの考え方)
言語的データを伝えるだけなら、短く簡潔に話したほうがいい。それこそ「1分」で話したほうが、相手の記憶に残ります。
しかし、人を動かすのは「感情」です。言語的データは残らなくても、「この人のこだわりは、凄いな」「そこまで探求しているだなんて、驚く」と、相手の心を動かすほどの熱量を伝えることに意識を向けることが大事です。
こういった熱量を持っている人が、昨今減ってきています。だからこそ、巧みな話術ではなく、熱量戦略によって差別化をはかることができますので、私は強くお勧めします。
■ 浅い知識では、軽く扱われる
それでは、どのように話せば、相手に熱量を伝えることができるのか。私は、話す中身の「量」と「質」を意識してもらいたいと考えています。舞台役者のように、感情をこめて話すことは難しいですし、何より中身のない話を熱く語られても、聞き手は興ざめするだけです。
抑揚をつけず、淡々と話してもいい。「原稿棒読み」っぽい口調でも構いません。しかし、その話題になったら、1時間は余裕で話す。それぐらい話すネタを持っている、ということが重要です。
情報があふれるようになり、なろうと思えば、誰もが「プチ専門家」になれる時代です。そんな世の中ですから、
「ウィキペディアで調べれば、すぐにわかるレベルでしょ」
と、つい相手が思ってしまうような浅い知識では、相手の心をつかむことなどできません。
■「情報」「知識」「知恵」を意識する
相手の心を動かすには「熱量」が必要です。そのためには、その物事に対して、尋常ではないほど探求した歴史を、何らかの形で相手に知覚させることです。
目安は1時間。1時間は余裕で話せるぐらいネタを仕込んでおきましょう。(実際には、話さなくてもかまいません)
そして、ネタは、つねに「情報」「知識」「知恵」――この3つを意識して仕込みます。
今回は、怒りやイライラの感情をコントロールする「アンガーマネジメント」という技術を紹介したい、というシチュエーションで考えてみます。
■ まず「現象」と「情報」について
まず「情報」という言葉について、解説します。
「情報」とは、ある「現象」における客観的な事実において、収集・加工された素材のこと。ポイントとしては、「客観的」であり「事実」であるということ。
たとえば、
「最近、高速道路で運転していたら、後ろからあおられた。ものすごく頭に来た。なんであんなことをするんだろう。信じられない」
「あおり運転をする人は、おもしろがってやっていると聞いたことがある。一般人の私たちからしたら、考えられない行為だからね。普段から素行が悪い人が、やっているに違いない」
という話が耳に入ってきたとします。
さて、この「情報」の価値は高いといえるでしょうか。そうです。「……と聞いたことがある」「……に違いない」といった主観的な「意見」は、決して価値の高い「情報」とは言えません。
「現象」をもとに、何が考えられるか推察していないからです。
本当に、あおり運転をしている人は「おもしろい」からやっているのか。一般人ではなく、普段から「素行の悪い人」がやることなのか。疑問を持つことです。
起こっている「現象」を、目的に沿った「情報」に加工する技術は、とても大切です。何より、「現象」を無視した「情報」ほど、意味のないものはありませんから。
実際にアンガーマネジメント協会の調べによると、「90.2%もの人が、運転中にイライラした経験があり、その内43.5%もの人があおり運転をしている、もしくはしてしまった可能性がある」と回答しています。
つまり、あおり運転をする人は、「おもしろい」からではなく「イライラしている」からであり、一般人の誰もがあおり運転をやってしまう可能性がある、というのです。
話の中に、このような客観的データに基づく情報を盛り込むことで、説得性が各段に高まります。
■ 次に「情報」と「知識」について
「情報」と「知識」とは違います。
「情報」というのは常に流れているニュアンスがあるものです。時間の経過とともに古くなっていく印象があるので、「情報」には時間軸を意識したデータが付加されていたほうが、価値が高いと言えます。
「情報」「知識」「知恵」を使って、例をあげてみましょう。
■ A社の情報
■ A社の知識
■ A社の知恵
これらの例に触れると、「A社の情報」が一番しっくりくることがわかります。「欅坂46の情報」「新型iPhoneの情報」「新海誠の最新作『天気の子』の情報」――といった具合に、「固有名詞+情報」というパターンで考えるとわかりやすいでしょう。
いっぽう「知識」は、「情報」のように流れるようなものではなく、固定された存在のような感じがします。そしてひとりだけでなく、多くの人間の手によって体系的に加工された形跡もありそうです。
「情報」「知識」「知恵」を使って、例をあげてみましょう。
■ マネジメントの情報
■ マネジメントの知識
■ マネジメントの知恵
これらの例に触れると、「マネジメントの知識」が一番しっくりくることがわかります。「ビジネスの知識」「経営の知識」「M&Aの知識」――といった具合に、「一般名詞+知識」というパターンで捉えるとわかりやすいでしょう。
私は、ビジネスにおいて「知識」を道具だと受け止めています。そして「情報」は素材。「知識」といった道具で、「情報」という素材を加工し、料理するのです。そして目的に沿った、意味のあるものに変えます。正しい意思決定をするためです。
そのために大切なことは、良質な素材選びです。まずこれがもっとも重要。料理で考えればわかりやすいでしょう。少しぐらい調理具が悪くても、食材がよければ、おいしい料理ができあがる可能性はグッと高まります。
「情報」と「知識」を使って、例文を書いてみましょう。
「アンガーマネジメントの技術を使うことで、怒りやイライラの感情をコントロールすることができる。運転中という特殊な環境の中でも、気持ちを整えられるテクニックは3つあるので、より多くのドライバーに知ってもらいたい。そうすることで、あおり運転も減らすことができるはず」
先述した、「あおり運転をする人の多くは、イライラが原因である」というのは情報です。知識ではありません。この情報を披露するだけでは物足りないですから、その原因を解決するための知識を加えることで、相手は聞く耳を持つことでしょう。
「アンガーマネジメントって何?」
と。
■「知識」と「知恵」の違い
うまく言語化できなくても、「知識」と「知恵」の違いなら、なんとなく、感覚的にわかる人は多いことでしょう。
「知恵」には、「熟練の」とか「長年の」とかいう修飾語がつくとしっくりきます。どちらかというと、経験に裏打ちされた「ワザ」や「アイデア」「コツ」「秘訣」みたいなものを指しているように思います。
ビジネスで使う場合、どうしても職人的なニュアンスを伴う。したがって、先述した「情報」や「知識」ほど、ビジネス現場で使用されることはありません。使われるとしたら、抽象的なメタファーとして、です。
「こうなったら、ライバル会社と知恵くらべだな」
「そんな浅知恵で、社長である私を騙せるかと思ったか」
……と、このような感じで。
また、「知恵」は「知識」と異なり、みんなで共有できるものではなく、特定の個人についてくる側面が強い。
「山本専務の知恵」「武田部長の知恵」「パートの木村さんの知恵」という感じで、です。
組織によって共有できるのは「情報」であり「知識」です。「知恵」はどちらかというと、個人的に生み出されたワザや、限られた作業で使われるコツのようなものですから、組織で使おうと思っても、特別なシチュエーションに限られます。
次の例文を読めば、知恵とか秘訣、コツの意味がイメージできることでしょう。
「アメリカで誕生したアンガーマネジメントは、日本でも急速に普及しており、これまでに1500媒体以上のメディアで取り上げられている。すでに講座の受講者数は100万人を突破するほどであり、私もファシリテーターとして普及に力を入れている。
私のクライアントの中に、無意識のうちにあおり運転をしてしまう人も複数人いたが、私のカウンセリングによって、全員そのようなことはしなくなった。その秘訣を教えましょうか。秘訣は2つあるんです」
■ たくさんの引き出しを持つ
「情報」「知識」「知恵」という言葉の違いを知ったうえで(ついでに「意見」「感想」「提案」といった表現の違いも頭に入れておいたほうがいいでしょう)、言葉を使っていくことで、話のネタ、レパートリーを広げていくことができます。
今回は「あおり運転」という素材を使って「アンガーマネジメント」を紹介する、という話を組み立ててみました。
他にも「子育て」「営業」「部下育成」「学校教育」という素材を使って、「アンガーマネジメント」を紹介するというシナリオを考えてみてもいいですよね。
その際に、「情報」「知識」「知恵」の要素を整理して、ネタを仕込むのです。そのネタにいろいろなエピソードを付け加えていけば、1時間ぐらいは余裕で話すことができます。
相手に質問されたら、いろいろな引出しを開け、ネタを披露することす。そうすれば、話し手の熱量は確実に伝わるでしょう。
たいていの場合、聞き手の心を動かせないのは、話し手の努力が足りないからです。話がどんなに上手でも、努力不足を悟られたら、相手の心は冷めてしまいます。熱くすることはできません。