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グループ卒業から1年、渡邉美穂の社会派ドラマへの想い 「苦学生の気持ちは痛いほどわかります」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「SHUT UP」製作委員会

貧しい4人の女子大生が企てた復讐が、思わぬ方向に進むクライムサスペンス『SHUT UP』。メインキャストの1人で元日向坂46の渡邉美穂が出演している。明るいムードメーカーで場の空気を変える役どころ。アイドル時代から演技センスが注目されていたが、卒業から1年を経た現在の想いを聞いた。

髪を染めたら自分でない感じがしました

――しばらく前に髪色を明るくしたんですね。

渡邉 今回の『SHUT UP』の役のために染めました。私の演じる紗奈はハッチャケた感じの女の子なので、髪も合わせたいなと。

――気分も変わりました?

渡邉 染めたての頃は、毎朝鏡を見るたびに「わっ!」となっていました(笑)。自分でないような感じがして。もともと黒っぽい洋服を着がちで、黒髪だと全体的に重くなりやすかったのが、髪を明るくしてからファッションも楽しめるようになりました。

――日向坂46を卒業してから1年以上経ちましたが、生活や心持ちが変わったところもありますか?

渡邉 もう全然違います。集団で常に周りにメンバーがいる生活から、作品によって関わる方が変わって、人間関係がだいぶ広がったと思います。

――ちなみにですが、高校を卒業した頃の取材では「5歳のときから使っている犬の抱き枕と寝てます」との話がありました。今も持っているんですか?

渡邉 もうないです。破れても縫って、ずっと大事にしていたんですけど、20歳になった頃に母に捨てられて(笑)。もうすぐ24歳ですから、今は何も抱かずに寝ています。

違和感を消して日常に溶け込むように

――今年はミュージカル『SUNNY』でも大役を務めましたが、これまでの演技の現場で、何か指針になるようなことを見つけたりはしましたか?

渡邉 2月に音楽劇『逃げろ!』をやらせていただいたとき、演出家の方に「お芝居をしていて台詞でも動きでも違和感があったら、それがなくなるまでブラッシュアップしなさい」と言われました。たとえば水を飲む場面で、舞台だから大きく動こうと腰に手を当てるとか考えたんですけど、普段は絶対そんなことをしないので気持ち悪さがあって。そういうところをいかに消してナチュラルにするかは、すごく大事だと思いました。

――それはずっと心掛けているんですか?

渡邉 はい。今回のドラマでも、使い慣れない言葉があって。どうしたら自分のフィルターを通して、日常に溶け込むようにできるか。いつも考えながらやっています。

――1話の最初にズボンを洗って、「血ってマジで取れないね。くそっ!」という台詞がありました。ひと言で紗奈のざっくばらんとしたキャラクターがわかる感じがしました。

渡邉 抑揚のない感じか、語尾に強弱を付けるか。ちょっとした言い方ひとつで馴染み方が全然違うので、どう違和感を消すかで勝負しています。

――自分に違和感がないほうが、観る側にもナチュラルに映るんでしょうね。

渡邉 そう思います。日常生活で使う言葉が一番リアル。私は人が普通に会話しているようなお芝居が好きなんです。「すごいですね」のひと言でも、目上の方にはていねいな言い方を考えるけど、同世代にはもう少し簡単な言葉になる。そんなところから、リアルな若者役に近づけていこうと思っています。

フィクションはバッドエンドがいいです

――もともと映画が好きだったんですよね?

渡邉 はい。高校1年からいろいろ観始めて、気づいたときには自分もお芝居をやりたいと思っていました。

――女優を目指す原点になった作品もありますか?

渡邉 私は二階堂ふみさんが大好きで、中でも『ヒミズ』でのお芝居が本当にカッコ良くて。現実では絶対できないことが映画の中だったらできる。どんな人にでもなれる。すごく衝撃的で、私もこういうことをやってみたいと思ったのがきっかけです。

――『ヒミズ』での二階堂ふみさんは、感情を爆発させる演技を見せてました。

渡邉 私が普段あまり怒ったりしないタイプなんです。ああいうふうにハッキリ感情を出すと、どんな気持ちになるんだろうという興味もありました。

――最近でも映画は観ていますか?

渡邉 観ますね。最近だと、韓国のホラー映画の『トンソン荘 事件の記録』。私はいろいろなホラーを観ていて、あまり怖いと思わないし、1人でもビクともしないんです。でも、これは本当に怖くて! ジャンプスケアの要素もありつつ、一人称視点なんですね。自分が映画の中の人物になったようで、リアルな分、後味が悪くて良かったです(笑)。

――バッドエンドが好みなんですよね?

渡邉 そうなんです。フィクションで実際には起こらないから、楽しめる良さはあると思うので。空想の世界という前提で、どこまでも落ちてバッドエンドになってほしい。でも、現実では幸せでありたいです(笑)。

触れたらいけない問題が身近にもあって

――『SHUT UP』はバッドエンドになるのかわかりませんが、「社会派ドラマをやってみたいとずっと思っていた」とコメントされていました。そういう作品も観ていたんですか?

渡邉 何かしら観ていたと思います。広瀬すずさんが出演されていた『怒り』も、沖縄の米軍基地の問題が入っていたりしましたよね。そういう作品を観ていると、あまり触れたらいけなそうなことや、社会問題になっていても人ごとのようだったことが、意外と身近にあることを感じます。いつかは自分も出てみたいと思っていました。

――社会問題自体にも関心があったんですか?

渡邉 ありました。このドラマに出てくるようなことも、意外と知り合いが経験していたり、SNSでパパ活の話とか流れてくるので。匿名の誰かとはいえ同世代であれば、人ごととは思えません。生きていくうえで、自分を守るためにも知っておきたいです。

――『SHUT UP』では貧困や格差が描かれていて。

渡邉 声を上げづらい世の中ですけど、声を上げたらいけない人なんていなくて。悩んだら助けを求めるべきだし、ちゃんとSOSを出せる社会であってほしいと、ずっと願っていました。今回は寮で一緒に暮らす仲間に助けられる場面が多くて、信頼できる人の大切さに気付いてもらえます。苦学生と同じような境遇の人が観たとき、希望になればいいなと思います。

1日タピオカ1杯で過ごしたこともあります

――会見では、高校生の頃にお小遣いが足りなくなると、要らなくなった洋服や参考書をフリマアプリに出品していた……と話されていました。

渡邉 お仕事を始めたての頃は、お洋服とか化粧品とかいろいろ揃えるために、母親に借金をしました。もう一括で返し終えています。

――握手会の衣装とかは自前だったんですよね?

渡邉 そうなんです。最初は全然お仕事もなかったので、必死でした。

――紗奈たち苦学生の気持ちもわかりますか?

渡邉 痛いほどわかります。私もひとり暮らしを始めてからは、いかにお金を浮かせるかの闘いだったので。食費も節約したくて、1日タピオカ1杯で過ごしたこともあります。時間を潰したくても、カラオケに行くのもお金がかかるし、原宿から表参道を通って渋谷まで歩いたりもしました。お店に入っても見るだけで何も買えない。10代の頃は、そんな生活を繰り返していました。

よくしゃべる役はやりやすいです

――4人のメインキャストの中で、紗奈役が自分に来たのは納得でした?

渡邉 腑に落ちる感じはありました。場をパーッと明るくする役は、私自身が明るいので合っていると思います。仲間想いなところも、私はグループだったりバスケ部だったり、すっと集団で生きてきた人間なので。人に寄り添う難しさや重要さは、いろいろな経験を通して感じてきました。

――紗奈はよくしゃべりますよね。

渡邉 よくしゃべるし、よく怒るんです(笑)。私もずっとペラペラしゃべっているタイプなので、やりやすくて。普段そのままの感じで、本番になったらパーッといけます。

――紗奈みたいに感情的になることもありますか?

渡邉 紗奈は素直なので、怒ったときは感情をすぐ出しますけど、私は静かにクーッと怒ります。表面的には笑って流してしまいますね。モノにも当たりません(笑)。

誰にも頼ったらいけないと考えていました

――仲間想いということだと、紗奈だけでなく、4人は互いをすごくいたわり合っています。1人の中絶代をカンパするために、パパ活までしたり。

渡邉 私にもわかる感覚です。この人のために何かしてあげたい。何とか力になれないかと、動きたい気持ちは持っています。

――実際に友だちのために、何か動いたこともありますか?

渡邉 友だちがすごく悩んでいて、「今すぐにでも話を聞いてほしい」ということがあって。私は仕事中で翌日も朝早かったんですけど、「夜遅くてもいいなら来なよ」と家に呼びました。一緒に温かいごはんを食べながら「どうした?」と。やっぱり周りの人は大切にしたいし、会えるときに会って、話せるときに話したいです。

――相談はだいたいされる側ですか?

渡邉 自分からはあまりしません。でも、どうしても助けを求めたいときは、母親か姉に話します。10代の頃は「誰にも頼ったらいけない。弱音を吐いたらいけない」と考えていたんです。20歳を越えた辺りからようやく、それだと自分がしんどくなるだけだと気づけました。このドラマで描かれているように、周りの人に頼ってもいい。頼るべきだと思います。

――あの4人のように、苦しくても仲間がいれば、救いになりますよね。

渡邉 本当にそうです。辛いのは自分だけではないと思えたら、心の重りがちょっと軽くなります。

現場で合間は食べるか寝てるか(笑)

――今回のメインの4人は同じ大学2年生の設定ですが、キャストさんの実年齢はバラバラですよね。

渡邉 上は仁村紗和ちゃんが29歳、下は莉子ちゃんが20歳で、等間隔で離れています。

――でも、会見を見ていると、撮影に入ったら関係性が変わるというより、普段から仲間の空気感ができているようで。

渡邉 ずっとあのままです。いい感じで同い年っぽくなっていて。たぶん、みんな誰とでもうまくやっていけるタイプなんだと思います。私も昔は人見知りだったのがだいぶ直って、輪に入っていけるようになりました。

――会見では、美穂さんが着替えの時間にいなくて、ベランダでシュークリームを食べていたという話が出たり、「食べるか寝てるか」と言われていました(笑)。

渡邉 差し入れのシュークリームはみんなも食べていたんですけど、私だけ食べてたような話になってしまって(笑)。でも確かに、私は食べるか寝てるかですね。いろいろしゃべったりもしてますけど、セッティングや準備中にはちょっと寝ています(笑)。どこでも気にせず寝られるので。

――食べるのも、太るとか気にせずに?

渡邉 もちろん気にします。何時から何時までの間しか食べないとか。でも、気にしすぎて心が疲れてしまって、ごはんが全然食べられなくなった過去もあるので。どんなに疲れていても、ちゃんと食べて寝て、心が幸せなことが一番ですね。

力を抜いて本当の会話をしている感じに

――主演の仁村紗和さんの出演作を観たことはありました?

渡邉 拝見していました。この前の月9の『真夏のシンデレラ』だったり、いろいろ出ていらっしゃるので。ご一緒できるのを楽しみにしていました。

――役柄やルックス的には、クールなイメージがありませんでした?

渡邉 完全にそうでした。アンニュイで素敵なお顔で、オシャレさんであまりしゃべらない方かと思っていたら、ガンガンしゃべる大阪人でビックリしました(笑)。

――演技的に学ぶところも多いですか?

渡邉 多いです。私は紗和ちゃんのお芝居が大好きで、掛け合いでも台詞を言ってるというより、本当に会話をしている感じがします。自分もいい意味で力を抜いて、お芝居ができます。

言えなくて溜めていた想いも台詞に乗せました

――前半の撮影で、特に印象に残っていることはありますか?

渡邉 毎話必ず動きがすごくあって、「そう来たか!」みたいなことが連鎖しています。紗奈は自由奔放な子で、2話で『渚にまつわるエトセトラ』を歌い出したときは、その前にずっと曲を聴いていました。

――演技的に悩むことはないですか?

渡邉 あまりないですね。自分に近い役でスッと入れて。ただのお調子者でなく、仲間想いでやさしい部分とのギャップを出していけたらと。監督も伸び伸びやらせてくださいますけど、ふとしたときに私に戻って、ちょっと落ちついてしまうと、「紗奈だったら、もっとパッと明るく行くと思う」と言われたりもします。そこで、私でなく紗奈なんだと改めて考えます。

――恵(莉子)を妊娠させた悠馬(一ノ瀬颯)には、一番激しく責め立てていました。

渡邉 詰めてましたね。紗奈は「間違っている」とちゃんと言える子で、そこは羨ましいです。私は思っていても、直接は言えないタイプなので。

――でも、役に入ればいけると。

渡邉 普段言えない想いも台詞に乗せて言えるので、溜めておいて良かったと思いました(笑)。

共感してもらえるお芝居をできるように

――今の時点で、将来的に目指す女優像はありますか?

渡邉 共感してもらえるお芝居ができる女優になりたいです。今回のドラマでも、いかにリアルに近づけるかが大切かなと。共感することで役と自分を重ねてくれる人もいるでしょうし、そこで心への刺さり具合が変わると思うんです。作品によっては、オーバーに演じたり笑いを取りにいくこともありますけど、一番の目標は、ちゃんと観る人の心に寄り添えるお芝居です。

――美穂さんは演技未経験のときから、同期のオーディションで選ばれてドラマに出演したりしていました。自分でも女優に向いている感じはしますか?

渡邉 いやいや、こうして独り立ちしている役者さんとご一緒するたびに、まだまだだなと痛感します。ただ、自信は常に持っていないと、心が折れてしまうので。たまに自分と向き合って「大丈夫! やれるよ!」と奮い立たせています。まさに今回のドラマで描かれているように、本当は思っていても言えないことが私にも多くて。その熱量をお芝居に乗せたいです。良いのか悪いのか、満たされない怒りをエネルギーにするタイプで、それが観る人の心を動かして、人生を良い方向に変えたい一心でやっています。

自分の未来に自分が希望を持たなければと

――グループを離れたとき、1人でやっていけるか、不安もありませんでした?

渡邉 振り返れば、きっとありました。心配性ではあるんですけど、昔やったドラマで「自分で自分のことを信じないで、どうするんですか?」という台詞があったんですね。それはすごく大事だと思います。自分の未来に自分が希望を持たないで、どうするのか。もちろん謙虚さも大切ですけど、心の中では自分を一番に信じてなければ、誰にも認められませんよね。

――『SHUT UP』は年をまたいでの放送となりますが、個人的な年末年始のお楽しみというと?

渡邉 ドラマの撮影はこの作品が年内最後になるので、良い締め方ができればいいなと。終わったらクリスマス、大みそか、お正月とイベント尽くしなので、ガッツリ遊びたいです(笑)。ドラマの撮影中は仕事に集中していたのを、いったんパッと忘れます。毎年、親戚一同で旅行に行くのが楽しみ。温泉につかって、おいしいものを食べられたら。結局、私は食べて寝てばかりですけど(笑)、それだけでもう幸せです。

クィーンビー提供
クィーンビー提供

Profile

渡邉美穂(わたなべ・みほ)

2000年2月24日生まれ、埼玉県出身。

2017年にけやき坂46(現・日向坂46)に加入して、2022年に卒業。主な出演作はドラマ『グッドモーニング、眠れる獅子』、『イチケイのカラス スペシャル』、『ブラザー・トラップ』、舞台『逃げろ! ~モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテ~』、『SUNNY』など。ドラマ『SHUT UP』(テレ東系)に出演中。

ドラマプレミア23『SHUT UP』

テレ東系 月曜23:06~

出演/仁村紗和、莉子、片山友希、渡邉美穂、一ノ瀬颯、草川拓弥(超特急)ほか

公式HP

(C)「SHUT UP」製作委員会
(C)「SHUT UP」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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