2024年「ものづくり白書」の命の叫び、業務統一とシステム統一で日本企業の陽はまた昇るか
●2024年「ものづくり白書」のメッセージ
先日に発表されたばかりの2024年「ものづくり白書」を見ていると、熱く語られている内容がありました。日本企業は欧米企業と比べて利益率の差で大きく負けている。だけれども、大きな差といっても数%なんだ、と。日本企業は各拠点で業務が重複していたり、システムが乱立していたりします。それを大きく改革すれば、欧米との差を縮めるのは難しくないはずだ、と。面白い。これは2024年「ものづくり白書」が伝えたいメッセージだと思いました。
まず私の本業である調達業務から解説を付与したいと思います。
いまさらではあるんですが、製造業における調達業務は、企業の競争力を左右する極めて重要な役割を担っています。調達業務の効率化と正確性の向上は、製品の品質やコスト競争力に直結します。また同時に、図面や見積書の一元管理は、調達業務全体を最適化するために欠かせない要素です。
「調達なんて、あのサプライヤを買い叩く部門だろ?」なんて思わずお読みください。現在では高圧的な交渉は優越的地位の濫用と勧告されかねません。各社とも「安く」ではなく「適正」に調達できるよう心がけています。
●図面と見積書の一元管理の必要性
製造業では、製品の設計図面や技術仕様書が製品開発の根幹をなすものです。これらの図面は、製品の寸法、材質、製造方法などの詳細な情報を提供し、製品の品質と性能を保証しますよね。同時に、見積書はサプライヤからの価格提案や納期、その他の条件を明示し、調達プロセスの透明性と信頼性を高めます。これらの文書を一元的に管理することにより、調達業務の効率化と精度向上を図ることができます。
だけれども、それがまったくできていない。かなりの大企業でも不十分のケースがあるんですよね。似たような部品を調達するのに、過去の履歴を探すのが面倒で……と忙殺されている企業は多くあります。
解決策は、一元管理システムを導入することで、全ての関係者が最新かつ正確な情報にアクセスできるようにすることですね。設計変更や仕様の修正がある場合も、即座に情報を更新し、サプライヤと共有することができます。これにより、誤解や誤った情報によるミスを防ぎ、製品の品質を保証します。また、設計変更が頻繁に行われる場合でも、最新の情報が常に共有されるため、サプライヤが適切に対応することができます。
すべての図面や見積書が一箇所に集約されれば、関連する部門やサプライヤとのコミュニケーションが円滑になります。従来のように異なる部門で異なるバージョンの文書が存在することがなくなり、問い合わせや確認作業が大幅に減少します。これにより、調達プロセス全体のスピードが向上し、迅速な意思決定が可能になります。また、サプライヤとの交渉や調整もスムーズに行えるようになり、時間とコストの削減につながります。
●時間をかけず調達業務を効率化させるのが基本
見積書の一元管理により、異なるサプライヤからの見積もりを容易に比較できるようになります。これにより、最もコスト効率の高い選択肢を迅速に判断することが可能です。また、過去の見積データを分析することで、価格のトレンドや交渉のポイントを把握し、将来的な調達戦略をより効果的に策定できます。
まあ、そんなに難しく考えなくてもいいかもしれませんね。調達部門はモノを買う部門だから「この調達品の過去履歴は?」と訊かれたときに、さっとデータを提示するのがプロというもんでしょう。知っておくのが基本ですしね。それにCADDi Quote(https://caddi.com/quote/)のような手頃なシステムも登場してきました。
また、望ましいのは一元管理システムで、品質管理に関する情報も一緒に管理することでしょう。難しいんですけれどね。ただ基準をサプライヤと共有するのは意味がありますね。製品の仕様書や品質基準を一箇所にまとめれば、サプライヤがこれらの基準を確実に理解し、遵守するように促せます。品質問題の発生を未然に防ぎ、製品の信頼性を高めることもできるでしょう。また、品質に関するフィードバックを迅速にサプライヤに伝えることで、改善策を即座に講じることができ、品質の維持向上に寄与します。
●一元化による、隠れた二つのメリット
あと、私が思うには、あまり語られない利点があると思うんですよ。それはリスク管理の強化なんです。だって、同じ調達品なのに、あるいは類似品なのに過去の価格と乖離していたら、これは問題ですよ。株主から預かった金を無駄遣いしているといえなくもない。これもさきほどに紹介した同一企業のサービスでいえばCADDi Drawer(https://caddi.com/drawer/)といった簡単に履歴を照合できるサービスも登場しています。
また、サプライヤの評価や契約条件、過去のトラブル履歴などの情報を統合することで、潜在的なリスクを早期に発見し、適切な対策を講じることもできます。例えば、過去に品質問題が多発したサプライヤに対しては、より厳密な検査を実施するなどの対応が可能でしょう。
そしてもう一つがサプライヤとの関係強化のメリットなんですよ。なぜかというと、不信感は不透明さから生じるでしょう。透明性が高まると信頼関係が築かれます。それが、長期的な協力関係が構築されやすくなると思うんです。これは私の肌感覚からも正しいといえます。また、サプライヤは、自社のパフォーマンスが評価され、改善点が明確になることで、継続的な改善に取り組む意欲が高まります。また、サプライヤとの協力により、コスト削減や品質向上のための新たなアイデアが生まれる可能性もあります。
●業務一元化にデメリットはあるのか
ところで、業務一元化にデメリットはあるのか。デメリットというべきか、痛み、というべきか。もちろん業務を変えるのですから、軋みは生じます。当然のところからいえば、初期導入コストですよね。システムだったり、組織変更をしたりするわけですから。とはいえ、現在ではクラウドベースのシステムを利用することで、初期コストは過去ほどではありません。初期投資を抑えつつスケーラビリティに対応した柔軟なサービスがあります。
また、セキュリティの確保は心配点ですね。図面や見積書などの重要な情報を一元管理する場合、情報セキュリティの確保が不可欠です。システム導入にあたっては、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。例えば、データの暗号化、アクセス制御、定期的なセキュリティ監査などが考えられます。また、サプライヤとのデータ共有においても、セキュリティを確保するためのプロトコルを設けることが必要でしょう。
また、これが最大の障壁(笑)といってもいいでしょうが、トップの理解です。ほんとうは「(笑)」とつけるべきではないでしょうが、笑うしかないくらいトップが無理解の企業もあります。文化の変革ともいえるでしょう。従来の業務プロセスや慣習に固執する従業員に対して、新しいシステムの利点を理解してもらい、積極的に活用してもらうための啓発活動が必要です。これは、経営層のリーダーシップとコミットメントが重要な役割を果たします。経営層が新しいシステムの導入を強く支持し、その利点を強調することで、従業員の協力を得ることができますからね。その意味でトップの参画は必須といってもいい。
●調達業務の一元化を進めない場合に起きる状況
しかしながら、これまで数十年間、日本企業ではこの一元化がなかなか進みませんでした。だからこそ、これ以上は引き延ばせない、と冒頭での白書の叫びにつながったのです。この期に及んでも進めないならば、いよいよ欧米とのギャップを埋めることは困難になるかもしれません。
たとえばコストの増大です。工場ごとに個別の契約や取引が行われるため、スケールメリットを享受できず、調達コストが高くなります。これによりさらに欧米との差異が明確化するでしょう。大量に購入することで得られる価格交渉力が分散されてしまい、全体としてのコスト削減が難しくなるのですから。
さらに、業務の非効率性。各工場が異なるシステムやプロセスを使用することで、業務の重複や無駄が発生します。例えば、同じサプライヤに対して複数の工場から異なる要求が出されることや、異なるフォーマットでのデータ管理が必要になることが挙げられます。これは脱炭素化のアンケート、人権サプライチェーンの調査などを考えると、さらに欧米企業に後塵を拝することになるでしょう。何より、各工場が独自のシステムを使用することで、情報の一貫性が保たれず、誤解やミスが発生しやすくなりますからね。特に、設計変更や品質問題の情報共有が迅速に行われない場合、製品の品質に影響を及ぼす可能性があります。
私は冒頭で「日本企業は欧米企業と比べて利益率の差で大きく負けている。だけれども、大きな差といっても数%なんだ、と」書きました。この数%であれば、社員の創意工夫や仕組み、システムでじゅうぶんに埋められる数字ではないでしょうか。
それはもちろん、2024年「ものづくり白書」の熱いメッセージに共感するのならば、なおさらのこと賛同してくれるはずです。
*なお当原稿はCADDi DrawerとCADDi QuoteのPR原稿ではありません。確認したい場合は同社まで連絡を。