仮説:KN-24が火星11BならばKN-23は火星11Aである
北朝鮮の平壌で11日から開幕した国防展覧会「自衛2021」で、視察に来た金正恩総書記が記念集合写真を撮った際に、背後の大型画像モニターにミサイルの正式名称が表示されていました。
2019年に北朝鮮が発射したATACMSに形状がよく似た短距離弾道ミサイルが写っていますが(アメリカ軍が付与したコードネームはKN-24)、このミサイルは北朝鮮から正式名称がこれまで発表されていなかったので初確認となります。
「火星11B」=ATACMS擬き
表示されている朝鮮語の意味はこのようになります。
지상대지상탄도미싸일 (地対地弾道ミサイル)
《화성포-11나》형 (「火星砲-11나」型)
北朝鮮のATACMS擬きは正式名称が「火星11나」でした。
数字の11の右にある朝鮮語の文字「나」は発音をそのまま日本語で表記すると「ナ」、英語では「NA」になります。これはどのような意味があるのでしょうか? 記号的な意味がある筈です。
日本語の「イ・ロ・ハ・二…」に朝鮮語で相当するものが「가・나・다・라…(カ・ナ・ダ・ラ…)」になります。英語でいう「A・B・C・D…」です。
もしも「나(ナ)」が2番目の文字という意味なら、B型という意味が込められている筈です。同じような意味合いはMk.2、Mod.2、二型、改二、乙型…
- 火星11나
- 火星11B
- 火星11Mk.2
- 火星11乙
「나」はこのような意味合いであると想像できます。ここでは分かりやすく「火星11나」のことを「火星11B」とします。
ではKN-24(ATACMS擬き)が2番目の存在だとした場合は、1番目の存在は一体なんでしょうか? それはKN-23(イスカンデル擬き)だろうと推測できます。
予想:イスカンデル擬きは「火星11A」である
筆者は北朝鮮がATACMS擬きを初登場させた2019年に、技術的な要素を検証した上で「ATACMSのコピー品ではなくATACMSの皮を被ったイスカンデルである」という結論に至りました。
北朝鮮のATACMS擬きはATACMSではない(2019年9月4日)
この2年前の分析については、今回の国防展覧会「自衛2021」でATACMS擬きの操舵翼後方に突出したジェットベーン装着部を確認できたことから、答え合わせができたと考えています。
アメリカのATACMSはジェットベーンが付いていません。それなのに北朝鮮のATACMS擬きにはジェットベーンが付いている。つまり北朝鮮のATACMS擬きはATACMSではない。
KN-24(ATACMS擬き)がKN-23(イスカンデル擬き)からの派生型であるとするなら、火星11Bと火星11Aという関係になります。
《화성포-11가》형 (「火星砲-11A」型)
イスカンデル擬きの正式名称をこのように予想します。イスカンデル擬きの正式名称については現在まで北朝鮮からの公式発表はありませんので、筆者の想像による推定でしかありません。ですが他にも推定を補足できる要素があります。
北朝鮮の弾道ミサイル「火星」シリーズを並べてみると、イスカンデル擬きは何処に入るのか場所が見当たりません。ですがイスカンデル擬きが火星11Aだとするなら綺麗に番号順に収まります。
- 火星5・・・スカッドB
- 火星6・・・スカッドC
- 火星7・・・ノドン
- 火星8・・・HGV
- 火星9・・・スカッドER
- 火星10・・・ムスダン
- 火星11A・・・イスカンデル擬き(推定)
- 火星11B・・・ATACMS擬き
- 火星12・・・IRBM
- 火星13・・・ICBM(不採用)
- 火星14・・・ICBM
- 火星15・・・ICBM
- 火星16・・・不明
- 火星17・・・ICBM
イスカンデル擬きは開発順番はATACMS擬きよりも前になります。11軸22輪移動発射機の超大型ICBMが火星17と判明して火星16が空いてはいますが、開発順番的には11番以前のイスカンデル擬きに16番が与えられているとは考え難いでしょう。
火星12をブースターとして流用する極超音速滑空ミサイルの火星8が遡って命名されているように見える例もありますが、火星8についてはおそらく弾頭となるHGV(極超音速滑空体)の基礎的な研究が意外と早くから開始されていて、ブースターは流用品に過ぎないのでHGVの開発時期が命名の基準になっていると考えられます。
以上の技術的な要素と番号順の要素から、ATACMS擬き(KN-24)が火星11B(Hwasong-11B)であるならば、イスカンデル擬き(KN-23)は火星11A(Hwasong-11A)であると推定します。