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約4割の人は便秘かどうかを間違って認識している

加藤篤特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事
(写真:CavanImages/イメージマート)

排泄について学ぶ機会はない

「ヒトは寝て、食べて、動いて、排泄して、脳や体の活動が充実する昼行性の動物」と臨床睡眠医学を専門とする神山潤先生は言っています。

このうち、食と運動に関しては教育があります。食育は食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身に付けることですし、体育は生涯にわたって運動やスポーツに親しむのに必要な素養と、健康・安全に生きていくのに必要な身体能力や知識などを身に付けることです。

文部科学省の小学校学習指導要領を見てみると、「第9節 体育」の「G 保健」に関して、以下のような記述があります。

(1)健康の大切さを認識するとともに、健康によい生活について理解できるようにする。

毎日を健康に過ごすには、食事、運動、休養及び睡眠の調和のとれた生活を続けること、また、体の清潔を保つことなどが必要であること。

(2)体の発育・発達について理解できるようにする。

体をよりよく発育・発達させるには、調和のとれた食事、適切な運動、休養及び睡眠が必要であること。

以上をまとめると、食べることや運動することに関しては充実した教育が実施されていることが分かります。睡眠に関しては、個別の教育はないものの学習指導要領には「睡眠」という言葉が記載されています。何も学ぶ機会がないのが「排泄」です。

しかも、「排泄」は日常会話にほとんどあがりませんし、「排泄行為」は他人に見えない空間で行うことですので、日常生活において自分の排泄を他と比べる機会はありません。つまり、私たちは自分の排泄が良好なのか、そうでないのかを分かっていない、もしくは間違って理解している可能性があります。

そこで今回は、排便に着目し、便秘に対する理解について調べてみることにしました。

便秘だと自覚している人は実際にそうなのか

昨年のうんちweek(2020年11月10日~19日)の関連調査として、うんち記録アプリ(協力・ウンログ株式会社)の利用者を対象に実施したアンケート結果を紹介します(アンケートの詳細結果・PDFはこちら)。うんち記録アプリの利用者なので、日頃から自身の排便状態を気にしており、排便に関する情報に関心を持っている人達です。回答者3,000人のうち、女性が2,747人(91.6%)、男性が240人(8.0%)、未記入11人(0.4%)でした。

まず、自身を便秘だと思うかどうかについての結果です。「便秘だと思う」と答えた割合は全体の53.6%でした。年代別では「10代」(63.5%)が最も多く、年代が上がると若干減少する傾向にありました。

大人の排便に関する意識調査 実施・作成:NPO法人日本トイレ研究所 協力:ウンログ株式会社
大人の排便に関する意識調査 実施・作成:NPO法人日本トイレ研究所 協力:ウンログ株式会社

これに対し、実際に便秘であるかどうかを確認するために、次の6項目を提示して、あてはまるものをすべて選択してもらいました。『慢性機能性便秘症診療ガイドライン』掲載の診断基準(RomeⅣ)によると、これらの項目のうち2項目以上にあてはまると「便秘症」の可能性があります。

自然な排便の回数が、週に2回以下

4回に1回は、排便中に強くいきむ必要がある

4回に1回は、うさぎのようなころころしたうんち、または硬いうんちが出る

4回に1回は、排便しても残っている感じがある

4回に1回は、肛門が詰まっている感じ、またはうまく出せない感じがある

4回に1回は、肛門の周りを手で押したり、手を使ってうんちをかき出す必要がある

出典:慢性機能性便秘症診療ガイドライン2017(編集:日本消化器病学会関連研究会、慢性便秘の診断・治療研究会)南江堂にもとづき日本トイレ研究所が作成

この6項目に対して、選択された項目数をグラフ化すると以下のようになります。1つあてはまる人は38.7%、2つ以上あてはまる人は31.6%でした。つまり、便秘の可能性がある人は約3人に1人ということになります。

大人の排便に関する意識調査 実施・作成:NPO法人日本トイレ研究所 協力:ウンログ株式会社
大人の排便に関する意識調査 実施・作成:NPO法人日本トイレ研究所 協力:ウンログ株式会社

「便秘ではない」と思っている人の約2割は便秘の可能性あり

「便秘だと思う」と答えた人のうち、便秘症の診断基準に2項目以上にあてはまる人は44.5%だった一方、「あてはまるものはない」と答えた人は9.9%でした。また、「便秘だと思わない」と答えた人のうち、2つ以上にあてはまる人が16.8%でした。

つまり、便秘だと思う人のうち約半数は便秘じゃない可能性があるし、便秘だと思わない人のうち約2割は便秘の可能性があります。結果として、全体の約4割の人が自分が便秘なのかどうかを間違って認識している可能性があるということになります。

大人の排便に関する意識調査 実施・作成:NPO法人日本トイレ研究所 協力:ウンログ株式会社
大人の排便に関する意識調査 実施・作成:NPO法人日本トイレ研究所 協力:ウンログ株式会社

さらに、「便秘薬がクセになると思いますか?」という質問に対しては、約8割の人がクセになると回答しています。前述の「慢性便秘症診療ガイドライン」の作成委員を務めた味村俊樹先生(自治医科大学 教授)によれば、「糖尿病や高血圧でも、薬で血糖値や血圧が安定したのに、服薬を止めると数値がまた悪化しますよね。便秘の薬だけがくせになるというのは誤解です。もちろん、決められた量以上の便秘薬を自己判断で飲んでいる場合は別です。」とのことです。

詳しくは、味村先生の記事をご覧ください。

親子で間違った認識が引き継がれる可能性も

私たちは子どものころに排便に関する正しい教育を受けておらず、また、大人になっても正確な情報を得る機会がほとんどないため、排便に関して間違った認識をしている可能性が大きいと思います。さらに、排泄に関する知識の多くは親子で継承していくことになるため、間違ったまま引き継がれてしまいがちです。

どういうことかというと、親が週1回排便することが普通であれば、子どもが同じ排便回数であってもそれを普通と思いますし、毎回の排便時にお腹が痛くなるのであれば、それを正常と思ってしまいます。どのような便の形状がよいのかも分かりません。

排便は、体の健康状態をあらわすバロメーターです。便秘になるような食事や生活習慣を維持することは好ましくありません。

新型コロナウイルス感染症により、おうち時間が増えている今だからこそ、ぜひ自身の健康や生活習慣を見直すうえでも、排便に関する正しい知識を確認してみてください。日本トイレ研究所では、うんちに関する情報をまとめたサイトも作成していますので、参考にして頂ければ幸いです。

特定非営利活動法人日本トイレ研究所 代表理事

災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINE(http://toilet-magazine.jp/)を運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。書籍:『トイレからはじめる防災ハンドブック』(学芸出版社)、『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)など

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